アンドレア・エルフローレン3-3
「分かった!分かったから」
そうは言うが身を縮めるだけで、動かない。
俺は目の前の隊員の肩を掴み、怒りに任せて勢いよく横に引っ張り倒した。
床に打ち付けようが、知った事ではない。
危険と隣り合わせな上に、2度も同じ様な事をさせるそいつに、だいぶ腹が立っていた。
肩を打った様で押さえていたが、俺はそれを一瞥してドアの鍵を外した。
ゆっくりと開け、窓に近寄っていた2人を手招きで呼ぶ。
カイルはすぐに気付き、足音を立てない様、こちらへ来た。
後方には彼も見える。
壁に積もる人間を見ない様に、やや下を向きながら、ちゃんとカイルの後ろに付いて来ていた。
2人を招き入れた後、そっとドアを閉め鍵をかけた。
「何があった?」
「キッチンに居た幼体よりも…更に小型が無数に発生した」
カイルが休憩室の机の上に手を付いて、精神的な疲労と苦痛をなんとか持ち直そうとしている。
「焼き切れてなかったのか?」
「否、分からない。待機していたら…足元に…」
蜘蛛が苦手なカイルが、よく叫ばずに居れたモノだと思う。
「それで、もう一つの方のドアに集中していたから、気付かれない様に出て来た…。良いタイミングで開けてくれたな」
引き攣りながら笑みを浮かべるカイルとは逆に、隣にいる彼の顔色はさっきよりマシになっている。
「で、君は?」
カイルが金髪の隊員に気が付いた。
頭と膝を抱えて震える、情け無い隊員に。
「そいつが中にいた奴だ。ドアを開ける妨害もした…な」
そう告げると、肩をビクつかせた。
「そうか、だから…銃か…」
俺の手に握られた銃に目線をやる。
「引き金はもちろん、撃鉄も起こしてはいない」
銃をホルスターに仕舞う。
カイルにため息をつかれたが…。
「今そいつが怯えているのは、お前の持つ銃だと思うが?」
カイルの手元を指差す。
自分も銃を携帯している事を忘れていたらしい、カイルの銃は撃鉄が上がっている。
ま、上がっている事に奴は気付いていないだろうが、カイルの動きに反応して、ビクビクと肩を震わせている。
「あ…すまない」
そう言って人の居ない方を向き、撃鉄を持ちながら引き金を引く…。
安全装置を掛ければ速いのにと思うが、これも人それぞれなのだろう。
「これで安心だろ?」
そう言ってホルスターに収まった銃を、縮こまった奴に見せた。
「君は…第二のジャン・ゴードンじゃないか」
「俺を知っているのか?」
「あぁ。少しばかり脅かせたみたいで…すまないな」
カイルが「ジャン」に手を差し出して、立ち上がらせる。
「ジャンも怪我はないか?」
「あ…あぁ、大丈夫だ」
『カイルは優しいねぇ』
『と言うか…人との距離を詰めてくるねぇ』
2人がやり取りする中、低俗な声は消える事無く頭に入ってくる。
嫌気が差すが…周りには気取られ無い様、振る舞わなければ…。
動揺を隠しながら、反対側のドアの窓を覗く。
やはり幼体がいた。
…キッチンにいたモノを考えると、アレが幼体とは思えないが、隊では「幼体」として認識されている人の二倍程度の大きさの奴だ。
丁度、ドックと医務室の両方のドアを封鎖する様に廊下を陣取っている。
『足手纏い2人、アイツから逃げられるか?』
『楽しみだな。アンドレア・エルフローレン』
意識をしない様にすればする程、声はうるさくなっていく。
不意に横に何か、気配を感じ、視線を向けると…少年と目が合った。
思わず高速で目を逸らしたが…。
彼の…。
美しくも恐ろしい、ガラス玉の様な目が、瞼の裏に焼き付いた気がした。




