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ルートピリオド  作者: 明兎
プロローグ
1/10

チャプター1

 カランカラン、とどこかで音が鳴った。

空き缶が落ちたかのような甲高い音。

そんな音で私は目を覚ました。


 長時間寝ていたせいか、それとも多くの光を一気に見過ぎたせいか。

目を開けた刹那に私は再び目を閉じた。


 徐々に慣らすために少しずつ瞼を上げる。

改めてみるとそれほど光の量はない。

どうやら長時間寝ていた弊害の様だ。


 手で光を遮りながら辺りを見渡す。

割れたショーケース。

いくつかの服とその上に埃が蓄積された棚。

ヒビが入っている全身鏡。

レジカウンターの上には表面が少し焼けたレジスターとアクセサリー類。


 どうやらここは潰れてしまった服屋らしい。

推測の域を出ないが、そう大きく外れた答えではないと思う。


 「なんで私こんな所に……? 痛っ!」


 言葉を発した直後に頭部を襲う激痛。

まるで頭を鈍器で叩かれたような鈍い、それでいて鋭い芯に届くような痛みだった。


 気付くと私は反射的に両手で頭を押さえていた。

その痛みもしばらく時間を置くと収まり、手も自然と頭から離れる。


 すうはあ、と数回深呼吸を繰り返しいつもの落ち着きを取り戻した。


 服装を見てみると学校指定のセーラー服に身を包んでいた。

スカートの両ポケットに手を入れると左手の指先に何かが当る。

何のためらいもなくそれを取り出した。


 左手に握られていたのは去年の秋に買い替えたスマートフォンだった。

確かにそれは私が買ったものと同じなのだけれどどこか違う。


 「私のと同じ機種……だけど綺麗すぎる。画面の傷もないし、角がへこんでない……」


 それを素直に知らない間に新品と取り換えてもらったと思えるほど私は楽観的じゃない。

見ていても仕方ないと思い電源を入れた。


 見慣れた待ち受け画像とは違う、無機質でいて機械的な壁紙が表示される。

電源を入れてすぐにメニュー画面には行かず、ロック画面が現れた。

文字を打ち込む形式のロックだ。


 だが私はこのロックを知らない。

いつも設定している画面ロックは点を結ぶパターンで解除するものだし、文字を打ち込むロックになんてしたことがない。


 そんな心配を汲んでか上の方にロック解除のヒントが表示されていた。


 『端末使用者の名前』


 文字を見たときに背中に冷たいモノが流れたのがわかる。

それだけじゃない、この端末を持つ手が無意識に震えていた。

共鳴して奥歯もカチカチと鳴る。


 どうして私の名前がパスワードに設定されているのか。


 どうしてこんなところで私は寝ていたのか。


 さっきの頭痛の理由は何なのか。


 さっきから私を襲っている恐怖は何なのか。


 全てが合致した。

歯車がキチリとハマる様に謎と謎とが繋がる。


 それでも私は諦め悪く気づかない振りをして名前である『紅月由佳アカツキ ユカ』を打ち込んだ。

やはりと言うかそれでロック画面は解除されいくつかのアイコンが並んだ画面が表示される。

『ルール』『メールボックス』『マップ』『ポイント』等だ。

その中に私が日ごろ使っているアイコンは一つも見当たらない。


 メールボックスのアイコンの右上に①と表示されていた。

メールが一件届いているということなのだろう。

悪寒に逆らいながらアイコンをタッチする。


 メールの件名は「紅月由佳様、ゲームに参加ありがとうございます」と言うものだった。

ゲーム……? そんなものに私がいつ参加したんだろう?

もしかしてさっきロック画面を解除した時点で勝手に……?

だとしたら堪ったもんじゃない。


 そう思いつつもメールの本文を開く。

四行の短い文章だった。

だが、それだけの文章で私の震えの裏付けをするには十分すぎる。


 『この度は【デスゲーム】に参加いただきありがとうございます。


 貴方様はとある理由からこのゲームの参加者として選ばれました。


 【デスゲーム】とは読んで字の如く、十二人のプレイヤーで殺し合いをしていただくゲームです。


 詳細については次のメールに記載していますのでお待ちください』


 「なに……これ……」


 私の予想では誘拐されてこれから言葉に出来ないような酷いことをされるのかと思っていた。

しかし現実はその斜め上を行っていた。

殺し合い……? なんで私がそんなものに選ばれたの……?


 わからない。わからないけれどこのゲームに巻き込まれて良いことなんて一つもない。

逃げたい。帰りたい。死にたくない。

ここはどこなの? 私の家から近いの? どうすれば生き残れるの?


 不安と恐怖が頭の中でグルグルとかき混ぜられる。

そこに緊張が加わり胃液がのし上がってきた。

右手で口元を抑える。


 「う……」


 涙さえも浮かんできた。

どうして私がこんなことに巻き込まれなくちゃいけないの……。

理不尽な状況に吠えても何かが変わることはなかった。


 カツンカツン。

どこかからか足音が聞こえた。


 カツンカツン。

距離はそれほど遠くない。

数十メートルと言ったところだろう。


 「見つかると殺される……。隠れなきゃ」


 レジカウンターの裏まで足音を立てないように細心の注意を払いながら移動する。

一歩ずつ一歩ずつ目的の場所へと近づいていく。


 細心の注意を払ったところで私も人間だ。

こんな緊張状態で何一つミスが起こさない程に出来た生き物じゃない。


 パリっと足元で音が鳴った。

ガラスが割れた音だ。

割れたショーケースの破片が落ちていて、それを踏んでしまったのだろう。


 「なん……で……!」


 目的を変え試着部屋と思われるカーテンの中に体を潜らせた。

心臓が高鳴る。

刻む鼓動が勢いを増していく。

口から漏れる息を殺すために両手で押さえた。


 「誰かいるのか……?」


 低い男の声が聞こえた。

恐らくさっきの足音の主だろう。

声音からして十代から二十代、恐らく私と同年代くらいだ。


 殺し合いのゲームだというのにこんな声に反応する人間はいないだろう。

もちろん私は無言を貫き口元を押さえる力を強めた。


 「ここは……寂れた洋服売り場か。こんなところに来るのもいつ振りだか……」


 ショーケースやガラスなどを叩く音が聞こえる。

虱潰しに調べて私を見つける気だろう。

これでは見つかってしまうのも時間の問題だ。


 心臓の鼓動が更に勢いを増す。

息が荒くなる。

頭が割れそうだ。


 「ガラスの割れた後……。もしかして……そこにいるのか?」


 心臓が破裂しそうだった。

私が隠れている試着部屋のカーテンにその男のシルエットが映し出される。

影から察するに体格は良いどころか、細身。

下手すれば私よりも細いかもしれない。


 それどころではない。

殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。殺される。

私には戦うための武器が何一つない。

どうやって戦えと言うのだ。

何を持って戦えと言う。


 ……私はここで死ぬの?


 「……開けるぞ」


 男がカーテンに手をかける。

直後、目を覚ました時と同じように光が私の目を襲い男の姿が映し出された。

シルエット通りの細い男だ。


 私は叫び声を上げるだろうな、と思っていた。

考えてはいなくとも無意識下にそうなってしまうとなんとなく思っていた。


 しかし予想外に私は声一つ上げなかった。

そこに見えた男の姿があまりにも意外だったからだ。


 知り合い……と呼ぶには余所余所しい。

だからと言って本来の関係である幼馴染と呼ぶのも躊躇ってしまう。

そんななんとも言えないような立場の相手なのだ。


 二年前、中学三年の秋にとある事件が起こって以降引きこもりになった少年。

それ以降まったく会ってなかった相手のことを幼馴染などと呼んでいいのか。

こんな状況にもかかわらず私はそんなことを考えていた。


 「四季……?」


 私はその『元』幼馴染である男の名前を呼ぶ。

髪が二年前よりも長くなって後ろ髪なんて腰まであるけれど。

どことなく母親似の整った顔立ちの面影があるその男の名前を。


 「由佳……か?」


 私がこのデスゲームで初めて会ったのは夕波四季ユウナミ シキ

『元』幼馴染の男だった。

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