央柱 夜臣
「結衣、こいつも俺の臣下。八咫烏だけど、現世の仕事の補佐を任せてる。ってゆうか今はほとんどこいつがやってる」
「花柳院結衣です、この子は天衛の涼風です」
夜臣さんは月宗様と同い年くらいだろうか。
ツーブロックの金髪で、垂れ目の目元にホクロがあって、耳には沢山のピアスが光る。
うん、スーツ着てなきゃ完全に不良。
唯一垂れ目なのが優しさを出してるけど、それを上回る不良感……。
「央柱夜臣だよ。ごめんね結衣ちゃん、こいつぶっきらぼうで愛想ないでしょ」
中身は優しそうで安心する。
「いえ、月宗様は優しいデス…………一番」
「俺の知ってる月宗じゃないんだけど、結衣ちゃんの言ってる月宗どこの月宗?」
「うるせえぞ夜臣」
料亭の最奥の個室。
テーブルの上にお茶を出した後女将が三つ指をついて挨拶をし、月宗様が「かまうな」と一言だけ告げると去っていった。
割と広めの畳の座敷にはローテーブルと座椅子、脇に囲炉裏まであり、パチパチと炭がはぜる音が心地よい。珍しく二間続きになっていて、奥の部屋はソファーセットが置かれてる。
部屋の隅に子供用の小さな滑り台があって、涼風が興味津々でいろんな方向から眺めてる。
「羽根、大丈夫だったの?」
術をかけていたんだろうか。
「ああ、ここの従業員は八咫烏を祀る家の者達だ。分かってるから、大丈夫なんだよ」
そんな家があるのか。
「チビちゃんは…………食べないから後で2人分用意させる。月宗、お前適当にやって飛び出していきやがって。明日の重役会までに目だけ通しとけよ?」
夜臣さんはそう言ってバサバサっと資料を渡し、テーブルにノートパソコンを出した。
「全俺が働きたくないって言ってる」
「お前の肩に青幽グループ全社員の生活がかかってんだぞ」
「もう全部お前がやりゃいいだろうが。結衣とのデートで俺は忙しいんだ」
ここで夜臣さんがチラッと私を見た。
なんだろう。お邪魔だったかな。
「仕事しないニートはモテないと思うが」
「宗主は仕事にならんのか………………」
「結衣ちゃんとのデート代と結衣ちゃんへのプレゼント代。俺が稼いでいいんだな?」
「………………………………やる」
「ふふっ、あはは」
すっっっっっごく嫌そうにノートパソコンを引き寄せ資料を見始めた月宗様に笑ってしまう。
「結衣ちゃん、央柱が責任もってニートは回避するよ」
「おうばしら?…………八咫烏は柱が付く苗字がおおいんですか?雲雀君は右柱ですよね?」
「右柱、左柱、央柱が青幽家直下の重臣家系。三柱って呼ばれてちょっとだけ偉いよ」
「央柱家が俺の母上の後ろ盾に付いた縁で夜臣は幼い時から俺の側使い」
「二つ上なんだ、兄やと呼んでくれてもいいぞ」
なる程、それで気安いのか。
子供用滑り台をしげしげと見つめるだけの涼風を抱き上げて上から滑らせると、シューーっと滑った先でサングラスからうっすらのぞく目がパチパチしていてびっくりしてる。
「ふふ、もっとやってみようか。ポシェットはあぶないから置いておいで?」
ポシェットの肩紐を掴み部屋をキョロキョロと見回す涼風は何かを探している風。ピコンと気づいた仕草をした後、月宗様が座るあぐらの中にポシェットを置いてきた。
「おい、俺はふざけたカバンを守る護衛じゃねえぞ……」
呆れた声を出すけれど、それでもポシェットはどかさない。
こういう所が、好きだなぁと思う。
2人がお仕事を始めたのを横目に涼風と遊ぶ。
何度も繰り返し滑った後、積み木を空間から取り寄せてそれも滑らせていた。
たくさん遊んで喉が渇いた頃、夜臣さんが「明日はサボんなよ」と言って下がっていき、入れ替わりに女将と中居さん達が来てテーブルの上にどんどん懐石料理を並べて行く。
「腹減った。鬼かよあいつ……」
「…………ふふ、仲良しだね。四つ守さん達とはまた雰囲気が違う方だったね」
「よく分かったな。あいつは片翼なんで人間の世界の方が合ってんだよ」
そういう意味で言ったんじゃないんだけど……
「片翼…………」
「関係ねえよ、あいつは優秀だし、こちらの世界で羽根は使わないしな」
「そうだね、私なんて両翼ないもんね」
食前酒で乾杯して、部屋の中には三人だけ。
満足したらしい涼風は私の膝の上で猫の様に丸くなって眠っている。
サラサラの銀の髪を撫でて、何か別の話題をと探す。
「カラスのお里にいれば、こちらの世界にも来やすいね」
「序列が低いのもたまには役に立つな」
「お仕事がお休みの日に、カラスの里を案内してくれる?」
「そのつもりだよ」
「結衣、カラスの里では我慢しなくていい。お前は我慢に慣れすぎてる。桜子みたいに振る舞ってもいいんだぞ?」
それはご遠慮申し上げたい。
「我慢なんてしてないよ。月宗様と、涼風がいて、周りの人達もあったかくって…………こんなに幸せでいいのかなって思うぐらいで……」
カコンと、庭の鹿威しが鳴る。
上手く気持ちを伝えられない。
あなたが好きだから嬉しい、と伝えたい。
もどかしいまま食事を終えるとひょいと涼風ごと抱かれて続き間の部屋のソファーにすわり、彼の膝の上で真っ暗な羽根の中に入る。
暖かな羽根の中で、彼が私の髪を撫でる。
ここにいると眠くなってしまう。ウトウトとまどろんで彼に涼風ごと体重をかけた。




