12話 ギルドとクラン
「冒険者登録?」
「この町、アルムハーンは冒険者である勇者により救済されて、勇者信仰ができた町でな……騎士団の手は借りずに、冒険者ギルドが自治を行っている国なのさ……馬がないから、この辺り限定のクエストを地道にこなすことになるだろうが、ギルドは酒場になっているからな……情報の出入りも激しい……。 お嬢ちゃん一人なら進められねえが……そこの騎士様がいれば何も問題はないだろう?」
「だけど、冒険者として登録するにはそれこそギルドで試験を受けなくちゃいけないし」
局長は慌てるようにそういうが、それに対しアッガスさんはそんな局長を鼻で笑い飛ばし。
「……馬鹿かあんたは。 ここに正式にギルド登録されてる冒険者がいるだろうが」
そういうとアッガスさんは、首にかけてあるネックレスを引きちぎると、私に向かって投げてくる。
「わっ!?たたっぷ!」
ずっしりと重い、素材はおそらくオリハルコンでできているのであろう青紫に輝く宝石……そしてそこに刻み込まれた。
【悠久の風】とかかれたクラン名……。
「お前さんにはほら、こっちだ」
隣に寝ている女性の胸元に手を突っ込み、同じようにネックレスを引きちぎり、今度はナイトさんに渡す。 私に渡されたものよりも一回り小さいものだが、同じようにそこには悠久の風と書かれている。
「……これは?」
「俺が率いているギルドクラン、悠久の風のギルドジュエルだ」
「ギルドジュエル?」
「ギルドに正式に登録された人間であることを証明する宝珠だ……以前はカードだったんだが、偽装が多すぎてな。 オリハルコンならば加工も難しいし、偽造も困難だからな」
「……時代は進化しているんだねぇ、一時は冒険者を語った盗賊の討伐に騎士団もよく駆り出されていたけど、最近聞かなくなったと思ったらそういう技術の進歩があったんだね」
「ふむ……興味深いな……ギルドジュエルという技術は俺の世界にはなかったからな」
そういうと、ナイトさんは物珍しそうな表情をしながらも、首からギルドジュエルをかける。
「これを付けてればお前たちは悠久の風としてギルドで活動ができるようになる」
「……それだけでいいのか?」
「あぁ。 ただ盗むだけじゃ、ギルドクランとしての活動はできないが」
そういうと、アッガスさんは腕を伸ばし短く。
「レイド……」
とつぶやくと、同時にギルドジュエルが光り輝く。
「……光ったな……特別な魔術効果は見られないが」
「あぁ、俺の権限で一時的だが、お前を冒険者クランの一員に招待した」
「なるほど。 起動していなければギルドジュエルの意味はなさないということか」
「そういうこと、持ち主の手を離れるとこうして光を失う。光のないギルドジュエルを持った人間は、偽物ということだ」
「ふむ、色々と考えられてるんだな」
「……あぁ。ストレンジアが冒険者に成りすますって可能性もないわけじゃないからな……人種も出自も問わないからこそ、こういったことに慎重になるのさ」
苦笑いを浮かべながら、アッガスさんはそういうと、再度横になる。
「俺にできるのはこれぐらいだ……お前を護衛するのが俺の役目なのにな……足手まといになるとはな……」
ばつの悪そうなアッガスさんの言葉。おそらく、今回の出来事に責任を感じてしまっているようだ。
だが。
「いいえ、あの時アッガスさんが助けてくれなければ、私は今頃あの部屋で死んでいました……ありがとうございました」
かなわないと分かっていて、私を守るために身を挺して戦ってくれたアッガスさん……その勇気のおかげで私は今ここにいる。
「……そうか……まぁ少しでも役に立てたならいいが……。とりあえずまあ……俺はもうひと眠りさせてもらう……どうにも少し動けそうにない」
「無理をしないほうがいい……あとはこの至高の騎士に任せて眠れ……タフだからとはいえ、低レベルでの蘇生は体に毒だ……」
ナイトさんはそう言い、そっとアッガスさんを横たわらせると、さわやかに笑う。
その笑顔は、どこか誇らしげで……そしてとてもうれしそうな表情だ。
自分が助けた命なはずなのに、まるで、自分が救われたみたいに笑っている。
その笑顔の意味が知りたくて、ついつい私は問いかけてみようと口を開きかけるが。
「さて、話は済んだかい? アッガス君も休ませてあげないといけないし、とりあえずはアルムハーンの冒険者ギルドまでの道のりを説明するよ」
局長の言葉により、私はその質問を飲み込み、任務に戻る。
「お願いします、局長」
「ふふっ、冒険者ギルドに教えてやろうマスター……勇者ではなく、ナイトこそ至高の存在であることをな」
「いや、必要な分だけお金が稼げればいいですから」
「……うむ」
「あ、そういえば旅行記には、おいしいしゃぶりソーセージのお店があるって書いてあるんだけど」
「行きません……」
「あ、はい」
変わったナイトに引きこもり……なんとも不安が山積みのパーティーではあるが、とりあえず私は宿泊施設を出て、アルムハーンの冒険者ギルドへと歩を進めるのであった。
◇