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・・・ここは、どこだろう。海の中?
いや、でもちゃんと息が出来る。でも、確かに水の中にいるような・・・。
あれ、僕はいったいどうしたんだっけ。
・・・そうだ、あの「養成キット」の装置で感電して・・・。
あぁ・・・。
こうしている間にも、僕は水ではない透明な水のようなものの中へと、落ちていく。
僕は、死んだのだろうか?
日本にいる家族は、今頃、僕のことを心配しているだろうな。
母さん、父さん、そして姉さん。僕はもう駄目かもしれません。先に逝くことを、どうか、お許しください・・・。
僕は目をつぶった。あぁ、このまま深い水(たぶん水)の奥深くへと落ちて死ぬんだろう。
・・・
・・
だが、どんなに深く落ちようとも、呼吸が出来るため、僕が死ぬことは無かった。っていうか、ここは天国か何かで、もう僕は死んだ後だったりして・・。ははは・・。
気が付くと、水でない何かの底へと僕はたどり着いたようだ。これ以上、もう落ちることはない(と思う)。
それにしても、驚くほど静かだ。そして生き物や水草なども見あたらない。あるのは水、岩、そして僕だけだ・・・
・・・と思って周囲を見渡してみたら、少し遠くの方に人影?を見つけた。僕は思いきって、その方へと泳いでいく。
(誰か居るのか?・・・)
僕はその人影の近くまでたどり着くと同時に、言葉を失った。
それは、あの屋敷に住む、僕が助けるべき少女そのものだったからだ。
いや、本人かどうかはわからない。だけど、膝を抱くようにして座っているその少女は、僕が目にしていたあの少女とそっくりなのだ。服装や髪型、体格など、うり二つである。
(おーい)
僕は彼女に声をかけようとした。しかし、(たぶん)水中なので、声が届かない。
しかたなく、彼女の肩に触れようとした。
(!?)
その時、僕は気が付いてしまった。少女の四肢が鎖で岩に繋がれていることに。おそらく、彼女はこの場所から、動くことができないでいる。
そこで僕の気配に気が付いたのか、彼女は顔を上げ、こちらを向いた。目を見開いた彼女の素顔を、僕は初めて見た。
(な・・・に・・?)
唇の動きから、彼女がそう言ったのがわかった。
僕は言った。
(君を助けに来た)
(本・・当・・に?)
半信半疑な少女の表情。
(うん、本当に)
僕がそう返すと、彼女はにっこり笑った。それが本当にまぶしくて・・・まるで・・・彼女から光が放たれたように光輝いて見えた。
そのまま光が一面に広がっていって・・・・
・・・・
・・・
「はっ」
「・・・目を覚ましましたか」
タキシード男・・・それにメイドさんも・・。あれ、さっきまで僕は、「彼女」と会っていた・・のに・・・・。
「びっくりしましたよ!お食事をお持ちしたら、倒れていらしたから・・」
メイドが本当に驚きを隠せないように言う。
「大丈夫ですか。しばらく気絶していたようですが」
「・・あぁ、たぶん」
体が動くか試してみるが、何ともないようだ。
「こちらの家政婦に呼ばれて、来てみたら、あなたが「テレパシー養成キット」の装置をつけたまま倒れていました。どうやら、感電のようでしたね。高圧電流が装置から流れていました。当時の状況を覚えていますか?」
そう言えば、そうだった。
「・・、どうやら装置の使い方を間違えたようですね。きちんと説明書きを読んで使ってくれないと、困りますよ」
「あぁ、済まない。迷惑をかけた」
「まぁ、何はともあれ、あなたもお嬢様もご無事で一安心です」
「あぁ・・・」
そうだ、そう言えば少女はどうなったのだろう。僕はチラっと彼女の方を見てみる。
少女はそれまでと同じように、人工装置に包まれながら、ベッドに寝ていた。
その後、少女の掛かり付けの医者に僕も見てもらったが、やはり何ともなかったらしい(よかった・・・)。
食事などを済ませたら、夜になっていた。
ふと先の出来事を思い返してみる。
僕が見た、あの光景はなんだったのだろう。
水中のような世界に存在していた彼女。
見た限り、今ここで植物状態となり眠っている少女とそっくりだった。というか、同一人物だろう。
僕はその彼女に約束をしてしまった。君を助ける、と。
「君を助ける」
今度は眠っている彼女に向けて、僕はつぶやいた。
なんとしても助けたい。さっき君が見せたあの笑顔に、僕は恋をしてしまったのだから。