天衛
「この者たちは皆神の御前に仕える天衛、好きな者を1人お選び下さい」
私達の前に五人並んだ天衛と呼ばれた人たちは、皆一様に白い布面を付けていて顔は見えない。
布面にはそれぞれに綺麗な柄が縦に刺繍されていて、一人一人形や色が違う。
神社の祭壇に垂れている垂れ幕の様に涼やかで、怖さは感じない。
体格から大半が成人男性と分かる。
三人が男性、一人が女性、もう一人は子供なのか体が小さい。
皆狩衣姿で一言も発しない。
「使用人って事?」
桜子がやっと興味を持ち始めたのかぞんざいに聞く。
「いかようにも。お嬢様方のお好きな様に」
「へぇ。イケメンかどうか布で隠れてわからないし、私、子供は好きじゃないの。汚いし、騒がれたらたまらないわ?ちょうど気の利く侍女が欲しかったし、彼女にするわ?」
桜子が女性の天衛を指差すと、彼女は一礼してから桜子の後ろに下がる。それをみて桜子は満足そうにうなずいてから部屋を出て行った。
残った男性の天衛は何事もなかったかの様にまっすぐ前を向いたまま動かない。
小さな天衛の子だけ、傷付いたかの様に下を向いている。
「あのお姉さんと私でね、思った事と反対の事を言う遊びをしていたの。だから貴方は綺麗でいい子って事だよ?びっくりしちゃったね、ごめんね」
かがんで話しかけると、サラサラの銀髪が揺れて私を見ている。
布面のせいで男の子か女の子かはわからない。
こちらからは顔は見えないけれど、本人達には見えている様だ。
「ひめしゃま」
ぽそっと小さい声が出た。
わぁ可愛い!
立っているし2歳ぐらいかな?でもすごく小さい。
何故か執事のお爺さんがびっくりした顔で子供の天衛を見てる。
まっすぐ前を向いて微動だにしなかった三人の男性の天衛達までバッと子供の方を向き驚いている様子が見える。
「僕…………で、いいのかな?」
こくんとうなずく仕草が小動物の様で可愛い。
「あっちにお菓子があるよ、いってみる?」
またコクンと頷く。
「慧眼であらせられる。では、この子になさいますか?」
「え?」
天衛を1人選ぶとかの話?
特に私には必要ないと思うけれど……
戸惑っていると、小さな手がギュッと私の着物を掴んだ。
その仕草が可愛くていじらしくて思わず頭を撫でると、男の子は一歩私の方に歩み寄る。
「では、私共はこれで失礼致します」
私の返事も待たずに執事が言い、天衛達と揃って綺麗な礼をしたと思ったら、その場でふわっと消えた。
◇◆◇
庭に向かって二人で歩く。
「お名前は?」
困った様な仕草で、キョロキョロとして、枝を拾って地面に文字を書いた。
“ 壱 ”
「壱くん?」
フルフルと顔を振る。何だろう。よく分からない。質問を変えてみよう。
「さっきの天衛のお姉さんのお名前は分かる?」
男の子は一瞬キョトンとしたあと(顔は見えないけれど多分)、また地面に文字を書いた。
參百捌拾貳
「ええっと…………さん、びゃく、はちじゅう……」
旧字体の数字に面食らう。
私の戸惑いがわかったのか、男の子はもう一度ガリガリと文字を書く。
——382
「382?382ってお名前なの……?」
またフルフルと首を振る。
「もしかして、382番…………?」
こくんと頷く。
「君は…………1番……?」
布面の下でぱあっと笑顔になった様な雰囲気がして、枝を持ったままぴょこぴょこと跳ねる。
番号で呼ばれていたという事だろうか。
神様のお世話をしていると執事さんは言っていた。神様の世界は名前を付けないのが普通なのだろうか。
「ええっと、お名前、もし無かったら私が考えても良いかな……?」
またこくんとうなずく。
庭のガゼボまでの小道を手をつないで二人で歩く。
さっき通ってきた時とは違い、軽やかな風が吹き花々を揺らしている。
「涼風…………涼風ってのはどうかな……?」
手をつないだままの小さなお友達がぴょこんと跳ねたので気に入った様だ。
「ふふふ、いいお名前だ。きっと涼風にはいつもいい風が吹くね」
歩きながらぴょこぴょこ跳ねるので、布面がふわふわと揺れる。
いつかお顔も見れたらいいな。




