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31話 転生者の会話

迷宮に似たつくりの盗賊のアジト。


ひんやりと冷たい風が通り抜け、薄暗い石畳に移る松明の影は、見慣れない私たちに興味を示すかのようにゆらゆらと揺れる。


牢屋へと続く道は、どうやら好んで通るものも少ないらしく。


私たちはそれ以降盗賊の仲間たちに出会うこともなく、先ほどの盗賊が教えてくれたお頭という人がいる派手な扉の部屋を発見する。


「……確かに派手だな」


「すごい……キラキラだわ」


豪華絢爛……というべきか、装飾過多というべきか……黄金色に輝き、表面に宝石をちりばめたつくりの扉は、誰がどう見ても派手な扉であり、それがお頭と呼ばれる人の部屋の扉であることがわかる。


盗賊のアジトという先入観から来るのかもしれないが、おそらくこの扉の向こう側にいる人間は自己顕示欲の塊のような人間なのだろう……。


「うん、言うまでもないと思うけどそこにお頭って人は確かにいるだろうね……とてつもなく大きい魔力が扉越しに観測できるよ」


局長の念押しに、私たちは一つ息をつく。


「牢屋の鍵はここにあるってことだが……」


「ナイトさんなら、牢屋破壊できそうですけど」


「ものによるな……ただの牢屋なら問題はないが……ここはストレンジアの作った陣地だ、牢屋がストレンジアの作ったものであれば、俺であっても破壊はできない」


ナイトさんは少し難解な言い方をするが、とりあえずはもしかしたら壊せないかもしれないということだろう。


「ふむ、となると正直に鍵を使うのが正解のようだけど、乗り込むわけにもいかないね。 相手が本当にストレンジアだとしたら、戦闘も派手なものが予想できる。 巻き込まれる可能性は大いに高い……。 さっきの盗賊の言葉の通り、様子を見て鍵を盗み出すのが一番だよ」


局長の言葉に私たちは互いにうなずきあう。


捕まった人たちの安全を考えるのであれば、その判断は妥当だろう。


「となるとだ、お客人ってやつが帰るまで待ったほうがよさそうだよな」


「そうですね……無駄な戦いをする必要はありませんから……ナイトさんもそれでいいですよね」


「一人も二人もそんなにかわら……」


「いいですよね?」


「……はい」


私とアッガスさんの言葉に、ナイトさんも快く承諾をしてくれ、方針は固まった。


「……だんだんと彼の扱いに慣れてきたみたいだね、サクヤ君……」


「ちょっと何言ってるかわからないですね」


局長はよくわからないことを言っているが、いつものことなので放っておこう。


「……できりゃ中の様子も知りて―が」


「それなら、偵察用の召喚獣を飛ばしますよ……特に準備がなくても、それぐらいなら私でも呼び出せるんで」


「……そうか、そうなったら全員で中の様子を盗み見ててもしょうがねえ、二手に分かれよう。中を見るのはは嬢ちゃんと護衛用にナイトがいればいいな?」


確かに、偵察をするのに大人数でする意味はない……情報の精査や確保は局長とサポートの騎士団たちの得意分野であるし、盗み聞きする人数は多ければ多いほど発見される危険性も高くなる。



「わかりました」


「異論はない」



わたしとナイトさんはほぼ同時にそう返答をし。それに少し遅れるように。


「私は? 叔父様」


ミアちゃんはアッガスさんに問いかけると。

 

「エルフ族が全員一か所に閉じ込められてるとは限らねえからな、俺と一緒に来い。なに、ストレンジアがいなきゃそれぐらいは容易いさ」


アッガスさんはそう答える。


まだ小さい彼女にとって、二人だけで盗賊のアジトを歩くということに不安を覚えるかともと考えたが。


「わかったわ叔父様」


ミアちゃんは納得したように弓を手に取り、力強くうなずいた。


                       ◇


「君が話してくれた報告は大体わかったよ……この僕に忠告だなんて生意気にもほどがあるけど、でも興味深い話だったからね……一応感謝はしておく」


まるで自己顕示欲の塊のような場所……。金銀財宝に、奴隷にしたワーウルフ、ドワーフ、エルーン様々な種族の女性に囲まれた、龍の頭蓋骨で作られた玉座のような場所で、お頭……そう呼ばれる男は机に脚をのせてそう客人に対し感謝とは思えない感謝の言葉を漏らす。


対談中なのだろうが、その机には羊皮紙やメモの代わりに、酒の瓶や星肉など、彼に合わせた嗜好品が散乱しており、口を開けると女性たちは食べ物や酒をその口へとかいがいしく運んで行く。


一見すると、介護されているようにも見えなくはないが……彼にとってはそれが当たり前であり、自らの力を誇示する方法なのだろう。


どちらにせよ、おおよそ誰かと会話をするような部屋ではないと、一般的には考えられる部屋ではあるが、しかしながら、男にとってはこの光景こそ自らにとって理想的な対談の場所であるらしく、目前の客人に遠慮することなく淡々と己の権力を誇示し続ける。


「……我等も現在、あの謎のポータルを調査中ゆえ……追ってまた連絡をするかと」


その玉座と対面にいるのは、槍を持った竜のような装飾をされた鎧を着た男。

黒色の鎧は刺々しく、松明の光を鈍く反射させている。


武人然とした喋り方に、見るものすべてに美しいと感じさせるほどにまっすぐ伸びた背筋。


なによりこれだけ特殊な歓迎のされ方をしているというのに、不満を一かけらも見せることなく淡々と報告をする姿はもはや机を隔てて別世界が広がっているのではないかと思わせるほどだ。


そういう意味では、机を挟んで語り合う二人はまったくもって対照的であり、だからこそ対話は円滑に進んでいた。


「あぁそうだね……だけどそんなに気にすることなのかい? 新しいポータルが発見されるなんて、珍しいことでもないだろうに」


「それ自体はさほど問題ではござらんが、問題なのはそのポータルがこの世のものによって改造されていたということなのだ」


「……ロストマジックの形跡があったって話だろ? 僕はこの世界の歴史になんて興味はないけど、千年前……先代勇者がいた時は、もっとましなモブがいたって聞いてたけど?それこそ、勇者がある程度苦戦を強いられるほどにはね……」


そういうと、お頭と呼ばれる男は、近くにいた奉仕用の女の首をまるでペットかのように優しくなでる。


女は抵抗する様子もおびえる様子もなく、媚びるように喉を鳴らした。


「……悪趣味な」


ぼそりと、槍を持った男は小さくつぶやいた。


「何か言ったかい?」


「いや……苦戦とは言えないだろう……あくまで【善戦】だったというべきだ。先代勇者たちは結局誰一人欠けることなく魔王討伐を果たしたのだからな」


「まぁそれはいいよ……で? 結局君たちは何を危惧してるわけ? 結局そのロストマジックってのも破壊したし、内容も僕たちと同じプレイヤーを召喚するための者だったんだろう?」


「左様……だが、問題なのはその奥だ」


「あぁ、君が負けたっていう夜の太陽ってやつ? ふざけた名前だよな……」


「あの男は間違いなく……自らをこの世界の人間の従者と名乗っていた」


「はっ……酔狂なやつがいたもんだ」


「笑いごとではない……あのポータルにプレイヤーを使役する方法が隠されていたのだとしたら」


「考えすぎだよ、今までにだっていたじゃないか、NPCに情が移った奴なんて……」


「だが、夜の太陽がわれらに敵対をしているのは事実だ」


「気にしすぎだよ……大事になんてなるはずがないさ、それに敵対したところで騎士なんてジョブを使ってるやつ恐れる必要はないよ……あぁごめん、負けたんだっけ君」


くすりと男は笑うと、それにつられるようにそばにいた女性たちもくすくすとつられるように笑い声を漏らす。


明らかな挑発であったが、男はその挑発に乗ることはなく淡々と言葉を続ける。


「……奴は冠位剣グランドを持っていた。あれは紛れもない、本物だった」


「……一杯食わされたんだよ君は……槍兵は、最弱ジョブの騎士ナイトが有利をとれる唯一といっていいジョブだ……剣の見た目だって魔法である程度は変えられるんだ……冠位剣グランドにそっくりな上級装備……それが真実だよ……最も、君が負けを認めたくない気持ちはわかるよ……相手が本当に冠位剣グランドを保有していたなら、負けた理由には十分だからね」


「……これ以上は聞く耳持たぬか……」


「騎士は初心者が使う扱いやすいだけの職業さ……。完全上位互換といわれた僕……【忍】の前じゃ手も足も出ないだろうよ……現に僕を含めたワールドランカー上位100人のうち53人は【忍】だったんだから……最強のジョブは忍ってわけ、それに比べて騎士は3人しかいないんだ……君だって僕と同じワールドランカーなんだろう? だったら知ってるはずだぜ?」


「あぁ……そうだな……ソニックムーブ」


「……その名前は止めてくれよ……そんなダサいハンドルネームを名乗り続ける必要はないんだ……僕たちは選ばれた存在なんだからね」


にこりと笑うと、男は立ち上がり、酒を飲み干す。


「さて、話が過ぎたようだね……君も報告があるんだろう? 部下に送らせるよ、それともこっちのペットを一人二人お土産で持たせようか?」


「……結構だ。 あいにくと某が求めるのは天上に届く槍の業のみ……女などに現を抜かすつもりはない」


「固いなぁ……まぁご自由にって感じだけど……僕は人の思想は尊重するんだ」


「そうか……ではまた国崩しの時に、くれぐれもエルフ族には……」


「わかってるよ、部下には指一本触れさせてない。 君たちの作る国で、薬を作らせるんだろ? それには賛成だからね……エリクサーを恒久的に生産できるのは僕たちにとっても有意義だからね……奴隷にしちゃうと従順で可愛いけど、スキルも知能もなくなっちゃうからね……ほんとNPCって不便だよねぇ」


「……では……生きていたらまた……」


そういうと男はちらりと、壁際の隅に視線を移し、鼻を鳴らす。

「……大げさだな本当に」


そんな槍兵の態度が気に食わないといわんばかりに、隠すことなく男は舌打ちを漏らすと、見送りをすることもなく再度酒瓶に入った酒を飲み干した。


パタリ……と悪趣味な扉を閉め、槍兵は盗賊のアジトを見回し含み笑いを浮かべる。


「……ここも終わりか……まぁ、つぶす手間が省けたか……」


そう呟く言葉は誰にも届くことはなく……少し歩調を速めに、男は盗賊のアジトを後にするのであった。



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