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1話 この世界は転生者に侵されている

 昔、私が小さかったころに、おばあちゃんが話してくれたおとぎ話がある……


「昔々……世界に突如として闇の魔王が現れ、世界を闇で覆い恐怖に包み込んでいった。この世界にいるすべての人間と王様は、魔王に立ち向かうべく戦いを挑んだが、いかなる武器いかなる策略をもってしても魔王を打ち倒すことはかなわなかった。日に日に力を増していく魔王、そして増えていく魔物の群れに困り果てた王様は、この世界の外側にいる【勇者様】そしてそれに連なる英雄たちに……助けを求めることにした。異世界に住まう勇者そして英雄たちはその呼びかけに応え姿を現し……神により与えられた【御業】を用いて、魔王軍を打ち滅ぼしていき、【勇者様】は魔王を千年の眠りにつかせることに成功し仲間とともに元の世界に帰っていった……じゃが今その千年は過ぎ去り、魔王はその力を取り戻した……」


「そんな……私たち、どうなっちゃうの?」


「案ずることはないよ、サクヤ。王様はすでに盟友の契約によって、勇者様と英雄たちの召喚に成功をしたからね……」


「勇者様が魔王をやっつけてくれるの?」


「あぁそうさ。異世界からの転生者様と共にこの世界はある。だから、サクヤは彼らを助けになるために頑張るんだよ」


「うん! 頑張る!」



おとぎ話を聞いた次の年、おばあちゃんの言葉の通り勇者は魔王を倒した。


そして。




その翌日に、勇者は自らを召喚した国を滅ぼした。




祖母の話は嘘ではなかった……確かに魔王は倒された。

だけど、その続きをおばあちゃんは語ってくれなかった……。


魔王が倒された今……それを超える脅威、余所者ストレンジアたちは今日も……我が物顔でこの世界を侵食し続けている。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「はぁ!はぁ!はぁ!」


息を切らし、目に涙を浮かべながら、私はダンジョンの中をひた走る。


「ついてない、ついてないついてない!?本当についてない!」


 安全な仕事のはずだった。


 先週の大きな地揺れにより現れた古代遺跡……そこの調査のはずだったのに!?


「なんで、なんでなんでこうなるのよぉ!」


 乾いた迷宮の中を走りながら私は悲鳴を再度反響させて、背後から迫る追跡者の魔の手から逃れるために出口などない迷宮の袋小路へと陥っていく。


「落ち着くんだサクヤ君! 冷静さを欠いたらそれこそ終わりだ……冷静に、落ち着いて、考えて……何とか倒せたりしないかい?」


 通信用の魔法により、役に立たない上司げんきょうのたわごとが耳元で響き、恐怖よりも殺意が沸き上がる。


「よくそんな寝ぼけたことが言えますね局長!? 相手はストレンジアですよ!ストレンジア! 倒せないから逃げてるんですよ!」


 後ろを振り返ると、そこにはどこかぎこちない足取りでこちらに向かう人間が一人、まだ体がうまく動かないのか、壁にぶつかったりあらぬ方向に視線を向けたりしながらも、こちらを追いかけてくる。


 装備は麻の服、手には一本のなんの変哲もないロングソード。


 見た目はただの浮浪者であり、装備の質でいえばどれも私の身に着けているものの足もとにも及ばない……だが、それだというのにあの男はつい先ほど、冒険者ギルドの精鋭二人をたやすく屠ったのだ。


『えーと……ダンジョン探索は罠や魔物が潜んでいます……ですが平原よりも良いアイテムを手に入れられます。へぇ……』


 不可思議な言葉をぶつぶつとつぶやきながら、不気味な動きでこちらに向かう存在。

 異様な恰好と力……異常性……そしてなにより彼の持つ独特な雰囲気。それだけでもう、あの男がこの世界に生まれた人間ではなく異世界からの転生者……ストレンジアであることが分かってしまい、本能的に危険であると体は理解しているというのに何度も何度も警鐘を鳴らす。


「はぁぁあ、もう最悪! 本当についてない! だいたい局長が……」


 そう、私はさらに続けて局長に対し罵詈雑言を並べようとするが。


「だめだ!? サクヤ君!!」


「へっ?」


 私の言葉は局長のそんな悲鳴に近い叫びに遮られ、同時に。


カチリ……。


あ、死んだ。



 お決まりというか何というか、そんな乾いた音が響き渡り、同時に前方からものすごい勢いで弓矢のようなものが私めがけて走る。


「きゃあ!」


 もはや回避は間に合わず、ぎゅっと固く目をつぶりその死に備える。


 風切り音が走り―――


 ―――しかし痛みは訪れない。


 ―――――ザクリ――――


 代わりに肉に矢が刺さる鈍い音が遠くで聞こえた。


「へ?」


 目を開けて振り返ると、そこには頭に罠の弓矢が刺さったストレンジアの姿。


 どうやら、弓矢は私の頭上を通り抜け、背後のストレンジアに襲い掛かったらしい。


 体がうまく動かなかったせいだろう、その矢を避けることができなかったようだ。


「ミニマムサイズで助かったねサクヤ君!」


「余計なお世話です! まだ伸びますから!」


 局長の余計な一言に私はまた苛立ちながらも、私は自らの幸運に胸をなでおろす。


 いかに神の御業を持った存在だからとはいえ、頭に矢が刺さって死なないわけが……。


「……あー……痛った……なるほどね、敵が踏んだ罠も起動するのね……」


あった。


「ななっ!? なんなんだあの生物は! 完全に弓矢は頭蓋を貫通してるはずなのに!?」


「知りませんよ!?ああぁあもう!」


 喜びもつかの間、私は何事もないかのように再度走り始めたストレンジアにさらなる恐怖を募らせながらも、迷宮の深部へと潜っていく。


 どうしてストレンジアが頭蓋に矢が刺さっても死なないのかは知らないが……捕まったら死ぬ……それだけは分かるから。


「……はぁはぁはぁ!?」


 出口も、分かれ道も隠れる場所すら見つからない、一本道のダンジョンをさらに走ること数分。


 いい加減私のことを諦めてくれると嬉しいのだが。


「足の速い敵は、時折レアアイテムをドロップすることがあります……敵を倒すとソウルを吸収し体力が回復します……かぁ……薬草もったいないしなぁ」


 ストレンジアは依然私にご執心らしく、相も変わらず物騒だが理解などできない独り言をぶつぶつと繰り返しながら、延々と暗い迷宮の中鬼ごっこを続けている。


「その奥に扉……部屋があるよ!」


「部屋!?」


 ようやく、身を隠せそうな場所が現れたことに私は一筋の希望を見出し、体当たりをして扉を開く……。


 だが。


「そんな……」


 そこにあったのは、行き止まりの部屋。


 隠れる場所も、次の部屋へつながる扉も何もない……あるのは、台座に突き立てられたさび付いた巨大な盾が一つ。


「……普通こういうのは剣でしょうに!?」


 ストレンジア相手に、盾がいったい何の役に立つのか。


 私はそんな八つ当たりに近い不満を漏らしながらも、逃げ道はないかあたりを見回すが、目視では何も確認できない。


「局長!? 何か、抜け道とかないですか?」


 私はとっさに、藁にもすがる思いで局長に通信を行うが。


「―――ヤ!? ―――クヤ君!? -う――し……い!? ―――ヤ――!」


 響くのはノイズの音と、向こう側で慌てふためいていることだけは分かる局長の声のみ。


「つ、通信障害!? こんな時に!」


 もはやとどめといわんばかりに私は完全に退路も仲間との通信手段も立たれてしまい、絶望に青ざめる。


「……ダンジョンの最深部には、貴重なアイテムが隠されていることがあります……か、なんかさび付いた盾しかないけど……まぁ最初だからそんなもんか」


 背後から響く冷たい声、まるで何かを読み上げているかのようなそんなしゃべり方をする男の声に、私は振り向きその場にペタリと座り込んでしまう。


 近くにいるだけで震えが止まらず……全身が命を諦めた。

 息はもう限界で、心臓もこれ以上は無理だと泣き言を言っている……。


 それでも走っていられたのは、まだ生きられるという希望が一筋でも残っていたから。


 だが、そんな希望ももはやついえた。


「これが……ストレンジア……」


 戦う気にもなれないほど強大で……凶悪な力の塊。


「とりあえず先に、体力回復しておこう」


 すらりとロングソードを振り上げるストレンジア。


 その白刃に自らの顔が映し出される。

 

 なんて顔だ……恐怖に染まり、死にたくないと願っているはずなのに誰がどう見てもその表情は死ぬことを受け入れてしまっている。


 どうしてこんなことになってしまったのだろう。


 思えば、すべては王国騎士団に舞い込んだ一つの依頼が原因だった。


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