始まり。
白馬に乗った王子様より、黒衣の騎士。
キラキライケメンより、強いヤンキーの方が好き。
だから、
「あの、ぜんっぜんタイプじゃないんで、どいてもらえますか。」
「す、すいませんごめんなさいすみませんんんん……」
とりあえず、目を覚ましたら小説にでも出てきそうなくらいイケメンな天使コスの男に押し倒されていたので睨みつけてやると、ものすごい勢いで退けられた。……目つき悪くてすみませんね。
「……で、」
「はいぃぃぃいいいい!!」
「いやあの、はぃいいいじゃなくて。
……ここ、どこ?」
「うぅ……ほんとうにすいませんでしたぁぁぁぁぁぁあああああ!」
「…死んだ?……しかも、手違いで?」
「はいもうほんとすみませんどんな願いもかなえるのでほんとすみません恨まないでくださいほんと……」
まいった。思わず頬をつねってみるというわざとらしい行為をしてしまったが、どうやら夢ではないらしい。よく見ると周りは恐ろしいくらいの静けさで、見た目は私の部屋なのに別世界のようだった。まるで、外界から取り残されたかのように。
「私は……死んだ、のか……?」
呆然と、自分の手のひらを見つめる。実感がわかない。言っている意味が理解できない。……思考が、置いていかれる。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
ひたすら泣きながら謝罪を口にする天使らしきイケメンをぼんやりとした頭で見つめた。
「……謝られても、どうしたらいいかわからないんですけど。
結局、私はこれからどうなるの?」
「は、はいッ、え、えと、……立花ルカさん。
……もう一度、生きたいですか?」
「はぁ?」
ますます訳が分からない。突然自分の死を告げられ、もう一度生きたいか、なんて。
「何?生き返らてくれるの?」
「それは、私には・・・いや、創造神さまにも不可能です。私にできるのは……あなた様を、ここではない、私の管理している違う世界に転生させることです。」
「違う、世界……?」
なんだかおかしな方向に話が進んでいる。私が訝し気に眉を顰めると、天使がまた怯えたように身を縮こまらせた。
「で、ですから……さっきも申し上げた通りのことですぅぅ……」
「さっき?」
そんな重要なことを聞き逃していただろうかと、私はここ数分の中で天使が発した言葉を思い返してみる。
「……あ、」
そして、気づく。
「『どんな願いでも、かなえる』……?」
「その通り、です……
こちら側の不手際で亡くなられてしまったあなたの体をよみがえらせることはできません。しかし、魂のみの転生なら可能です。しかし、元の世界には……こちら側の事情で、戻ることはできないんです。
だから、選んでください。私の守るどの世界に行くかを。」
「転、生……」
どんなテンプレだよ。と突っ込みたいが、実際に起きてしまったら仕方ない。
相変わらず回らない頭で考えて、考えても意味はないと思考を放棄した。
「じゃあ、どんな世界に、どんな風に転生させてくれるの?天使さん。」
色々と吹っ切れた顔でほほ笑むと、天使がほっとしたように息をついた。
「私は中級天使なので、4つの世界しか持っていません。
一つは、あなた様の元いた世界。そして残りの三つは、
空気汚染で人間がほとんどいないユース、
剣と魔法の世界、リヴェルダント……」
「リヴェルダント。」
「……えっ」
残りの一つを言う前に即決してしまった。
剣と、魔法。つまり一般的に言われる『異世界』。
誰もが一度はあこがれる世界だ。
「私は……その世界で、最強になる。」
「えぇッ」
言ってから厨二病かと自分で突っ込みたくなったが、本心だった。
昔から少女漫画の守られてる系ヒロインは嫌いで、最強チートなるものに憧れていた。
だから、やっぱり。いてもたってもいられなくなったのだ。
「リヴェルダントで、最強……って、魔力を一国王や皇国の魔術師団長クラス、剣術を騎士団長クラスにするってことですか!?」
「……それよりも、強く。いや、強くするんじゃなくて、強くなれる素質を与えてくれるだけでいいから。」
自分で言って恥ずかしいが、かなわないはずの夢がかなうのだ。これくらいはどうってことはなかった。
「はぁ……わかりました。
こんな事例は聞いたこと無いな……」
「……事例?」
「あ、いえ。こちらの話です!
そ、それでは今すぐリヴェルダントに飛ばしますね!」
「はぁ!?今すぐって……ちょっと!?」
天使がそう言い放った瞬間、視界がぐにゃりと曲がった。
そしてここから、私の奇妙な異世界記が始まるのである。