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「熱い、熱いよぉ・・・うわ~ん。うちが燃えてるよぉ・・・。パパ、ママぁ・・」
燃えさかる炎。それに包まれる私の家。その光景が怖くて、幼い私はその場に立ち尽くし、泣きわめいた。
だが、いくら泣きわめいても、誰も来てくれない。パパもママも。
その間にも、火の手はどんどん私の周りに迫ってくる。幼心に「もう駄目か」という感情が宿る。
すると、その時だった。
「誰かいるかぁー!!!いるなら、返事をしろぉ!!!」
近所の住人か何かが、勇敢にも火の手のあがる我が家に入り、助けに来てくれた。
「うわ~ん!うわ~ん!」
「そっちか!待ってろ、今助けてやるからな!」
そうして、私は見知らぬ命の恩人につかまれ・・・
抱きかかえられながら、火の粉の中を・・進んで・・
外へと・・・
・・・
・・
「はっ」
目が覚めると、そこはいつもの屋敷。
「夢か・・」
幼い頃の私、そして家族を襲った火事の夢。忌まわしい記憶・・。忘れたいのに、忘れられないうえ、今でもこうして時々夢にみる。
「・・・パパ・・、ママ・・」
もう、戻らない人々。どうして私だけが・・。
私は記憶に蓋を閉じるかのように、洗面台で顔を洗い、気持ちを切り替える。暗い過去のことは、もう忘れたつもりだ。
「・・・もう何があっても、私は挫けない・・・」
・・・
・・
あれから毎日、執事との「ワンツーマンレッスン」は続いている。
部屋にはホワイトボードや机が導入されるまでに至った。この前のような実践練習も行われるが、今ではこうして執事による「テレパシー養成講座」が講義形式で実施されている(もちろん、聞くのは僕だ)。
何でもこの執事は、学生時代は教員志望だったらしく、教員免許状まで持っているらしい。意外にも高学歴であり、教育に対して情熱的なのだった。
「僕は単なる変態執事だと思ってたんだけどな・・」
「坊や、何か言いましたか?」
「いや、何にも。はは」
「そうですか。では、授業に集中してくださいね」
そうして変態執事は、教鞭をふるうのだった。その姿は結構、様になっている。
「ではそろそろ休憩しましょうか」
「あぁ・・・」
ふぅ・・やっと終わったって感じだ。タキシード男が言うほど、テレパシー習得も楽ではないなぁ。っていうか、中学生に理解できる内容なのか、これ? ・・まぁ、命がかかってるから、文句は言えないよな・・、気長にいくしかないな・・。
「坊や、何をぼーっとしているのですか。食事にしましょうよ」
結局こいつとの食事も続いている・・。
「ねぇ、坊やってば!・・・はっ、さては例の好きな人のことを考えているのですね!?し思春期の憂鬱という奴ですか?も、もしよろしければ私が相談に乗りますよ?」
「あ、ああ、そうだな」
「えっ、いいんですか?で、誰なんですか、お相手は?も、もしかして・・・あのタキシードの・・・」
「ちげーよ!「そうだな飯にしよう」って意味だよ!それと、(相手は)タキシードじゃねぇから!」
「なんだ・・そうですか。でもその反応からみるに、好きな人、本当にいるんですねぇ・・クスクス」
本当こいつはゴシップネタが好きだよな・・。
その後、いつものごとくメイドが二人分の食事を運んできてくれた。
それを食べながら、また会話に花を咲かせる。
「なぁ、質問があるんだけど、いいか?」
「はい、なんでしょう。スリーサイズとか?」
「ちげぇよ!誰もあんたの体のことなんか興味ないから!」
「そうですかぁ・・・私は坊やの体のこと、興味あるんですけどねぇ・・・じゅるり・・」
こ、怖いからそんな目で見ないでください。
「・・えっと、だな。その、執事さんよ。あんた、あんなに授業上手いのに、なんで教師にならなかったんだ?資格は持ってるんだろ?ぶっちゃけ、うちの中学の教師より、授業うまいと思うんだが・・」
執事はまさか僕がそれを褒めるとは思っていなかったらしく、「えぇっ!きゃっ、うれしぃ~」とか言ってはしゃぎだした。
「・・いいから、早よ質問に答えんかい!」
「えっへへ~。ええとですね、その、実を言いますと、私は教員には向いてないと思うんですよ」
「はぁ?そんなことないだろ」
「いやいや、それがですね・・・私も一応、教員として働いていた時期があるんです。大学を出たその年に、少しだけ」
「そうなのか?なんでやめちまったんだ?」
「ふふ・・それがですね・・。私が働いていたのって、小学校なんですよね。で、ほら、私ってこういう性癖じゃないですか?それが災いしまして・・・その・・・男子児童に手を出したら、懲戒免職されてしまいました!」
「ぶぶーっ!」
「わっ、汚い!」
「す、すまん・・・立ち入ったことを聞いてしまって・・」
「いえいえ、いいんですよ」
どうやら僕は「地雷」を踏んでしまったらしい。触れない方がよかったな・・。
「それに、私、こうして坊やに授業をしているだけで幸せです。あぁ執事になって、よかったぁ~」
「・・・・」
やっぱりこいつは筋金入りのショタコン野郎だな、と僕は思うのだった。
そんなこんなで食事が終わり、メイドがそれを片づけた。彼女と入れ替わりに、タキシード男が入ってきて、「テレパシー習得は進んでますか?」と状況を確認しに来た。当たり障りのない返事を送ると、「そうですか。引き続き頑張ってください」と言い残し、男は去っていった。
(いちいち確認に来るなんて、ご苦労なやつだ。)
「ふぅ。私も坊やの教師である以上、責任が重いですねぇ。彼も相当坊やに期待しているようですし・・」
「そうなのか?まぁ。期待とかどうでもいいけどな、僕は」
「・・・え、何それ。彼に対するツンデレ表現ですか?」
「んなわけあるか!」
「・・・ふぅ、よかった・・」
ヤキモチかよ。
「・・・あ、そうだ。もう一つ質問してもいいか?」
「なんです?」
「あのタキシード男のことなんだけどさ。あいつって一体何者なんだ?「お嬢様」とどう関係しているんだ?」
そう聞くと、変態教師は急に引き締まった表情になり、「本当に聞きたいのですか?」と問いかけた。
「あぁ」
緊張の面もちで、僕は言った。
「・・・私が言ったって言わないでくださいね?それと、聞いてあまり楽しくなる話ではありませんよ」
そう言うと、執事はタキシード男について知りうることを語り始めた。