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ルートピリオド  作者: 明兎
2章 絡みあう関係と過去
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「二人と二人」

 「消えてるって……どういうことだ?」


 朝霧水無月は遊李のクラスメイトだった。

だが、それ以上に驚くべき事実がある。


 「文字通りですよ。行方不明で私様たちの前から姿を消していたんです」


 水無月の表情から色が消える。

この反応を見る限り嘘ではないようだ。

行方不明だった水無月がどうしてここにいるのか。


 「おい、水無月本当なのか?」


 疑心の目で水無月を見るユウナ。

続くように遊李と麦子も水無月を見た。

見つめられる少女の表情が次第に曇って行く。

冷や汗も流れているようだ。


 「わかり……ません」


 「はあ!?」


 悩んだ末に出てきた答えは曖昧なものだった。

疑問の声を上げた遊李だけでなく麦子も同じように煮え切らない顔をしている。


 「行方不明になっていたというのが良くわからないんです。私は昨日もちゃんと学校に通ってましたし、お二人とも確かに昔顔見知りでした」


 「……何を言ってるんですか?」


 おかしい、というかどこか話がかみ合っていない。

行方不明になっているという遊李と、行方不明になってない上に今も学校に通っているという水無月。

遊李の反応を見るに嘘のようには思えない。

しかし水無月の反応も自然なものだ。

どっちを信用していいのかユウナにも判断がつかなかった。


 「あなたは私様たちの前から急に姿を消したでしょう!? それなのにどうして今も学校に通っているだなんて嘘を吐くんですか!」


 「だから! 私は行方不明になったんじゃなくて転校したんだって!」


 「なにを……言ってるんですかあなたは……?」


 「あ、あのぉ……二人ともやめましょうよぉ……」


 二人が言い争っていたところを麦子が仲裁に入った。

仲裁と言うにはなんとも力のない声音だが。

予想通り振り返った二人の目力に押されてひぃっと小さな呻き声を上げている。


 「麦子は気にならないんですか? 今まで行方不明だった子が急に現れたんですよ?」


 「そりゃあ気になるけど……。けど、本当にその子何も知らなそうだよ?」


 「そうだ。とりあえず落ち着いてどこかに腰を下ろさないか? こんな大声で話してちゃ日乃崎に見つからないとも限らないし」


 二人から同時に説得されて遊李は口を閉じる。

無言のまま数秒顎に手を当てて考えていたが、肯定の意思を見せ近くの店の跡地に姿を隠すことに決めた。


 思い返せば出会ってから自己紹介すらもしていないことにユウナは気づきそこから始めることになった。

入川遊李に笹場麦子。それが二人の名前らしい。

水無月がその名前に聞き覚えがあったのかは反応から知ることは出来なかった。


 二人が持っていた武器は遊李の持つ木刀だけだった。

アプリもまた同じく遊李の端末に入っているボックスロックと言う10分間だけ全フィールドにあるボックスを開けることが出来なくするというものが入っているだけ。

仲間こそ増えたが戦力は大して増えていないと言えるだろう。


 と、ここまでがユウナが思っている胸の内だが気づかないところでかなり戦力は増していた。

入川遊李、彼女のポテンシャルの高さをユウナはまだ知らない。

彼女がこのゲームをクリアするうえでのキーパーソンになる可能性さえもあるというのに。


 「二人も同じ学校のクラスメイト?」


 「はい、そうです。まあそこまで仲が良かったわけじゃないんですけども」


 「そんなぁ~。私は遊李ちゃんのこと良い人だと思ってましたよぉ」


 「良い人だと思ってただけでしょう。そりゃあ私は剣道で結果を残していますから」


 二人の何気ないやりとりを見ながらもユウナは周囲への警戒を忘れない。

さっきあれだけ大声で話していたのだから誰かに場所を暴かれていてもおかしくはない。

誰が誰を殺してもおかしくない状況だ。最低限の警戒はするべきだろう。


 「で、水無月さん。なにか言う気になりましたか」 


 「なにかも何も私はずっと言ってるでしょう。転校しただけだって」


 「まだそんな――――」


 「喧嘩はやめろ。一回その話は置いておこう。このまま仲がこじれても仕方がないだろう」


 「でも!」


 「でもじゃねえ」


 立ち上がりそうな勢いで反論する遊李の頭をユウナは掴み静止させる。

上から押さえつける力に抵抗できず遊李はその場で動きを止めた。

腕をぶんぶんと振っている姿はまるで駄々っ子のようだ。


 「ユウナさんたちはこれからどういう風に行動しようと思ってたんですか~?」


 相変わらず気が抜けるような声音で喋る女の子だ、などと思いながらユウナは何を目的か思い出す。

一番は日乃崎を殺すべく動くことなのだろうが戦力的にそれは不可能に思えた。

いや、戦力が整っていようがそれを提案したくはないというユウナの気持ちが強い。


 人が死ぬのなんて目の前では見たくないから。

その気持ちはユウナが一番強い。

目の前で兄を殺されたユウナが。


 「そうだな……。とりあえずは武器とアプリを集めよう」


 「アプリはどんなものがあるか未知数ですし、集めておいて損はないですね」


 「私様も今それを言おうと思っていたところです。ところでそろそろ手を離してください」


 本当に遊李がそう考えていたかは置いておいて、全員の意見が合致した。

とりあえずはさっきまでと同じようにいろんな場所を探りながら仲間を探すと言うことになる。

これ以上仲間を増やすと別の方向からの力が関わってきそうだがそこはユウナ達が推し量れるものではない。


 それから四人はゲームのこれまでに起こったことをお互いに話し合った。

遊李が出会ったと言う女が日乃崎に次いで危険な可能性を孕んでいる。

しかしその言動を聞く限りでは完全に敵、というわけでもなさそうだ。

出来る限り関わりたくない相手と言うのは間違いないが。


 ユウナらが話したのは日向と飛鳥、そして由佳と訳あって別行動になったことだ。

喧嘩別れではなく話し合いの結果、というよりもユウナがほぼ一方的に頼み込んだ結果だったため二人はそれほど表情を変えなかった。

多少疑っているところはあるのだろうが。


 と、そんな話し合いをしながらユウナは一つ疑問に思っていることがあった。

だがそれは違和感にも満たない引っかかりみたいなもので気にすることもないと流す。

自分が敏感になりすぎなのだと念押しをしつつも喉に小骨が刺さったようなものは拭えなかったが。


 「じゃあ一応バラバラになった際の合流場所を考えておこう。襲われた際に考えても遅いからな」


 ユウナが端末をいじり地図を表示させている間遊李はずっとユウナを睨んでいた。

睨まれたままでは気分も悪くなんだ、と短く言うと嫌そうに口を開く。


 「さっきから思っていたのですがユウナさんはやたらとこのゲームの進め方を理解しているみたいですね」


 遊李のその言葉を聞いてユウナはようやく自分が全員の指針を決め過ぎていたことに気が付いた。

さっきもだが、基本的にこのグループの目的を指定していた。

確かにこれは疑われてもおかしくない。


 「俺はこのゲームに似たゲームを知ってるんだ。家庭用ゲームな。それで主人公たちがしていた対策を取ってるってだけなんだ」


 「なんだ、付け焼刃ですか。がっかりです」


 「がっかりって……」


 本当にそれだけが気になっていたようでそれ以上の追及はなかった。

こっちの心配に反して随分と適当だ。

これが入川遊李と言う少女なのだとユウナも次第に気づいてきた。


 現在進入禁止区画は12個。

既にゲーム開始から4時間が経過していた。

これからも進入禁止区画が増えていくことを考えるとあらかじめいくつかの集合場所を決めておく必要があるだろう。


 それらを各々の地図にマーキングして4人は上のフロアに向かうことにした。

元々ユウナと水無月が向かおうとしていた方向なため結局は遊李と麦子が2人についていく形になる。

最初の話から変わってしまっているが気にしている様子はなかった。


 四人が向かう3F。

ちょうどその頃に上の階では愛良と日乃崎が殺し合いをしていた。

その場所へとたどり着く1時間後。

彼らはその場所で悲劇を目にすることになる。

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