5
私はここにいない。
ここにいるのは、私でない抜け殻。
私が見る景色。
それは、荒れ果てた海の底。
一面に広がる無。
私の四肢は鎖で繋がれ、動けない。
神様がいるのだとしたら、
どうして私にこんな絶望を味わわせるのだろう。
孤独、きっとそれが私の人生のテーマだ。
でも・・・
さっき来た彼はいったい誰なのだろう。
彼は私を助けるって言ってくれた・・。
「助けて・・・お願い」
そして、私はまた膝を抱えて、ただ時が過ぎるのを待つ。
彼が来ることを祈りながら・・。
・・・・
・・・
・・
翌日。養成キットによる、「臨死体験」を経験した僕の元に、来客が訪れた。
「改めましてこんにちは。私、この屋敷の執事、でございます。何度かお目にかかったかと思いますが、この度、あなた様の教育係に任命されました。これからどうぞ、よろしくお願いします」
「は、はぁ。ど、どうも」
ぽかーんとする僕。
「坊や一人では「テレパシー」を習得するのが、難しいのではないか、と私ども一同、非常に危惧しておりまして」
「は、はぁ・・」
ぼ、坊やって僕のことだよな?
「そこで私が、キットの使い方などを逐一教えます。えぇ、安心してください。一緒に、楽しく、テレパシーをマスターしましょうねぇ☆」
そういうと執事は一歩踏み寄り、思い切り僕の手を握ってきた。
「え、えぇ・・・よろしく」
おいおい、この執事こんなキャラだったか?そして、なんか妙に嬉しそうなのは、気のせいだろうか・・。
「(小声で)・・あぁ・・いいわぁ・・坊やに教育指導とか・・夢のようだわぁ・・・」
「え、何か言いました?」
「・・うんうん、な、なんでもございませんよ。はは、ははは・・」
思いっ切り怪しい顔をされてますよね。。
・・・こうして、僕と執事のワンツーマンレッスンが始まった。
執事が言うには、いきなり装置をつけてない人間(つまり少女)との交信は、素人には難しいとのことだ。
「なので、まずは練習がてら私とテレパシーし合いましょう☆私も坊やと同じ装置を使いますので、これなら結構簡単に交信し合うことができると思いますよ」
と言って、執事は頭に僕が使っているのと同じ装置を着けた(ちなみに細かい設定などは全部彼任せである)。
「いいですか、坊や。テレパシーを相手にうまく伝えるにはとにかく「愛」が大切なんです。相手を思いやる気持ち、それでもって伝えたい言葉を包み込む。そうして相手のことを思い浮かべ、それを念じることが必要なんです」
「は、はひ・・」
愛だなんだとよく力説できるなぁ、この人・・・。聞いているこっちが照れてしまう。
「(小声で)あぁ・・・愛だなんだと聞いたとたんに、ちょっと照れてるわぁ・・・うっわ~、マジ萌え!萌え!萌え!」
「え、何か言いました?」
「・・い、いいえ、な、なんでもございませんよ。はは、ははは・・」
それから、お互いの装置を起動させた。精神を統一し、相手に伝えたい言葉を頭の中で念じる。
「・・・」
「・・・・」
だが、執事が思いやりだの愛だの言うせいで伝えたいと思う言葉が思い浮かばない。
「・・・」
チラっ。
・・目を瞑って集中していた執事が今、こちらをちらっと見た。うぐ・・・。よ、余計気が散るってばよ。
にやにや。
・・・なんかあいつこっちを見たままにやにやしてるんですけど。
するとそのとき、
「(あぁ~いいわぁ。。坊や最高!!萌え!萌え!キュン!!)」←執事のからのテレパシー
「ぶ~っ!!」
「もう、真面目にやらないと何にも伝えられませんよ!」
「いや・・・今アンタの気色悪い声が交信された気がしたんだが・・」
「え、え、え!あっはは!聞こえちゃいましたか~。はっはっは~」
「はっはっは、じゃねぇよ、もう!何考えてんだよ!!」
「(あぁ・・・怒る顔も、すごくキュートだわぁ・・・)」←テレパシー
「うっ!また来た!」
このときから僕は、執事がこの手の性癖の持ち主であると認識し、彼と居るときは常に身の危険を感じる羽目になった。
・・・
・・
その後も、執事からの交信内容に戸惑いながらも、練習を重ねた。その結果、装置を着けた者とであれば、僕も多少はテレパシーを送ることができるようになっていった。
そして夕飯の時間。
いつものようにメイドが親切に食事を運んでくれた。
だが、いつもと違うことがひとつ・・。
「なんで、執事も一緒なんだよ!」
「えぇ~いいじゃありませんか。一人で食べる食事っておいしくないでしょう?」
そりゃそうかもしれないけど、なんでよりによってショタコン野郎と一緒に食わなきゃいかんのだ。。
「・・まぁ、いいよ。でも、今日だけだぞ。。」
「いや~、ありがとうございます」
結局、執事と僕とで夕食を食べた。
「つかぬことを聞いてもいいですか、坊や」
「うっ、急に改まってなんだよ。気持ち悪い」
「ふふふ。坊やって聞くところ、中学生だそうじゃあないですかぁ」
「そ、そうだけど、それがどうしたってんだよ?」
「中学生ってぇ、思春期まっただ中じゃあないですかぁ。ってことは、やっぱり、好きな子とか、いるんですかねぇ?え?どうなの、そこんとこ」
執事は意地悪に、そして鼻息を荒くして問いつめた!
「そ、それはだな・・・、え~っと、うん、まぁあれだ。そ、そんなことどうでもいいじゃないか。あぁ、今日のご飯はうまいな~。練習の後食う飯は格別だぁ~」
「えぇ~、どどうなんですか?ぜひ、教えてくださいよ~。い、いないなら私・・・が❤・・な、なんて❤」
「いや、それだけは遠慮願いたい」
「ひ~ん、ひどいっ!!坊やのいけずぅ~!!」
僕があの少女を好きなことも、このときチラと彼女を見たことも、執事には内緒なのだった。