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あの火事から何日も経たないうちに、私はとある児童養護施設に入ることになった。義父の叔父の知り合いがその施設の施設長だったから、入所はスムーズにいった。それまでは、私を助けてくれた近所のおじさんに世話してもらっていたが、さすがにいつまでも世話になるわけにもいかなかった(おじさんの家族が私が早急に出ていくことを望んでいたらしい)。


おじさんの元を離れる際、彼は私を強く抱いた。そして涙ながらにこう言った。「強く生きろよ」と。


「うん」


おじさんの温もりの中で私も泣いた。


そうして、養護施設での生活が始まった。



施設での生活に関わる資金は、大人になってから返すという条件で、義父の叔父に出してもらうことになった。


施設には、親を失った子どもや、親に捨てられた子どもが住んでいた。住むと言っても、何もかも自由というわけではなく、一般的な学校のように、時間割が組まれ、基本的にそれに沿って時間が動いていた。勉強や運動、掃除や料理などを他の子どもと一緒にやった。


他の子どもと一緒に生活していく中で、私は次第に火事で家族を亡くした悲しみから立ち直っていった。


そうして施設での生活にも慣れてきたある日の出来事・・・。


朝から夕方までは、時間割に沿って皆が行動を共にするが、それが過ぎれば、それぞれの自由時間となる。私は誰もいない部屋で本を読んでいた。するとどこからか、楽器を演奏する音が聞こえてきた。誰だろう。私は何となく気になって音のする部屋を覗いてみた。


その部屋では、女の子がバイオリンを弾いていた。その可憐な姿、美しい音色に私は息を飲んだ。


「きれいだ・・・」


私は思わず、そう口にしていた。



「!?」


すると、私の存在に気がついたのか、彼女がこちらを見た。


そして演奏を止め、「こんにちは」と言って微笑んだ。


「こんにちは。勝手に聞いていてごめんなさい。本を読んでいたら、音が聞こえてきたものだから、誰かなと思って見に来たんです。それがあまりにも上手だったので・・」


「ふふ、いいのよ。褒めてくださってありがとう。私こそ、読書の邪魔しちゃってごめんなさいね」


「邪魔だなんて、そんな。むしろ、こんな美しい演奏を聞けたことに感謝したいくらいです。それは、なんという曲なのですか?」


「ふふ。これ?これはね、チャイコフスキーのバイオリン協奏曲。綺麗な曲でしょ。でも、すごく難しいんだ。いつかオーケストラとやりたいって思って、練習してるの」


「そうなんですか。すごいですね・・。あの、お願いなんですが、もう一度聞かせてもらえませんか?」


「え、うん、いいよ。まだ練習中でうまく弾けてないから恥ずかしいけど・・」


そう言いつつも、彼女は再びバイオリンを構え、その曲を弾き始めた。やっぱり、綺麗だ・・。



「ふぅ、どうだった?私、うまく弾けてるかな?」


「はい、とてもお上手です。うっとり聞き惚れてしまいましたよ」


「ふふ・・。あなたはお世辞がお上手ね」


それから、しばらくの時間、彼女とお互いのことについて軽く話した。


「また、聞きに来てもいいでしょうか?」

私は聞いた。


「うん、いいわよ。誰かに聞いてもらった方が、練習にもなるしね」


「ありがとう。この施設での楽しみが増えました」


「ふふ。そう言ってもらえると、私もうれしいわ」





これが私と「お嬢様」との出会いだった。


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