不調の日
三題噺もどき―はっぴゃくごじゅうはち。
今日は朝から、なんだか。
体調が悪いわけでもない。
嫌なことがあったわけでもない。
「……」
ただ何となく。
何かと何かのボタンが掛け違えているような。
何かと噛み合っていないような。
何かがおかしいようなおかしくないような。
「……」
妙な違和感がずっと居座っていて。
何をするにもなんとなく。
身体が重くて。
「……」
それでも学校に行かないといけないから。
太陽のあまりの眩しさに眩暈を覚えながらも。
食べた朝食が胃の中からせりあがりそうになりながらも。
妙に痛む頭を抱えながらも。
「……」
なんとか学校に来て、なんとか午前中を終えた。
どの授業も、どうにも頭に入らなかったけれど。
ただでさえ頭を抱えたくなる数学や英語の授業は、ノートを取るので精一杯だった。
まぁ、まだ復習の段階も含めつつの授業だから……。
とは言いつつも、ついていけない現実はあるので、なんとかしたいものだ。
「……」
休み時間の間も、今まで通りに読書をしていたんだけど。
頭には入ってこないし、ただめくるだけで、文字を追うだけで、それだけでなんとなく疲れて、早々に閉じてしまった。
「……」
スカートの下に隠しているカッターには、手を伸ばさなかっただけ。
マシな感じだな、今日は。
よく分からない不調が一番面倒で嫌いでだるくて死にたくなる。
「……」
今は。
昼休みを迎えた教室にいる。
もちろん、あの子の教室。
「……」
昼食をそれぞれ食べ終え、談笑したり、スマホをいじったり。
1学期が始まったばかりのこの時期は、教師が時折みにくるので、それを警戒しつつスマホをいじっている。ホントは校内での使用は禁止されているからな。
「ね、聞いてた?」
「……ん、ぁ」
いけない。
ぼうっとしていた。
どころではない。
「……大丈夫?」
「大丈夫だよ、なんだった?」
スマホをこちらに見せていたから、何かまた見つけたのだろう。グッズの最新情報だろうか、画面にはあるアニメのキャラクターを模したキーホルダーなどが映っている。
……ゲームとかアニメのグッズの最新情報とかって、どうして日中にされるんだろうな。学生は追うこともできない。私は買うお金もないけれど、物欲も刺してないから困らない。
「……」
「へぇ、かわいいじゃん」
そう返事をしてみたのに、あの子はじっとこちらを見つめる。
ついでに、パタリと、スマホを伏せてしまった。
大きな黒い瞳と、目が合い、なんとなくそらしてしまう。
「……」
「なんかついてる?」
「……」
「……大丈夫だよ、何でもない」
「……ふーん」
「……ほんとに、ちょっと」
「ちょっと?」
「調子が悪いだけ」
その答えに満足したのか否か。
スマホを持っていた手を離し、こちらに伸ばす。
何をするのかと思えば。
「……まぁ、今日はいいでしょう」
「なにが……」
さらりと、頭を撫でられた。
少し冷えた指先が、軽く耳をかすめる。
じわりと、視界が滲む。
「楽しい?」
「たのしい」
それをごまかすように、そんな風に言ってみる。
微笑みながらそう答えた声に。
ぎゅうと、苦しくなる。
「……」
ほんと、この子にはかなわないな。
お題:眩暈・滲む・ボタン




