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25話 希望の光


「私の村に、異変が起こったのは……私達が竜神様に大岩を捧げに行った後」


その後、局長も戻り、少女も元気を取り戻したということで、私たちは引き続き少女から村に何が起こったのかを聞くことにした。


衰弱から立ち直ったとはいえ、エリクサーであっても心の傷まではいやせない。


本来であれば時間をおいて聞くのが正しい選択であり、少女に対し酷なことを迫っていることを理解しながらも……真っすぐに私たちを見据えてくれる少女の勇気に私たちは甘えることにする。


「……あの巨体の餌運びを君だけで?」


ミアちゃんの言葉に、疑るようにつぶやく局長。 確かに、あの巨体が満足するだけの大岩を彼女の力だけで運び出すというのはにわかには信じがたい。


しかし。


「私だけじゃなくて、その……私のお友達のアリサと一緒にお仕事をしてたの……大岩は、私が魔法で軽くできたから」


そういうと、一つ少女はぼそりと呟くと、手に持っていたカップから手を放す。


と、カップは落ちることなくふわりふわりと宙に浮かぶ。


「なるほど、その魔法はゼログラビティか……重力魔法とはまた随分と渋い魔法を習得しているな」


「……当たり前のように使ってるけど、それもライトニングボルトと同じ第四番魔法だね……エルフの村は全員当たり前のようにその魔法を使うのかい?」


局長はあきれたように、呟くがミアちゃんは首を左右に振り。


「いいえ、私だけ。 村長さんは、私が勇者様に愛されてるからだって言ってたけど……でも、私愛されてなんかない……こんな魔法つかえても、みんなを守れなかった」


ぎゅっと自分を責めるように手を握りしめるミアちゃん……。

「自分を責めるんじゃないよ……何が、あったんだい?」


ルインさんは優しく肩に手をのせてそう呟き。ミアちゃんは話を続ける。


「……毎日のお仕事を終えて、二人で村に戻ると……村はいつも通りだったわ。 煙突からは煙が出てて、おばさんが作るクルミのパンの匂いが村中にあふれてた……。私は、友達のアリサに……おなかすいたねって言って……手を引いたら……アリサがその場に崩れ落ちたの」


「……し、死んでしまったんですか?」


私の言葉にミアちゃんは首を振る。


「ううん……寝てただけ。 でも変でしょ? さっきまで一緒にお花を摘んだり、走っていたのに……いきなり寝てしまって……。私怖くなって、慌ててセネルおばさまを呼びに行ったの。セネルおばさまは村で一番お薬に詳しい人だったから……でも、セネルおばさまの家にはいったら……」


カタカタと体を震わせるミアちゃん……そこで何があったのかは語る必要もなかったが。


「……そのセネルという人も……眠ってしまっていたんだね?不自然に」


そう局長は、話の続きを促すようにつぶやくと、ミアちゃんの震えは収まり話の続きを始める。


「……ええ、薬箱を手に持ったまま床で眠っていたのd。ほかの大人たちに助けを求めたけど……みんな、みんな……眠ってしまっていた。おかしいって思ったわ。そして同時に……みんなが誰かに何かをされたんだって思ったの……でも、村の戦士たちはみんな狩りに出かけてて、戻ってくるのは夕方を過ぎてから。 だから私……怖くておうちのベッドの下に隠れたの……お母さまから、怖い人が来たらベッドの下に隠れなさいって、言われてたから」


「懸命だねぇ……そのあとは? 覚えているのかい?」


「……大きな音がしたわ……怒鳴り声や、笑い声……聞いたことのある声もあればない声も……地響きも何かが燃えるような音も……でも……その音もしばらくしたら止んで、怖かったけど外に出てみたら……もうそこには誰もいなかった……全員あの人たちに……連れていかれたの……それで私そのあと……」


そこでミアちゃんは言葉を噤んだ……カタカタと肩を震わせる少女……。


見た目は私と同じ背丈の少女であるが、エルフ族の中ではまだ子供……その恐怖は計り知れない。


「おそらく、村の者達を眠らせたのは【クレイドル】という魔法だろう。第四番魔法で……第四番魔法以上の魔法を使えるもの以外を眠らせる魔法だ……」


「なるほど、だからミアちゃんだけは平気だったんだね? でも、第四番魔法を使える人間なんてそれこそ稀だ……つまりは」


「論理的に考えて、エルフ族の誘拐はストレンジアの犯行と考えるべきだろう。アーリーやマスターが言う通り、この世界で第四番魔法が大魔法と呼ばれるものであるならば……【クレイドル】の魔法は不可避の眠りの呪文ということになるからな。魔力の節約にもなる……捕縛に使用するならうってつけだ」


ストレンジアがかかわっているという言葉に、私は意外にも驚かなかった。


それは私がストレンジアという存在に慣れてしまったのか。


それとも、なんとなくそんな気がしていたのかどちらなのかはわからなかったが……私は比較的に冷静にその事実を受けれ入れた。


「ストレンジア……まさかこんな短時間でこれだけ奴らがかかわる事件に巻き込まれるとはね……サクヤ君、君は呪われでもしているのかい?」


「知りませんよ……」


局長の呑気な発言にもはや怒りすらわくことなく私はあきれてそう呟く。


ストレンジアという言葉を、当然ミアちゃんも知っているのだろう。


自分たちの家族を襲った人間が、異世界からの超常なる者達であったと知ったミアちゃんは瞳から光が消える。


だが。


「呪われているかはさておいてだ……まずはエルフ族の救出が優先されるだろう。奴らがなぜエルフ族を襲ったのかも気になるし……俺たちがここに飛ばされた理由もわかるかもしれない」


ナイトさんは初めてミアちゃんの頭を優しくなでてそう言い、ミアちゃんはその言葉に再度瞳に光がともる。


だが。


「ちょっ!? ちょっと何を勝手言ってるんだいあんたたち!」


ギルドマスターであるルインはあわててナイトさんの言葉を止める。


「なんだ? ほかに優先すべきことは見当たらないが」


ナイトさんは首をかしげてルインさんにそう問うと、ルインさんは必死になってそう私たちを止める。


「いやいや、大いに問題ありすぎだよあんたたち!? わかってるのかい? 相手はストレンジアなんだ。それも村の人間を一晩で全員運び出しちまうほどの大人数さ。 お前たちも知っているだろう? ストレンジアの恐ろしさを! 確かに、地竜を手なずけたのはすごいさ! だけどそれとこれとは話が違う!? 隣の国のギルドにも協力を仰いで!?連携しなきゃならない!?場合によっちゃ騎士団もね! そんなすぐには冒険者は集められないよ!それとも何か? このアルムハーンを丸裸にしろっていうのかい?」


そう叫ぶギルドマスター。 彼女の言い分もわかる。 


相手が複数のストレンジアであれば、こちらは何倍もの兵団をそろえて挑まなければならない。だが、そんな兵力がないのは先ほどのイワンコフさんが来た時の例を挙げれば一目瞭然であり、当然のことながら隣の国のギルドを合わせたとしても数は足りない。


同盟国中のギルド、場合によっては騎士団総出で居場所をたたく……それだけやって初めて……討伐をできるかできないかぐらいのレベルだろう。


だが、それは……。


「それは……それにはどれぐらい……かかるの?」

すがるようなミアの言葉。しかしその純粋な言葉にルインは押し黙る。


答えは残酷で、私たちもその答えを出すことができずにいるが。


「当然……そんなリスクを負ってまで、ほかのギルドも国も……兵を出さないと知ったうえでの発言だな……ギルドマスターよ」


ナイトさんはその言葉を迷うことなく告げる。


「!? そんな」


ひどい話はあるのか……そう叫ぼうとミアちゃんは口を開くが。


「……まぁ妥当な判断だろう。 この世界にとってストレンジアは一人一人が災厄に近い存在だ……レベルの差を鑑みれば、おそらくそれだけの兵力を駆使したとしても救出ができるかは五分五分だろう。ギルドマスターとしてみれば、静観をするというのが正しい判断だ」


「妥当って……ナイト君!? もう少し言い方があるだろう!」


次第に瞳に光を失っていくミアちゃん。


その暴力に近い言葉に、局長は耐えかねるといわんばかりに声をあげてナイトさんの言葉を遮ろうとするが。


「現実から目を背けてなんになる……事実を伝えずに、希望だけを与えることのほうがよっぽどの拷問だ……助けを待ち焦がれ、お前たちを信じて毎日涙する少女の願いを踏みにじり、最後に家族の亡骸に直面したこの子の前で、お前たちは【頑張ったけど助けられなかったよ】とそう語るのか?」


「それは……」


「どう取り繕ったところで、救出隊はギルドよりは出せない……それが事実だ」


現実を突きつけられる私たち……。


ミアちゃんは言葉なくその場に目に涙を浮かべて私たちを見る。


違うよね? と。


だが……その言葉に首を縦に振ることはできない。


なぜか?


だってそうだろう……どう足掻いたって私たちは、ストレンジアには勝てないのだ。


ミアちゃんだけではない。 その場にいた全員が、知っていながら識りたくなかった事実を叩きつけられ絶望する。


だが。


「……もっとも、この至高にして最強の騎士がいれば……話は別だがな」


その絶望の闇のふちに……夜の太陽は光り輝き、私を見る。


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