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見慣れぬ屋敷。目の前には、人工的な装置によって生かされている少女。
「助けて・・・か」
彼女はなぜ、僕を選び、そして、僕にテレパシーで助けを求めてくるのだろう。それを聞いてみたい・・が・・どうすればいいのやら・・。
「ぐぎゅるるる」
・・・腹減った。考えてみれば、昨日の昼からなにも食べていない。タキシード野郎は僕にここに居ろというが、僕の食事とか面倒を見てくれるのだろうか・・。とりあえず、この部屋の外に出て聞いてみるか・・。
だがしかし、扉を開けて外に出ようとするも、外から鍵がかかっており、こちらからは開けられそうになかった。
「こりゃあ、だめだな」
おとなしく、外から人が来るのを待つしかないのか・・・。
しばらくして、扉をノックする音があった。扉が開いて、メイド?が食事を運んできた。
「さすがに死なれると困りますので・・」と言って、部屋の小さなテーブルの上に食事を置いてくれた。
「彼女の分の食事は?」
「あぁ、お嬢様でしたら、お構いなく」
何でも、食事も食べられない体であるらしい。考えてみれば、それはそうか・・。
食事を終え、メイド(どうやら本当にメイドらしい)がそれを片づけると、また扉は閉められた。食事の時に逃げるというのも・・・できなくはないのか・・・?
いや、だがあのタキシード男のことだ、きっと外で銃を握りしめて僕を待ち伏せしていることだろう・・・。部活動もろくにやっていなかった僕にとって、体を張った仕事というのは、どうにも手に着かないのは明らかだ・・・。逃亡はあきらめよう。
そこからは、僕と少女、ふたりきりの時間が続いた。だが、あれからというもの少女からのテレパシーはなく、沈黙が続いている。
「せめて、僕にもテレパシーが使えればなぁ」
「お困りですか?」
「わっ!び、びっくりした・・」
タキシード男め、いつの間に僕の背後に・・。やはりこいつは出来る男のようだ・・悪い意味で。
「ふふふ。お困りかと思って、こんなものを用意しました」
と言って、僕に何かを渡す。
「テレパシー養成キット・・・」
「はい、左様で。お嬢様と交信したければ、それを使って見てください」
「ちょっと、待て。なんで僕にやらせるんだ!ほかにテレパシー出来る奴とかいないのか?そいつを介してもらえば、楽じゃないか」
「くくく・・、お嬢様があなたに助けを求めているのを、忘れたのですか。あなたが交信して助けなければ、意味がないでしょう。お嬢様がそれを求める以上、私どもには、たとえテレパシーが使えたとしても、あなたをお助けすることはできませんよ」
「ぐぬぬ・・・。そうか。なら仕方ない。これ、ありがとう」
「いえいえ、せいぜいご精進ください」
男はまた扉の向こうへと消えていった。
残された僕は、もう一人残された少女のために、テレパシーを覚えようと頑張るのだった。
それからというもの、僕の格闘は続いた。「養成キット」に付属の本と、装置(頭に乗せて使うもので、精密な機械のよう。だが案外軽くできている)を使いつつ、テレパシーしようと悪戦苦闘していた。だが、マニュアルどうり試してみるものの、一向にできやしない。
「せめて中学校でそういう授業があったらなぁ・・・なんてな・・・。」
今日のところはあきらめるかなぁ・・・。はぁ・・。僕自身が電脳化された人間だったら出来るかもしれないのになぁ・・。ってアニメの観すぎか。
仕方なく、途方に暮れてる僕。
ふと、少女をまじまじと見てみる。装置に触れないように、その頬に触れてみた。その肌は白く、冷たい。何ともいたたまれない気持ちになった。
それからまた食事が来て、僕だけがそれを食べた。その後、執事?に連れられ、入浴を許された(着替えまで用意してもらった)。その間、少女をかかりつけの医者とか、看護士とか、メイドとかが検査とかいろいろしていたようだ。
それらが済むと、また部屋に戻った。窓の外はすっかり夜になっている(ちなみに昼間窓の外を見ると、庭園が広がっている)。僕は、何となくなぜか部屋にあるピアノの前に腰を下ろした。
「鍵もかかってないし、ちょっと弾いてみてもいいよな・・・。」
蓋を開けて、軽く弾いてみた。調律もちゃんとされているようだ。
「では、1曲・・・」
薄明かりの部屋で、僕はピアノを奏でる。曲は、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」だ・・。何とも切ない旋律が、静かな部屋の中に満ちていく。
そうして曲を弾き終わった。
「次は亡き王女のためのセプ○ットでも弾くかぁ?ここ屋敷だしな」と、冗談まじりに何となく、少女の方を見る。
少女は泣いていた。
「なっ」
僕の弾いたピアノに反応したというのか・・?
僕はピアノの椅子から立ち、少女の頬を伝う涙を拭った。
「(助けて・・)」
彼女の声がまた聞こえた気がした。