冬
扉をあけると、いつもお祖父様がいる。
ついこの間まで元気に社交をしていらしたのに、今は常にベッドの上だ。
あんなにお家では苦しそうだったのに、ベッドの上では昔の様に笑顔も見せる。
でも顰めっ面の方が多いけど。
侍女たちにも昔と変わらず優しく接しているようだ。
お母様からの伝え聞きではあるけども、また差し入れを侍女にあげたらしい。
お祖父様に食べてほしいのに。
でもしょうがないな。それがお祖父様だから。
私が思い出せるのはそれだけ。
あとは機械に繋がれて2日も頑張ってくれたこと。
皆が別れを惜しんでくださった事。
私が途中で外に食事を買いにいき山程買ってきて兄弟達に呆れられたこと。
そして旅立つ瞬間。
何度も声をかけて涙を流した事。
声をかければ答えるように息をしてくれたこと。
でも何度も声をかけ続ける勇気が私にはなかったこと。
3度目の声をかけようとして、やめてしまった事。
今でも後悔している。
声をかけてもかけなくても同じことだったかもしれない、けれど答えてくれるうちはかけ続けた方が良かったのではないか。
その瞬間を私が決めてしまった様で怖い。
もしかしたら私はそれが怖くて泣いていたのかもしれない。
そしてお祖母様が直ぐに侍女を部屋に入れ、家族皆が怒りあとはもう濁流に流される様に時間が過ぎた。
もう思い出せるのはもこれくらい。
あとは自分とお祖父様との姿絵が無くて悲しかったこと。お兄様との姿絵は残っていたのに。
そうそう、私だけが成人しておらずお酒が飲めず酒豪のお祖父様と飲みかわせなかったのも後悔だわ。
まぁ年齢だけは仕方がないけれど…。
それでも悲しかった。寂しかった。
兄弟達が羨ましかった。
なんてことはない日常は直ぐに崩れ去る。
その事を真に思い知ったのもこの頃だった。
共にいた友人たちが離れていき心を壊した弱い私。
兄弟やお母様、体の弱ったお祖父様にあたるしか出来なかった日々。
そんな日々もお祖父様の負担になったのかもしれない。
今ではそう思えるけれど、あの頃はなにもわからなかった。
今でも分かっていないのかもしれない。
それでも、それでも日々は過ぎ去り時は流れ、お祖父様の声が聞こえない日々が当たり前になり、いつの間にか10年の月日が流れた。
もう今ではお祖父様の声も笑顔も思い出せない。
その事に悲しみを抱いていた時ももう過去となってしまった。
それでも皆の中心にはお祖父様がいる。
どこかで繋がっている。




