16話 ナイトさん、力を示す
「わっ!?わっ!? ふええぇ!」
「さ、サクヤ君がひとりでに浮いてるように見えるよ!? まさかここにきて飛行魔法を体得したのかい!?」
「どんなタイミングですかあほ局長! どこの世界にこのタイミングで浮遊魔法を体得する人間がいるんですか! 吊られてるんですよ、なんかの力で!」
局長の間の抜けた発言に私は必死に突っ込みを入れながらも、空中で暴れながら必死に抵抗をするも、魔法ではないらしく、対抗魔法を発動しても私の体が地面に落ちることはなく、私はなすすべもなく宙に浮いていると。
「……ブレイブを習得してもいねえ若造が……少々口がでかいんじゃないか?」
奥から現れたのは初老の老人。
「やめな、ゼン」
「いいや、やめないね……若造が粋がるのは仕方がないことだが、ここは冒険者ギルドだ……中立の組織であり、調和とバランス、そして自由を保つ場所……ガキが騒ぎ立てる場所じゃないってことを教えてやる」
会話から、彼が私を持ち上げている張本人であることがわかるが。
「魔力反応が感じられないな……スキルか?」
ナイトさんの言う通り、私を持ち上げる力に、私もナイトさんですら魔力が感じられない。
「ブレイブ……彼ら冒険者が操る特殊技能だね。手を触れずに物を持ち上げたり、破壊したり……熟練者は相手の心まで読むっていうけど」
「……ほぅ……興味深いな。だが見せ方は感心しない……力を披露するのは勝手だが、俺のマスターに無礼を働くのは賢くない選択だ……今すぐにやめて非礼を詫びなきゃ、お前は一か月病院で病院食しか食べられない体になるぞ」
殺意はないが、ナイトさんはそう警告を発する。 その発言すら相手を挑発しているとも気づかずに……そしてその空気の読めなさから私が巻き込まれているという事実に気づくことなく……。
「いうじゃねえか……後悔するなよ若造が」
「まったく、けんかっ早い若造どもだねえ。 おいやめときな騎士の坊や。ゼンはこのギルドでも十本の指にはいる冒険者さ……最高クラスの冒険者なんだよ?」
「もっとも、今更謝っても許してやらねえけどな!」
「……そうか、では力を示せば最高難易度のクエストをくれるんだな?」
「……まだ言うのね……はいはい分かったよ。勝てたらね。バカは痛い目見ないと分からないっていうけど、本当のようだね……外でやれって言っても聞かないだろうし、負けたほうが壊したもんを弁償だかんね」
もはやあきらめたとばかりにギルドマスターはそういうと、冒険者たちは二人の戦いのために場所を開け、私は二人の頭上でふよふよと浮いている。
……なんともシュールな光景であるため、戦う時ぐらい下ろしてほしいのだが……どうやらそれはかなわないらしく、私は仕方なくその戦いを見届けることにする。
まぁ、おそらくは一方的な戦いになるのだろうが。
「え、えーと……ナイトさん。わかってるとは思いますけど」
「安心しろ、殺しはしないさ。 主人公だからな」
「なんだか、僕は時々彼と会話が成立しているのか不安になるよ」
「珍しく意見が合いましたね……局長」
局長の言葉に私はそうため息とともに返答をすると、同時にゼンさんはナイトさんに向かい剣を抜いて切りかかる。
「安心しろ!! 両腕両足だけで済ませてやるよ!」
いかにもなセリフを吐きながら切りかかるゼン。
それに対しナイトさんは剣も盾も抜くことはなく、右手を前に突き出すと。
空中でデコピンをするように指をはじく。
「魔力解放……レベル1」
「ぼぐっふおおぉ!?」
――――――――――――――――――――!!
吹き抜けるは一陣の風。それと同時に、5メートルは離れていたはずのゼンさんは、まるで巨大なこん棒に殴られたかのように、机や扉を巻き上げて店の外まで吹き飛ばされ。
思い出すかのように遅れて轟音と、瓶や食器が割れる音がルインの酒場の中に響き渡る。
―――――――!!
「……今のは……ブレイブ?」
冒険者の一人がそう呟くが、それに首を振りナイトさんは
「そんな大それたものじゃない。抑え込んでいた魔力を一瞬、ほんの少しだけ放出しただけだ。戦術でも戦略でもない。ただのすごいデコピンだ」
何でもないというようにナイトさんはそう語り、その場にいた人たちのざわめきはさらに大きくなる。
ブレイブが切れたのか、ふわりと私は床に落とされる。
正直この大惨事にナイトさんに対して言いたいことは腐るほどできたが、ナイトさんのおかげでいろいろと上手くことが運びそうだ……。いささか不本意で、騎士団として誇れるようなものではないが今は現状の打開を最優先にしなければ……。
「あんたたち……一体」
「いったはずだ……至高の騎士……」
「じゃなくて、新米冒険者です。 約束通り、高難易度依頼を受けたいのですが」
ナイトさんのせいでいろいろといざこざはあったが、結果オーライ。
地道にコツコツ路銀を貯めようかと思っていたが、こうなってしまったらナイトさんの言う通り、高難易度クエストを受注してさっさとお金を集めてしまったほうが早いため、私は手のひらを返し、心底迷惑そうな表情をするルインさんに高難易度クエストを催促する。
「君もたくましいよね……存外」
そんな局長のあきれるような声が聞こえたような気がしたが……耳を傾ける必要はないだろう。