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その日は雨が降っていた。私は、お嬢様と一緒に施設を出て、駅に至るバスへと搭乗した。何を隠そう、今日はお嬢様との「初デート」。緊張の色は隠せない。一方でお嬢様と来たら、「今日朝タロット占いをしてみたのだけれど、あたらしい出会いがあるでしょう、っていう結果が出たわ!」などと他愛もないことを話す(あ、新しい出会いだと・・!?)。



しばらくして、駅へと到着した。それから、コンサートホールのある街まで電車に揺られた。電車は意外と空いていて、私たちは難なく座ることができた。だが、何駅か通過するに連れて、だんだんと混んできたため、すぐに座席は埋まってしまった。


そのおかげでお嬢様と密着して座ることとなった・・。どぎまぎする私。だが、相変わらずお嬢様はそんなことは気にもせず、血液型占いがどうのこうのといった他愛もない話をされている。私はうまい具合に話を合わせていた。


そんなこんなで、しばらく電車に揺られていると、目的の駅に着いてしまった。白いワンピース姿のお嬢様は、はしゃいだ様子で、「さぁ行きましょう」と言って、駆けていった。


「駅構内であんまりはしゃぐと危ないですよー!」


私はその背に叫んだ。すると、お嬢様は「わっ!」と叫んだかと思うと、次の瞬間には転んでしまった。私はすぐさま駆けつける。


「あいたた・・」


「ほら、言わんこっちゃありません」


「ご、ごめんね。私ったら、つい・・。こんな外出するのって、久しぶりだから、うれしくて」


「コンサートは逃げませんから、焦らなくっても大丈夫ですよ」


「えぇ、そうね」彼女は笑った。


「ごめん、ちょっと起きあがれそうにないわ、手を貸してくれるかしら?」


「え、ええ・・」私はとっさに手を差し出した。


「ありがとう」


そう言って、お嬢様は私の手を取り、立ち上がった。


「どうしたの?」


「いえ、何でもありません。はは・・」


ひょんな事で、お嬢様と手をつないでしまって、私はまたどぎまぎしてしまったのでした。



それから、コンサートまでまだ時間があり、お腹も空いたということで、店に入って食事を取ることにした。お嬢様と向き合っての食事・・。私はまたどぎまぎした。ふいに「今、私たちは他人から見たら、恋人同士に見えるだろうな」などと思ってしまい、それがまた余計私を緊張させた(私はこんなにも気が小さいのだ)。


一方でお嬢様と来たら、久々に外出できた喜びからか、非常に饒舌になっており、私とは対照的だ。さきほどから、「ねぇ、プラトンのいう、イデアってあると思う?」などと、話している。私は頑張って、うまく会話を合わせていた。



そんなこんなで、いよいよコンサートの時間となった。私たちは、入り口でチケットを見せ、難なく会場へと入った。座席を見つけ、そこに座る(これまた隣同士)。今度はどぎまぎしないようにしないとな、いや隣合わせで座っている時点でそれは無理だな、などと私は思った。お嬢様は熱心にパンフレットに目を通している。


それから程なくして、オーケストラが入場してきた。私たち観客はそれを拍手で迎い入れる。いよいよ演奏が始まる!


コンサートの曲目は、幻想序曲「ロミオとジュリエット」、弦楽セレナーデ、そして交響曲第6番「悲愴」で、オール・チャイコフスキー・プログラムだ。チャイコフスキー好きなお嬢様にぴったりな演奏会となっていた(だからこそ彼女を招待したという事もある)。



初めて聞く、オーケストラの生演奏。それを私の好きな人と聞けるなんて・・。私としては、もうそれだけで感無量だった。


演奏中、ふと彼女の方を見てると、彼女は泣いていた。




「綺麗ね。とっても・・」



・・・



・・




そうして、演奏会は拍手喝采のうちに終わった。




帰り道。

私は、お嬢様に言うべくして考えてきた言葉を伝えようと、タイミングを見計らっていた。だが、今日でいいのか?まだ早くないか?言うにしても、きちんとした場所がいいんじゃないのか?などという疑念が頭の中をよぎり、私はそれを言うことが出来ないでいた。



すると、お嬢様が、


「あのね、私、ちょっと今日思ったことがあるんだ」


と話を持ちかけてきた。



お、思ったこと・・?まさか、こ、告白?いや、そんなことは・・ない・・よ・な・・?



頭ではそんなことを考えても、顔には出さないよう平静を保って言った。


「はい、なんでしょう?」



「じ、実はね・・・私・・・」




その彼女の「思い」が、私たち二人の運命を変えることになろうとは、思いもしなかった。


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