勝手にトライアングルレッスン the First〜初めての◯◯〜ハツコイ
ハツコイ
「初恋かぁ...」
テレビの特集で、初恋のアニメキャラクターランキングが発表されているのを見ながら呟いた。
画面には子供の頃から馴染みのあるアニメのキャラクターばかりが並んでいる。
「あー、懐かしい、ゆいこ昔このアニメ好きだったよな」
たくみがわたしを振り返りながら言う。
「好きだったけど、別に初恋ではないよ?」
「知ってるよ。お前の初恋は....」
何かを言いかけて、たくみが嫌な事を思い出したように顔をしかめた。
「なに?たくみ」
「....お前の初恋は、ホラ、アイツだろ?」
「アイツ??」
面白くなさそうに若干口を尖らせながら言うたくみの言葉に、わたしは首を傾げた。
「あぁ、アイツな」
「?」マークを頭に浮かべるわたしとは裏腹に、ひろしがたくみに相槌を打った。
「え?だれ?誰の事??」
「自分で覚えてねぇのかよ、アイツだよ、お前の保育園に来てたあのうさんくさいヤツ」
「教育実習の男な」
失礼なことを言うたくみに珍しくひろしまでムスッとした顔で同調した。
「あぁ!わかった、下野先生だ!」
「そーだ、それだ、下野!お前、4歳くらいだったか?毎日毎日下野先生、下野先生って!あん時はマジで最悪だったな」
「たくみ、もう、失礼だなぁ。下野先生、優しくていい先生だったよ?」
「やっぱり、あの男がゆいこの初恋なのか....」
ひろしが面白くなさそうに言う。
「え?違うよ?下野先生のことは好きだったけど、恋とかじゃなかったよ?」
「じゃぁ....誰なんだよ、お前の初恋...?」
わたしの言葉に、
たくみが不安気に眉を寄せた。
「わたしの初恋は....」
言いながら目の前に並ぶ2人の顔を交互に見比べる。
「教えないっ」
「はぁ?」
「....」
ムッとしたように声を上げるたくみと拗ねたように唇を少しだけ歪ませるひろしを見ながら遠い昔を思い出す。
あれは....小学校6年生の冬休み....
春からの中学校生活に備えて通い始めた塾の初日
授業が終わったのは夜9時
家までそう遠くはないとは言え、それまでそんな遅い時間に1人で出かけたことはなく、家までの真っ暗な夜道が怖くてたまらなかった。
「バイバイ」
手を振って帰って行く友達を見送って、わたしも意を決して暗い夜道を歩き出す。
「怖くない、怖くない、怖くない.....」
自分に言い聞かせるように呟きながらオドオドと歩く。
塾から数十メートルも離れると、そこは街灯すらまばらにしかなく、人も車も通らない真っ暗な道路で、毎日通い慣れたはずの通学路なのに、今はぽっかりと口を開けたブラックホールの入口のようで、わたしは思わず立ち止まる。
塾まで戻って家に電話させてもらおうか....
来た道を振り返るが、背後にもまた暗闇が続いていて、脚が竦む。
「こ....怖くない....怖くない....怖くな.....こ、怖い....怖いよ....」
我慢も限界に達し、わたしが膝を抱えてしゃがみ込んだ時だった。
「ゆいこ〜!!」
「ゆいこっ!」
バタバタという足音と共に聴き慣れた声がわたしを呼びながら近づいてくる。
「た、たくみ!ひろし!!」
わたしは悲鳴でも上げるかのように必死で2人を呼んだ。
「「ゆいこっ!!」」
わたしに駆け寄り、2人が両側からわたしを引き起こしてくれる。
「怖いなら、塾で待ってればよかったのに。おかげでこっちは探す羽目になったんだぞ?」
たくみが心配そうに眉を寄せて言う。
「だ、だって、迎えに来てくれるなんて知らなかったし...」
「来ないわけないだろ、ゆいこ暗いの怖いの知ってるのに。....でも頑張ったな、ゆいこ、えらいよ」
ひろしが優しく頭を撫でてくれた。
「これからはオレらが迎えに行くから、ゆいこは塾で待ってろよ?」
「....絶対、迎えに行くから。....ゆいこの事は、俺らがずっと守るから」
心配そうにわたしを覗き込む2人に、ドキンと胸が高鳴った。
手を伸ばして、2人の手をキュっと握った。
たくみとひろしがいれば何も怖くない。
今思えば、あれは所謂「吊り橋効果」だったのかもしれない。
でも、あの瞬間、恋心を自覚したのは事実だった。
たくみが好き。
ひろしが好き。
世間一般の常識からは外れた想いなのかもしれない。
でもわたしにはどっちか1人を選ぶことはできないし、できる事ならこれからもずっと3人で一緒にいたい。
ずっと...ずっと。
これがわたしの初恋。
「ねぇ、たくみ、ひろし?」
「「ん?」」
「初恋って実らないって...言われてるじゃない?」
「うん?」
「わたしは...さ、それでいいと思ってるんだ」
「え?」
「どうして?」
訳がわからずに顔を見合わせるたくみとひろしを見ながら、ふふふと微笑う。
たくみが好きだから。
ひろしが好きだから。
この想いが届くことはなくても、ずっと一緒にいられるなら....。
わたしは2人の手にそっと触れた。
あの頃よりも大きく大人びた手。
簡単には離れないように....。
指を絡ませてキュっと握りしめた。




