央柱 類 2
「てめぇ…………何いいとこ邪魔してくれてんだ」
「申し訳ありませぬ!!」
怒られてるのにニコニコ元気いっぱいの類君が正座させられ、その横に涼風がまねをしてちょこんと座るのがおかしい。
「ふふ、二人ともおかえり。楽しかった?」
「はい!!涼風様が鬼神の如き動きで板前軍を殲滅いたしました!!」
節分だよね?
涼風の握った手に豆が数粒あって、私にあげると手を出す。きっとすごく楽しくて、私にお土産を持ってきてくれたんだとわかり自然と笑みが出る。
正座のまま元気いっぱい怒られてる類君の輪郭がゆがみ、あれ?と思う間もなく毛玉の姿にもどった。
「1時間か」
何だろう。
涼風が不思議がってツンツンと類君をつつく。
「類、先に里に帰っとけ。客が来る」
「承知ですっ!!!」
バサバサっと羽ばたいて、部屋から飛び立ちあっという間に見えなくなった。
嵐の様な子だな。
賑やかで、涼風に優しいもふもふ君。
涼風が名残惜しそうに空を目線で追うのでよっぽど楽しかったのだろう。
「涼風の、遊び相手として会わせてくれたの?」
「それもあるし、それだけじゃない」
月宗様はもう一度座ってしまい帰るそぶりはない。
「あいつは八咫烏で唯一人型になりきれない。初めて卵から産まれた子だ」
「もふもふで、可愛かった」
「そんな簡単な事じゃない。本来俺たちはあの姿ではない。人型を取れることが神格の高さを示すとされている」
「カラスの姿になれるのはあの子だけなの?」
「そうだな」
ふうん?
「結衣には偏見は無いし、俺と同等な地位を持つお前のそばにいれば手を出せる奴はいない。おいてやってくれるか」
「それは…………私は嬉しいけど……」
膝の上でぴょこぴょこ揺れる涼風も嬉しいと伝えてくる。
「類は……妖力は高いはずなのにな。当主の力が及ばないから、辛い思いをする者が増えた。青幽家の……いや、俺のせいだ」
「それがなんで当主のせいになるの?」
「当主一族の力が八咫烏全体の力になる。青幽家が力を失っていけば俺たちは皆カラスの姿になって眷属としての地位を失っていくのだろう」
「でも、月宗様は強いって……」
「まぁ積もり積もったツケが俺の代で出た感はあるけどな。それも含めて俺の責任なんだよ」
月宗様はそれっきり黙ってしまった。
眷属神の世界にも色々とあるんだな。
何となく片付けをしながら次の言葉を待つと、真剣な顔をした月宗様に名を呼ばれた。
「結衣、涼風の 神饌は、類に下げてやってくれないか」
「ん?いいよ??」
私の返事を聞くと月宗様は私の横にすわる涼風に向き合って、あぐらをかいたまま左右に拳をつけて頭を下げた。
「第一天衛に感謝申し上げる」
キョトンとした涼風がぴょこんと飛んで月宗様の肩車におさまると、手を伸ばして涼風の頭をガシガシと撫でて立ち上がった。
「さあ帰るか。客も待たせてるだろうしな」
お客様?時間を見ると8時半を過ぎている。こんな時間に?
お店の外に出ると、また全員が花道を作って挨拶をしてきた。
恐縮しながら立派な表門をくぐる。
その先には真っ黒なスポーツカーが停められていて、月宗様が後部座席のベビーシートに涼風をそっと入れ込んでいる。
「車で帰るの?」
「ゆっくり帰ろうぜ」
「お客様がいるんじゃないの?お待たせして大丈夫?」
「待たせとけばいい。結衣と俺が気を使う必要はない」
お客様なのに?
シートに縫い止められた涼風はなぜか楽しそうで、手を叩いて喜んでいる。
助手席のドアを開けて乗れと促す月宗様は全く焦った様子はなく上機嫌でますます混乱する。
まぁいいのならいいけど。
きっと月宗様へのお客様じゃないとかだろう。
湾の近くを通り、少し山道を通って見晴らしのいい高台に出た所で車を停めてくれた。本当に自由だな。
都会のイルミネーションを涼風と見て、車内ではしゃぐ涼風を捕まえてハンドルを握らせてくれる。
「次はいつ学府がある?」
「えっと、2ヶ月後かな」
「また迎えに行く」
「うん」
この人といる時の自分が好きだな、と変なことを思う。
ジェットコースターの様に環境が変わる花嫁に努めて気を使ってくれる。
私が息切れしない様に、私を急かさない様に。
ハンドルを曲げるたびにクマのお尻がフリフリするのを見て二人で笑い合う、幸せの時間。




