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チョコ好きな妹

作者: Renka

 『突然ですが!わたしはチョコレートが好きです!そう、ほんともう大好きなんです!あの甘味、そしてチョコ本来の味、甘すぎのチョコも、少し苦いチョコも全部全部大好きなんです!もう、チョコと一緒に溶けてしまいたい!チョコの中で死にたい!チョコと死にたい!チョコになりたい!!!

 この物語は、そんなすごくチョコが好きな私の作った!チョコ好きによるチョコ好きのためのチョコチョコ物語です!どうぞ!お楽しみください!』

 …机の引き出しに埋もれるように隠してあった妹の自作小説の出だしの文だ。興味本位で開いたことを、いろいろな意味で後悔している。まったくもってわけのわからない文だ。それにノートの最初のページには『ケータイ小説用下書き』なんて書いてあった。もしかして、俺の妹はこれをネットを通じて誰かに公開するつもりなのだろうか。

 気になって内容を読み進めてみたが、チョコの良さ、チョコがどこから生まれたか、チョコの種類、様々な研究結果が提示され、それに基づいた考察…という、どこからどこまでもがチョコ尽くしの内容である。

 そう、俺の妹…竹内遥は、チョコ好きなのだ。

 簡単にチョコ好きって言ってしまったらダメなのはわかってる。妹のチョコ好きは異常だ。依存といってもいい。チョコをずっと手に持っている。毎日、毎時、毎分、毎秒…ことある毎にチョコを食べている。チョコを食べた後、食後のチョコを食べる。家族で外食に行った時も、食後にチョコを出して恥をかいたこともある。ご飯が魚料理だろうと、すごく脂がのった肉であっても、食後には絶対チョコを食べる。食後だけじゃない。学校の休み時間。ふつう、学校にはお菓子をもっていってはいけないものだが、小さい一粒チョコをポケットに隠し持って食べてるらしい。それに、半年前の家族旅行なんてひどいものだ。チョコだけで荷物をいっぱいにして、服が2着ほどしかなった。一週間の旅行だというのに。さらには、チョコご飯とかいって、チョコをおかずにご飯を食べたこともあった。ひどいときはチョコをおかずにチョコを食べていたり…見ているだけでその甘ったるさに吐き気すら覚える。チョコは何も悪くないと思っても、俺はチョコを生み出した人間、チョコを発売している会社を恨まずにはいられない。チョコが妹を変えたんだ。妹がチョコを変える日は近いかもしれない。考察の最後にはそれを思わせる内容だった。

 『チョコ社会の今後の在り方について』

 というのが最後の題だ。チョコ社会ってなんなんだよ。ていうか、今後の在り方までお前が考えちゃっていいのか。チョコ社会が仮にあったとしても、それを考えるのはチョコを作ってる会社とかだろ。なんでお前が考えてるんだよ。

 『チョコ好きの同志諸君!みんなでチョコの未来を守ろう!チョコの明るい未来を、われわれが作っていこう!チョコ最高!チョコ最高!』

 どこかの洗脳された集団のようなあおり文句でこの小説…というよりは論文…哲学書…チョコ学書……あぁ!俺まで毒されてきた。これは洗脳だ。妹の洗脳なんだ!チョコが俺の体を蝕み、食いつくし、残るのはチョコだけ。もはや妹のからだはチョコでできており、俺の体も次第にそうなっていくのであろう。

 だが、俺は既にチョコが嫌いであった。こうなったのも妹のせいであるが。妹がチョコを食べ始めたのが小学4年生くらいの頃。

 あの頃は、俺もたまにチョコは食べていた。別に嫌いでも好きでもなかった。その頃、妹はちょっとチョコが好きな女の子…くらいにしか見えなかった。他のお菓子とかも食べていたし、それだけにこだわったりはしなかった。しかし、ある時…俺が当時付き合っていた彼女へのプレゼントとして買った少し高めの、いわゆる高級チョコ。それをあげる前にふられてしまうという事が起きた。仕方なく、それを妹にあげて一緒に食べようと思い、妹の部屋に行った……。

 「お兄ちゃん、どうしたの?今日は彼女の愛華さんに会いに行くんじゃなかったの?」

 その時、遥は宿題をしていた。曜日は日曜。時刻は昼くらい。その前日、電話でふられていたのだ。

 「ま、まぁ…あれだ……ふられちまったんだよ……」

柄にもなく情けない声をだし、それを察し慰めようとそばまで寄ってくれる優しい妹。

「…そっか…。きっと…大丈夫…。」

どういっていいのかわからないのだろう、単純な言葉で慰めてくれていた。俺にはそれがすごくうれしかった。

「お兄ちゃんさ…チョコ、買ったんだ。すっげー高いの。…一緒に食べよっか」

妹は無言でうなづいた。そして、床に座って俺はチョコをだして、一口食べた。すごくおいしかった。そして切なくもなっていた。そして遥も横に座って口にチョコを運ぶ。そして、ゆっくりと味を確かめる。そして、遥は言った。そのセリフはすごく印象的だった。

「おいしい!おいしいよ、お兄ちゃん!これ!!!すごくおいしい!!!」

当初、俺は俺のために気を使ってオーバーに言ってくれてるのかと思った。無理して買ったっていうのも知っているだろうから。でも、今になって思えば、ただただ素直にそう思ったんだろう。

「もっと食べていい?」

思い返すとこれがきっかけだった。それから妹は俺が2つしか食べてないのも知らずに、残りの15個あまりを全て平らげてしまった。さらには、もっとほしいといって、自分の貯金を取り出し「これどこで売ってる!?」って聞いてきた。その時点で俺への同情が、チョコへの興味に負けたのがわかった。そして、素直に場所を教えた俺。一目散に駆け出す妹。あまりお金を使わず貯金が上手な妹には、何のためらいもなくそれを買いに行き、そして買って帰ってきたのだった。あれから妹は人が変わったようにチョコを食べ始めるようになった。最初は高いチョコを親にねだる、みたいな感じでずっと食べてはいなかったから、安心して見守れた。しかし、お金の理由で安いチョコを食べるようになり、それでもいい!と判断した妹は、チョコを食べる回数自体を増やしていき、ついには今の状態になったのだ。そう、依存状態。

『片時も自分の心にチョコを忘れず。チョコと共に永遠に。』

妹の机に貼ってあった一文。自分を縛ってまでチョコを食べたいのか。そこまでしてチョコを愛したいのか。とりあえず、この部屋を去ろうと、ドアを開けた時。ドアの前で妹が立っていた。

「お兄ちゃん…なんで遥の部屋に入ったの?」

すごく神妙な顔で見られた。別に悪気があったわけでも、見てはならないものを見たわけじゃ…って、あれは見てはならないものだったのか。

「べつに…この前貸した辞書。とりに…」

そう、妹の部屋に入った理由はそれだった。でも、妹のあれをみつけてしまい、辞書を取りに来たことをすっかり忘れていた。だから、手には何も持ってなかった。それに気づいた妹はもっと嫌そうな顔になった。

「辞書…?」

何も持ってない手を見ながら妹はそういった。俺は机の上に置いてあった辞書を持って、

「あやうく辞書を持っていくのを忘れるところだったよ」

と苦笑いしながら部屋を去ろうとした。妹は自分の部屋に目をのぞかせ、そして読んだ後の自作小説のノートが机に置いてあるのに気付いた。

「読んだ?」

すごく冷たい声。普段は明るい子で、こんな声を出すこともないのに。よほど自分の部屋を見られたのが嫌なのだろうか。年頃の女の子というのはよくわからない。

「べつに…」

あいまいな返事でその場を去ろうとした俺を妹は食い止めた。腕を強くつかみ、顔をすごく俺の顔に近づけて、聞いてきた。

「どうだった?」

顔が近く、少し目のやり場に困る。どうすればいいんだろうか。それに感想を求められても『そんなにチョコが好きか、お前は』としか言えない。

「な、何の話だ?」

ここはごまかすしかない。だが妹はきつい目で俺で睨んでくる。

「やっぱり、ここは第三者の意見も必要かなって思うんだ」

そう言って妹は、自分の部屋に入り、勉強机の椅子に座った。

「どうだった?」

俺はしどろもどろしながらどうこたえようか迷った。正直に答えるべきか、無駄にほめるべきか。

「あれだけチョコに対して考えたんだなぁーって」

まずは正直に言う。妹は自分の書いたノートをパラパラと見ながら声を低くして話し始める。

「そういうことじゃないんだよ。お兄ちゃん。チョコに対する考え方とか、この本を見てどういう風にチョコを感じたか。それに、最後に題であるチョコの今後について。お兄ちゃんなりの考えを聞かせてほしいな」

そう言って、ノートを閉じ俺をキッと睨んできた。考えるんだ。まず、あの小説は簡単にいうとチョコの話だ。そう、それをみて何を感じたか。何を思ったか。チョコの未来!?なんだよ、それ、なんでそんなことを考えなきゃならないんだよ。俺はそもそもチョコが苦手なんだよ。苦手な原因は妹のせいだが。そう考えると少し腹立たしくなってきた。

「俺がチョコが苦手なの、知ってるだろ?」

 少々きつい言い方だが、妹もそれくらいわかってるだろう。な、妹よ。お前は俺に対して何度も何度もチョコを使っていじめてきたじゃないか。

 「そんなこと関係ないんだよ、チョコに対する考えを主観的な印象で片付けないで」

 なんでそんな小難しい言葉を使って責め立てるんだ。お前は小学生だろ。それに主観的な考えっていうけど、そもそもチョコに対するちゃんとした客観的な考えも主観的な考えもねーよ。そんなもん、あるわけない。

 「早く答えてよ」

 いらだってるのが声でわかるくらいいらだってる妹。なんでそんな質問で苦しまねばならんのだ。自分の部屋では大好きなヒロインが活躍するゲームが待ってるんだ。妹、お前にかまってる時間なんて俺にはないんだ。

 「チョコに対する主観的見解も客観的見解もない!強いて言うなら俺はチョコが嫌いだ!じゃぁな!」

 そう少し叫んでから逃げるように自分の部屋に戻った。そしてドアを閉めてゲームに集中しようと持ってきた辞書を布団に投げ捨てゲームを始めた。そのうちにまた妹が責め立てに来るんだろうなとか思いながらゲームを続けた。だが、いつまでたっても来なかった。30分たっても、1時間たっても来なかった。なんだか、妹を傷つけてしまった気がしてきた。でも、明らかに俺のほうがいじめられてるんだ。チョコの話はもうしたくもない。

 「お兄ちゃん、ごめん」

 ドアの向こうで妹の声がする。ほら、来た。ちゃんと謝ってくるなんて、いい妹じゃないか。許してやらんこともない。だが、チョコのことは許さん。そう絶対に。

 「いいよ、別に。お兄ちゃんも変に怒ってごめんな」

 そう言って、ゲームをいったん終了し、自分の部屋のドアを開けた。そこにいた妹の口には、チョコがいっぱいついていた。やけ食いでもしたのか。かなりの量だ。ちゃんと気遣っていってやるべきか。兄として。

 「ほら、口の周りがチョコまみれだぞ」

 そう言ってやると、妹ははっとしてポケットに入れていた自分のティッシュで口の周りを吹き始めた。そうして、きれいに拭き終わった後「ありがとう」とにこって笑った。

 「勝手に読んでごめんな。それでも、お前がしっかりチョコのこと考えてるってのがわかったよ。あれはいい文章だ。」

 思ってもないような言葉だが、それも事実だ。いくらチョコが好きだからってあんなにもチョコに対してかけないだろう。

 「お兄ちゃん…ありがとう。」

 そう言って妹はハグしてきた。こんなかわいらしい妹を持って幸せに思う。

 「ねぇ、お兄ちゃん」

 ハグしていた体を少し離し、妹はかわいい笑顔で俺に笑いかけてきた。

 「なんだ?」

 俺はできるだけ優しい声で答える。そして、妹は笑顔で言ってくれたんだ。

 「仲直りにチョコ食べよ!」

 お前はもう、何もわかってないんだな。妹よ。


初投稿です。

やっつけです。申し訳ございません

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