A班 救助用機体5021 カイル隊員3-3
俺の、大嫌いな…蜘蛛。
その何倍も有る巨大な…化け物の…。
奴はゆっくりと俺の顔の前に降りて来た。
蜘蛛が糸を伝って降りてくる様に、音も無くすーっと。
楕円の胴体に、細く長い脚。
柔らかさとは程遠い、釣り針の返しの様な毛が黒々と何本も生え、刺さりそうな程鋭い先。
その脚で捕らわれれば、死ぬまで離されないだろう。
そう、死ぬまで。
一歩後退る。二歩目にも奴は襲って来なかった。
ただ、複数の煌めく目を、俺に向けて居るだけだった。
アンドレアの方から、奇妙な音は消えた。
三歩目、複数の目の下の…口らしい部分が…嫌に速く動いているのが見えた。
撃つしかない。
…そう思って銃口を向ける。
が…外の、アイツが来てしまう。
滝中君を危険に晒してしまう。
それは本当に正しいのか?
俺は躊躇した。
こんな状況なのに。
銃を下げ目の前の奴を見る。
「すまない、アンドレア。コイツの始末と滝中君を…頼む」
俺は喰われる覚悟を決めた。
俺が喰われている間に、アンドレアがコイツを殺してくれる事を願って、奴に向かって歩を進める。
「何馬鹿な事を言ってるんだ」
肩がグッと後ろへ引っ張られると同時に、アンドレアの右手が俺を追い越し、持っていたナイフで奴を突き刺した。
「馬鹿な覚悟は決めるな!」
耳元でデカい声が聞こえる。
目の前の奴の、胴体のど真ん中に…突き刺さったナイフは柄の元まで減り込んだ。
なんとも言えない音が鳴り響く。
奴の断末魔…最期の叫び。
俺は後倒しになり、尻餅を付いた。
「すまない…」
「本当にな」
謝る俺に、アンドレアが呆れた声で返す。
銃一丁しか持っていなかったアンドレアは、いつの間にかナイフ…包丁を2本拾って戦っていたらしい。
「少し短絡的だったな」
「すまない…」
「命を賭けるのはもっと先だろう」
「そう…だ。その通りだ…もっと窮地に立たされた時だ」
「ったく…まぁ、良い。これで二匹、仕留めたな」
アンドレアが持つ包丁に、突き刺さったまま…奴が力無く脚を垂れ下げていた。
それを放り投げ、アンドレアが手を差し出す。
その手を掴むと、助け起こされた。
本当に、申し訳なさで一杯になる。
「水汲んで彼の所へ戻るぞ」
アンドレアの言葉に頷き、彼の後ろを歩く。
ふと、キッチン台の上のグラスを持ったアンドレアが、止まった。
「どうした?」
「見ろ…あれ…」
彼の視線の先には、無惨なシェフの死体がある。
「喰われたのは…みたぞ…」
「違う、死体の中だ…」
「死体の…中?」
「下腹部の…」
言う通りに下腹部辺りを見る。
「何だアレは…」
そこに有るモノに、俺達は絶句した。
白い柔らかそうな糸で包まれた、少し黄色っぽくも有る…直径30センチか40センチの…シェフの腹の中にピッタリと、収まっている楕円形の塊。
嫌な予感がする。
背中に悪寒が走り、腕に鳥肌が立つ。
「ヤバい…か」
俺の脳裏に浮かんだ事は、アンドレアの脳裏にも浮かんだ事だろう。
「ヤバいな」
俺もそう答える。
「逃げるか?」
「逃げれるか?」
顔を見合わせる。
「どおりで二匹目の奴…動かなかったんだな…」
ため息混じりにアンドレアが言う。
「産んだのか」
「らしいな」
「人間の?」
「中に。オスが俺を襲いメスが守ってたんだな」
「アレは幼体じゃないのか?」
「…分からん」
2人でシェフの腹の中を眺めながら途方にくれる。
「いつ、孵化するんだろう…か…なぁ…」




