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21話 エルフの幼女

「……局長! 見失わないようにモニターを!」


「了解だサクヤ君! でも、あまり離れすぎると探知から外れちゃうから、気を付けてくれよ!」


「分かってますよ!」


ぴょこぴょこと小さな影ははねるように逃げていき、崩壊した集落の中を真っすぐに走ると、やがて崩壊した集落の中でも破損の少ない家の中へと入る。


「ま、まって!」


慌てていたのか、鍵が閉まる音は聞こえず、私はあわてて扉を開く……が。


「まずい……待てマスター!」


扉を開くと、目前にあるのは……弓を構えた少女の姿。


その金色の髪に、整った顔立ち……そして長い耳。


「エルフ族……!?」


「サクヤ君!? よけるんだ!」


少女が持つ瞳は追い詰められたウサギの瞳ではなく、獲物を罠にかけた狩人の瞳。


「まって!? 私は貴方を……」


助けに来た……なんていう緩慢な言葉は間に合うはずもなく、迷うことも戸惑うこともなく、その手から矢は離れ私へと走る。


「あっ……死んだ」


つい先日も同じような光景を見た気がする……なんて感想を漏らすころにはすでに矢じりが目前にまで迫っており、私は情けない最後の言葉を残してこの世におさらばをする……。


「まったく、間一髪だな」


「ぐえっ」


ということにはならず、矢じりが私に刺さるよりも早く、私は服の襟を掴まれて後ろに引き寄せられ、倒れるような形でナイトさんに抱きかかえられる。


助かったからよかったが、あまりにも強い力で引っ張られたため、一瞬意識が飛んだが……

依然ちかちかとする目で、何がどうなったのかを確認すると。


放たれた矢は、ナイトさんにより掴まれ動きを止めていた。


「それ、止めちゃうんですね」


あの距離の弓矢を素手で止めるなどもはや人間業ではなく、私はそうあきれたような感想を漏らすが。


「気を抜くのはまだ早いぞサクヤ君!? 矢じりから毒性の反応……触れたら痛いじゃすまないぞ!」


「ドっ……!?」


青ざめるよりも早く、狩人は弓矢を止められたことに驚くことなく。冷静に冷酷に第二射を放ち命を狙う。

だが。


「弓の腕はいいが刺さらんぞ」


放たれた矢を、ナイトさんは今度は掴むのではなく、人差し指で受け止める。


弓矢と指の腹……普通であれば指のほうが貫かれ吹き飛ばされるのが自然であるが。


ナイトさんの人差し指へと走った弓矢は……指に刺さるどころか、まるで鋼鉄の塊にぶつかったかのように粉々に砕け散る。


「そんな!?」


「なんでもありなんだね君って本当に!?」

「俺の体はレベル50以下の攻撃は受け付けないからな……雑魚の群れをとんぬらするときに大変便利だ」


「……そんな!?」


レベルというものが何なのかは私にはわからないが、それでも弓矢程度はナイトさんには通用しないという事実に、私は驚愕をしつつも。


「!っ……だったら」


エルフの少女もその事実を受け入れたらしく、すぐさま弓矢を捨て。


「っライトニング!! ボルト!」


「むっ!?」


稲光を光らせ魔法を放つ。


「だ、第四番代魔法!? 逃げるんだナイト君!」


走る雷光は比喩ではない本物の稲妻であり、一直線にナイトさんへと一撃を放つ。


もはやただの人間に放つ威力ではない大破壊。


巨木も巨岩さえも穿ち砕くその雷撃が、弓矢の数百倍もの速度でナイトさんへと走る。


まごうことなき大魔法。


恐らく、王国騎士団の魔術研究局の人間でさえも使えるものは数名程度であろう魔力の稲妻を、小さきエルフの少女がナイトさんに向けてはなったのだ。


だが。


「ふんっ!」


その一撃でさえも、ナイトさんは片腕を振るい霧散させる。


「嘘ぉ!?」


その光景に、私は思わずそう声を上げる。


だってそうだろう。目の前で雷そのものをこのナイトさんはハエでもはらうかのように霧散させたのだから。


「君、本当に人間かい? それ本物の雷と変らない破壊力のはずなんだけど」


「なにを異なことを……ナイトが雷ごときで死ぬはずがないだろう」


「多分君だけだと思うなぁ」


局長の言葉に私もうなずくと、ナイトさんは。


「そうなのか?」


なんて声を漏らして再度雷を放った主の方に視線を戻す。


「はあ……はぁ……な、なん……で?」


驚愕と疲労が入り混じったか細い声が雷の鳴り響いた部屋の中に残響のように響き。


同時に糸が切れた人形のように少女の体は崩れ落ちる。


「あっ!?」


その姿に、私はナイトさんの手を離れて少女を抱き上げる。


軽く、まるで紙粘土で作られた人形のような少女は、私よりも背は高いというのに……おおよそ重さが感じられないほどやせ細っていた。


「……死んだか?」


ナイトさんの言葉に、私は呼吸を確認すると、細く、しかししっかりとした少女の吐息が聞こえる。


「……生きてます……弱ってるけど」


「ふむ」


「見た目からして20……1,2歳の女の子だね、エルフ族からしてみればまだ小さな子供だよ」


「すごい痩せてます……栄養も足りてないし、こんな体であんな大魔法を使ったら」


「ふむ、ライトニングボルトが大魔法か……よくわからないが、、とりあえずはこの村がこうなった原因ではなさそうだな」


まるで真綿でくるむように、そっとナイトさんは少女を抱き上げてそう呟く。


「うん、そして僕たちを見て逃げたってことは、この村がこうなった理由を知っているということだ」


「ならば……場所を移そう……ここでは目を覚ましても体を休められる場所がない……まずは体を癒さねば……話も聞けないだろう……」


「サクヤ君のお腹も鳴る一方だからね」


「一言余計です局長」


「こりゃ失敬」


「ふむ、それでアーリー、お前の旅行記には彼女はどこに連れて行けば安心できると書いてある?」


「ははは、君も冗談を言うんだねナイト君。当然のことながらそんなピンポイントな旅行記は書いてないけど、連れていくべき場所は僕にだってわかるよ。 ギルドに連れて行くの がいいだろう。あそこはなんだかんだこの街の中心だ。 治癒術師もいれば、食事も休憩所もすべてがそろっている。 それにルインなら、彼女たちとの関りもあるはずだ」


「ほう、お前もまともなことが言えるんだな……アーリー」


「あらら、こりゃ一本取られたね。誉め言葉として受け取っておくよナイト君」


お返しとばかりにナイトさんはお礼の代わりに皮肉を漏らし。


局長は愉快そうにそうもらす。


……なんでだろうか、少し前から気づいてたけどこの二人やけに気が合うようだ。


「……あの、でもナイトさん、局長……ここからギルドまで、結構距離があると思うんですけど」


ここに来るまで、三時間以上はかかったのだ。


また同じ道を引き返すにしても、おそらく日が暮れてしまうだろう。


それならば、一度ここにキャンプを張って、彼女の回復を待つのも手の一つ……とも思ったのだが。


「なにを言ってるんだい? サクヤ君」


「ふえ? 何って……」


「そうだぞマスター……足があるだろう」


「……足?」


局長もナイトさんも……きょとんとした表情で私にそう言い。


同じように私もきょとんとしたまま……小首をかしげるのであった。

                    ◇


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