A班 救助用機体5021 カイル隊員3-4
一難去ってまた一難…。
まさにこれが、藤田の言っていた言葉通りの状況なのだろう。
この卵を孵化する前に殺すか、このまま放置して退散するか。
今なら抵抗なく殺せるだろう。
遺体諸共、油か何かを掛けて焼けば良い。
だが、そこから火災が起こる危険性も考慮しておくべきだ。
逃げる前に火に巻かれるなんざ、あってはならない。
まして自分がつけた火でなんて、滑稽すぎる。
キュッ
蛇口が開く音がした。続いて水がグラスに注がれる。
アンドレアが水の入ったグラスを差し出した。
俺はそれを受け取り、喉を潤す。
かなり喉が渇いていたのだろう、ただの水が美味しく感じた。
グラスをアンドレアに戻すと、同じグラスで彼も水を飲んだ。
お互い生き返る思いがした。
目の前にはグロテスクな状態の、化け物の卵があるというのに。
「これを…どうするか、だな」
「産み立て…なのだろうか」
「分からん。研究所の人間なら分かるだろうが、俺にはいつ孵化するか、見当もつかない…」
「俺も分からないな。江島女史でも居れば分かるだろうが…」
「江島?」
「あぁ、本庄上官の所に居た女性だよ。娘には部下だと言っていたが、彼女は研究者のはずだ」
「研究者が学生に何の用だ?」
「さぁ。詳しくは聞いていない。本庄上官も上からの指示だと言っていた」
本庄凛には彼女が研究員だと教えるなとは言われていたが、よくよく考えると娘の世話は他の女性隊員でも良かった筈だ。
あの時の俺は、あまり深く考えていなかった。
「ま、その女史は居ないしな…」
「研究室側の奴らは、避難できたのだろうか」
「どうだろうな。避難後なら良いが…廊下があれじゃ…」
「本館の方の脱出用ヘリで出ていたら良いんだが」
目の前の卵を、観察しながら会話をする。
動きはないから、今すぐ孵化するという感じでもなさそうだ。
「二匹とも…こいつの中に居たんだ」
アンドレアがもう一杯水を差しだしながら言う。
俺は手で遠慮を表すと、彼は自分で飲んだ。
水だけじゃなく、何かを流し込んでいるのかもしれない。
「喰い破って…出てきた。ふっ…人間の中でヤッってるなんてな」
グラスを置き、こちらを見る。
「外見からは分からなかった…もしかしたら、そこいらに転がっている死体にも…居るかも知れないと思えて、背筋が寒くなるよ」
その台詞を聞き、俺も背中に寒気がした。
足元にも遺体がある。
俺はキッチン台の上に置いてあるオリーブオイルの、小さな瓶を手に持った。
「オリーブオイルって…燃えると思うか?」
「油だから燃えるだろう」
その答えで、俺はシェフの体に掛けていく。
下半身の卵を目掛けて。
そして、マッチを擦って彼に向って放り投げる。
火は円を描きながら遺体に落ち、炎が一気に燃え上がった。
サラダ油より燃えやすいみたいだ。
嫌な臭いが辺りに立ち込め、咳き込む。
デカい鍋二つに水を溜め、彼の体の中が焼けるのをしばらく見守った後、油も燃え切った頃合いにそれを2人で同時に掛けた。
一瞬、炎がさらに上がったが、水の量が油の量を超えたのだろう、火は鎮火した。
「すまない」
そう告げ、手を合わせた。
アンドレアが訝しげな顔をして、俺を見ている。
「藤田の教えだ…」
そう言って、食堂の…滝中君がいる方角へ足を向ける。
が、アンドレアは進まず立っていた。
それに気付いて、俺は振り返る。
「どうした、アンドレア」
立ってまま、アンドレアは動かなかった。
表情は薄暗く見えなかったが、気にせず俺は足を進めた。
滝中君に遅れた事を詫びていると、少し遅れてアンドレアが合流する。
「では、打ち合わせの通りに俺が鍵を開けてくる、2人はここに」
アンドレアに2人で頷く。
「Good Luck」
彼はハンドサインで答え、食堂から出て行った。




