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私が生まれた家はとかく貧乏で、それでいて狭いものだった。
兄弟は7人いた。もしかしたら、それ以上いたかもしれない。父親が女ぐせが悪く、とっかえひっかえ愛人を作っていたせいだ。腹違いの兄弟たちで、狭い家はあふれていた。
私の母親は、小さな居酒屋の女将だった。ある日飲みに来た父親と恋仲になり、気づいたら、私をはらんでいたらしい。だが、親父の女癖の悪さに嫌気が差し、私が小さい頃に違う男とどこかへ行ってしまった(これは後で父親に聞かされた話だ)。
私の母親がそうであったように、父親の元を去っていった「母親」たち。家は、そんな「母親」たちから生まれた腹違いの兄弟であふれていたのだった。
父親は飲んだくれであった。夜な夜な別の女を連れてきては、狭い家の中で宴会を催した。私たち兄弟に酒を注がせたり、調達させたりした。時として、酔って私たちに暴力をふるうことすらあった。とにかく最低な父親だったと思う。
だが、そんな最低な父親でさえ、私たち兄弟には居てくれた方が良かったのだ。
ある日、父親が逮捕された。女がらみで暴力沙汰になり、相手の男を過って殺してしまったらしい。家には、父親しか保護者となるべき人間がいなかったため、私たち兄弟を養ってくれる人がいなくなってしまった。
その結果、私たち兄弟は、個別にそれぞれの「引き取り先」へと引き取られることになった。私は、遠い親戚の家へ。その日を境に、兄弟はバラバラになり、疎遠となった。今彼らがどうしているのか、それは私にはわからない。
親戚の家に移ってからは、幸せな日々が続いた。食事や着替えもきちんと用意してもらえたばかりか、学校にだって行かせてもらえた。義母や義父は私を可愛がってくれ、私もそれに甘えた。彼らの間に他の子どもがいなかったのが、少し残念だったが、私には申し分のない環境だった。
そんな幸せな日々が何日も続いたが、ある日、転機が訪れた。家が火事になったのだ。その結果、近所の住人に救われた私だけが生き残り、義母や義父はこの火事が原因で帰らぬ人となった。
こうして、私はまたひとりぼっちになった。