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15話 ナイトさんは空気が読めない


【ルインの酒場】


中に入ると、まず目についたのはたくさんの丸テーブルに、巨大な建物の壁一面の掲示板と所狭しと貼られたWANTEDと書かれた手配書の数々。そして耳に入るのは冒険者たちの野太い笑い声や会話の声に、その会話を彩るようにリュートやハープを持った音楽家たちにより奏でられる、どこの国のものだかわからない軽快な音楽。


豪華でも厳かでもない、乱雑とした印象を受けるそのギルドを一目見まわし、前方へ視線を戻すと、冒険者でごった返す人の中の間から、三つのカウンターが見える。


「あれが受け付けのようだな……それにしても、混んでいるな」


「それだけこの町には冒険者が集まっている。ギルドに力がある証拠さ」


「なるほど……仕事には困らなそうだな」


「とりあえず、受付に行ってみましょう」


カウンターには左から【報酬】 【食事】 【クエスト】とカウンターのプレートに大きく書かれており、お昼時だからだろうか、食事カウンターには大量の料理が並んでおり、赤い頭巾をかぶったギルドの受け付け嬢らしき少女たちが、鬼気迫る表情で両手に料理をもって縦横無尽にカウンターとテーブルをせわしなく行き来している。


「とりあえずクエストカウンターに向かうとしよう。マスター」


「そうですね」


ナイトさんの提案に私はうなずき、人ごみを避けてクエストカウンターにむかうと。


「へいらっしゃい! ようこそお客さん今日はどんな御用かな!」


快活でよく通る甘い声に呼び止められ、振り返るとそこにはメイド服を身にまとった褐色肌の少女が立っていた。


獣人族だろうか、身長は高く、その口元からは八重歯がのぞいており、髪の毛も独特な癖っ毛をしている。 


何より発育がいい……私よりかは一つ二つ年上だろうが、あれほどの体になれる未来が私には想像できない。


看板娘……という物だろう。 ほかの少女たちに比べ、それほど彼女は魅力的な女性であった。


「……クエストを受注しに来たのですが」


「ほぉ! 見ない顔だけど、遠くから来たのかい?」


「いいえ、実はついさっき冒険者になったばかりで」


「ほほぉ! となると新顔かい! いいねえ、命知らずは大歓迎さ。ようこそ冒険者! 地獄の沙汰もつながり次第! ルインの酒場へ! 案内するよ、ついてきな!」


快活な声を上げ、少女はそういうと、客の間を割って進んでいき、私たちはその後ろからついていく形で、カウンターまで案内された。


【クエスト】と書かれたカウンターまでやってくると、少女はカウンター前で振り返り。


「ようこそ! 私のギルド、ルインの酒場へ」


そう口を吊り上げて笑う。


「……え? 私のって」


その言葉に私はついついその言葉に聞き返すと、少女は愉快そうに笑みをこぼすと。


「あっはっは……私が小間使いのガキに見えたってか!いやはや嬉しいねえ!これでも300年は生きてるばあさんなんだけどね! まぁそれは置いといて、私がここのギルドマスタールインさ」


「えっ!? ギルドマスター?」


「ほう、ロリババアとはよく言ったものだ……もっとも、ロリではないが」


「ちょっ!? ナイトさん何言ってんですか!」


驚愕する私の隣でいきなり暴言を吐くナイトさんに私は慌ててその言葉を訂正させようとするが。


「あっはっは!まあ婆には変わりはないねぇ、まぁそれは置いといて、冒険者登録だろう?ここは仕事が有り余っちまってしょうがないからね!新参者は大歓迎さ。ギルドジュエルはあるかい?」


しかし、流石はギルドマスター、ナイトさんの失言も気にする様子もなく、私たちにギルドジュエルの提出を求める。


「あ、はい……ここに」


私はそう答えると、アッガスさんより預かったギルドカードという名の宝石を首から外し、ルインさんに渡すと。


「なんだ、あんたらアッガスのところの新米かい」


―――――ざわり―――――――


そう漏らしたルインさん……同時に、その言葉を聞いた冒険者たちの視線が一斉に集まる。


「……どうやら、アッガス君は相当の実力者らしいね」


局長がそっと私にした耳打ちでさえも、はっきりと聞き取れてしまうほどの静寂。


先ほどの笑い声やリュート、ハープの音は一斉に静まり返り……私はその変化におじけづきながらも……アッガスさん率いる冒険者クラン……悠久の風がいかに冒険者の間で名が知れ渡っている存在であるかを痛感させられる。


まぁもっとも、王国騎士団の要人護衛を任されている時点で、かなりの実力者であることは間違いないのだが……。


「……えと、そうなんです。先日アッガスさんに認められて……」


「それは期待できるねぇ……そっちのお兄さんは……相当鍛えられてるみたいだし……アッガスんところの人間なら疑うべくもないね、無理しない程度に好きな仕事を持っていくといいよ!」


そう笑いながら、ギルドカードを投げてよこすルインさんに、私は表情に出ないようにほっと胸をなでおろすが。


「そうか……ならこのギルドで一番難易度の高い依頼を受けようか」


すぐさまその胸から心臓が飛び出そうになる。


「なっなっ!? 何言ってやがんですかナイトさん!」


空気が読めないにもほどがある発言に、冒険者達の視線は殺意に近い敵意に代わり、同時にあきれたようなため息を漏らし。


「話聞いてたかい?」


と、くぎを刺すような視線を向けるが。


「……もちろんだ。自分の力量を推察した結果だ……俺はこの場所にいる誰よりも強い」


ナイトさんはけろりとした表情でそんなことを言い始める。


「ちょっ!? 空気を読みやがれってんですよナイトさん!?」

回りの視線は、新参者の妄言と流してくれるつもりはないらしく、刺すような視線が私とナイトさんを突き刺す。


私はその視線に追われるように、ナイトさんの肩を引っ張り自重をするように命令をするが、ナイトさんは首を傾げ。


「なぜだマスター。この冒険者ギルドで俺が最も実力のある至高の騎士であることは確定的に明らかだ。 ならば必然的に最高難易度のクエストを受けるのが自然な流れであるし、何よりも難易度が高いクエストをこなすほうが報酬も期待できるはずだ」


正論……正論ではあるのだが。


「た、確かにそうかもしれないですけど!?一応私たち新米冒険者扱いなんですから!?」


「???理解不能だ。他人は他人、自分は自分。自分のペースで歩んでいけばいいではないか、新米が熟練者を打倒できないという法則はこの世界には存在しないはずだが?」


すごいこの人、淡々と私にしゃべりかけながらこの場にいる冒険者全員に喧嘩を売っている。


「温和な人間だから敵が少ないわけではない……うん、人間ってのはままならないものだねぇ」


「局長は黙っててください」


「はい……」


他人事だと思ってのんきな発言をする局長を黙らせ、私はナイトさんの発言をどう取り繕うかと考えていると。


「マスター、まだ俺の力を疑っているのか? この程度のクエストで後れを取るような生半可なナイトではないぞ俺は」


もはやわざとやっているのではないかと思うほど、矢継ぎ早に他人をあおるような発言をかますナイトさん……それがおそらくすべて事実であり、ナイトさん自身には悪気も何もないと言うところが始末に置けない。


「ずいぶんな自信だねぇ」


しかし、周りからして見れば、新参者が大口をたたいているようにしか見えないその光景、先ほどまで太陽のような笑顔を見せていたルインさんも目が座り始め、気が付けば背後に巨漢の冒険者たちが腕を鳴らして並んでいる。


「な、ナイトさん!? まずいですって!後ろ、後ろすごいにらんでますから!?」


「ナイトへの羨望だろう、至高の騎士にあこがれるのは人として当然のことだ」


「前向きか!?怒ってるんですよ! ナイトさんが人を馬鹿にするような態度取るから!」


「失礼な……馬鹿にしたわけではない。 ただ事実を……」


依然自分の発言を撤回しようとしないナイトさんに、私は飛び蹴りをかますか否かを真剣に検討しだしたところで。


「もう我慢ならねえ」


近くにあったテーブルの酒瓶がひとりでに割れ、同時に私の体が宙に浮いた。



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