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仲良しカップルシリーズ

通話越しで共に眺める天の川は美しく輝いて

作者: 本羽 香那

「1年に1度にしか逢えない夫婦と1週間ぶりに再会した夫婦」の1年後の七夕のお話。

https://ncode.syosetu.com/n9008jf/

相変わらずの仲の良さです。


「去年は何とか最後一緒に過ごせたのに、今年は完全に別れてしまうだなんて悲しいわ……」

「それは俺も同じだ。まさかこんな日に泊まりがけの出張だとは思わなかった」


 こんな重い雰囲気で会話をしているのは、結婚2年目となる詩乃(しの)颯真(そうま)。本日は7月7日と七夕であるのだが、彼は去年と同じく今年の七夕も出張であり、また今回は前回も違って泊まりがけであるため、2人は一緒にいることは出来ずにスマートフォン越しで会話しているのだった。


「1人で素麺とオクラを食べるのは、今回始めてだったよ」

「素麺とオクラは堪能出来たか?」

「うん、美味しかったけど……でもやっぱり寂しかった」


 彼女は幼い時から七夕から素麺とオクラを食べるのが風習であり、今年は1人ながらも律儀に食べていたのだ。その話を聞いた彼は、相変わらずブレないところを微笑ましく思ったが、彼女と一緒に食べることが出来なかったことは、やはり彼女と同じく寂しく感じてしまう。


「颯真は短冊に願いはしっかりと書いたの?」

「それも確認するんだな。ちゃんと書いた。願いもいつも通りだ」

「ならよろしい。今年は私も颯真と一緒の願いを書いたよ」

「詩乃はいつもの願いで何を書いたかお見通しなんだな」

「当然だよ。何年一緒にいると思っているの?」

「確かにもう出会ってから13年だもんな。なんだかんだ言って長い付き合いだよな。まあ、これからもっと長い時間を過ごすことになるけど」

「そうそう。これからも13年とは言わずにずっと仲良く過ごそうね」


 最初は暗い雰囲気だったのに、話し始めると明るくなるのは、この2人にとっては通常運転である。このやり取りに安心感を覚えるのは、きっと長年の付き合いがある2人だからだろう。結婚歴はまだ浅いものの、それ以上に2人には強い絆があるのだから。

 もう少しでお互い30歳に突入すると言うのに、相変わらずこの変わらないラブラブさは、伊達に街全体からバカップルだと言われていないのだと、改めて認知させられる。


「でも折角の七夕なのに、今日は雨だから悲しいわ。1年に1回しか会えないのに、織姫と彦星が会えないのはとても寂しいだろうな。私は颯真と一緒に今いないから十分寂しいけどね」 

「そっか……そっちでは雨が降っているのか……」

「最後の言葉を無視しないでよ」

「あ、ごめん。それは俺も一緒だよ。詩乃と一緒じゃなくて寂しいさ……って言わなくても分かるだろう」

「私は面倒な女だからどんな時でも反応が欲しいんだよー」

「そう拗ねるなよ。いつも以上に寂しそうだな」

「そうね……何だかこの会えない状況を2人に重ねているのかもしれないわ」

「まあ……詩乃らしい落ち込み方だな」

「それってどういうことよ」

「そのままの意味だけど」


 詩乃は生粋の文学少女であるため、それが物語であると分かっていても、感情移入したまま、このようにその物語の登場人物に重ねて、喜んでり悲しんだりするのは日常茶飯事だった。それは文学部で博士号を取ったとしても、全くこの傾向は変わらないのだから、きっと変わることはないだろうと、彼は常々思っており、今もそれを体感することとなったのである。そんな今落ち込んでいる彼女を少しでも励ましたいと思った彼は、彼女にとある行動を促した。


「詩乃、今からビデオ通話にしてくれるか?」

「ビデオ通話……いつもはそんなことしないのにどうして?」

「それはしてからのお楽しみ」


 ここまで仲が良い2人が何故普段からビデオ通話にしないのか? それはあまりにも仲が良すぎて時間がある限りずっと話し続けるからである。

 普通の通話だけでも時間があれば平気で1時間以上話すことも珍しくはないのだが、ビデオ通話だとより会話が弾むのか、酷い時は3時間以上も話していたこともあり、それだけで2ギガ近く使うという失態を犯したのだ。

 その時の2人は大学生と、まだ両親に電話代を出してもらっていた頃だったので、共に両親に怒られ、それ以降ビデオ通話は10分以上は駄目と禁止されてしまったのである。

 今はお互いに働いているため、自分達で電話代を出しているものの、その時の名残からずっと基本的にビデオ通話はしないことにしていた。それに夫婦になったことで、そこまで長く離れることも大きな理由であろう。

 だからこそ、普段しないビデオ通話の提案に彼女は驚いたのだ。しかし、彼にあそこまで言われたことをしないわけにもいかず、彼女は直ぐ様ビデオ通話に切り替えた。


「颯真……え、これって……。とても綺麗ね……」


 彼女の目に映ったのは、会話している颯真ではなく、夜空に広がるとても壮大な天の川だった。彼女はその美しさに息を呑んでしまう。


「そっちではこんなにも晴れているんだ」


 彼女はこっちでは雨が降っていて何も見えないのに、そっちでは快晴でここまで綺麗な天の川が見れるため、寂しい反面羨ましかった。そして、何よりも彼が自分を励ますために、天の川を見せてくれたことが嬉しかった。


「詩乃はさっき織姫と彦星が会えないのが、自分達が会えない状況と重なって寂しいと言ったけど、こっちではちゃんと織姫と彦星は会えているだろう。俺も明日にはそっちに帰るし、1年も会えないわけじゃないだからなさ。というか、1年も詩乃に会えなかったら俺が発狂する」

「1年も颯真に会えなかったら私の方が発狂するよ」

「いや俺の方が発狂すると思うけど」

「いや私よ……」

「俺だ」

「私」

「「あはは」」


 またいつも状況に戻った2人は安心して、思わず笑いが込み上げる。そこにはとても離れているのにも関わらず、とても幸せな空気が流れていた。


「颯真、本当にありがとうね。お陰で元気になったわ。でも、他の場所だと織姫と彦星が会えているっていう発想は今まで無かったから驚いたな〜」

「え? そうなの? 詩乃が今までその考えに至らなかったことが俺は今驚いているけど。本当に博士号を取った人だとは思えない……」

「私が研究していたのは文学だから天の川伝説は専門外なの!! 颯真だって理学部で博士号を取っているけど、していたのは数学の研究だけでしょ」

「あ、聞こえていたのか。そこまでムキにならなくても……でも傷つけたのは悪かった。本当にごめん」

「うんん、こっちこそ言い過ぎた……ごめんね」


 こういった痴話喧嘩もこの2人はよくあることなので、何も心配する必要はない。寧ろこういったやり取りがある方が2人らしくて安心すらするだろう。案の定2人は何事もなくまた会話に戻っていた。


「颯真はさ、いつぐらいから何処かでは2人は会えていると考えていたの?」

「そんなの話を聞いた時から、世界の何処ぞでは会えるだろうし、そんな伝説馬鹿らしいなと思っていたけど」

「馬鹿らしいだなんて……そこは悲しい伝説だと同情するところでしょう。でもそれが颯真よね」

「どういうことだ?」

「そのままの意味よ」


 彼は数学オタクのせいか、常に現実的に考えるところがあり、詩乃とは反対の考え方だった。だからこそ、何も罪悪感無くそんなことを言えるのだろう。それは今では十分に理解出来ていた。それでもやはり彼女はあまりにも切り捨てた発言に寂しさを覚えてしまう。だが、その寂しさは次の言葉で打ち消されることになった。


「勿論、今は馬鹿らしいなんて思っていないさ。そういう伝説があるからこそ、夢があるんだろうしな。そう考えるようになったのも、詩乃に会ってからだけど」


 当初の彼なら彼女が何を言っても、切り捨てていただろう。こうやって受け入れてくれることに、彼女は喜びを感じた。そして改めて、彼は自分の影響をしっかりと受けているのだと彼女は実感した。だけど、影響を受けたのは、勿論彼だけではないのだ。


「私も颯真に会って色々現実的に向き合えるようになったわ。現実的に向き合えるからこそ見つけられることもあるわよね。今まさに織姫と彦星は何処かではいつも会っていると分かったのだから」


 昔の彼女ならば、どうしてロマンティックに考えられないのと、責め立てていたことだろう。こうやって彼女が自分の考え方を受けていてくれたことに、彼も彼女と同じ喜びを感じていた。


「颯真、改めて今日はありがとう。素敵な七夕になったよ」

「それなら良かった。こっちも素敵な七夕になったから」

「もう日付もそろそろ変わるし、寝よっか」

「そうだな。ちょっと寂しいけれど、俺も眠くなってきたし寝よう。詩乃、お休み」

「お休み、颯真」


 こうして、せーのと言う掛け声で同時に会話を終わらした2人だったが、まだその余韻がお互いに残っているようで、2人が眠るのはもう少し後だった。

 こんな仲睦まじい2人が短冊に書いた願い事は、織姫と彦星の力を借りなくても叶うことは間違いないようだ。


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― 新着の感想 ―
素敵なお話しに感謝!です。 今はリアルタイムでビデオ通話ができるのでしたね。私の40年程前。相方様との遠距離の時は家電で絆の隙間を埋めていた事を思い出します。作者様の通話の締めくくりは私達もしていまし…
たとえ離れていても、強い絆をもつ二人。今回もそのやりとりに引きこまれました。昨年の二人の作品、その中の素麺とオクラも、よく覚えています。 雨が降っている空もあれば、晴れている空もあって。織姫と彦星も…
っぱこの二人なんだよなあ( ˘ω˘ )
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