アンドレア・エルフローレン(通称ポチ)5
動物の死の描写と残酷な描写があります。
苦手な方はご注意ください。
気付いたら暖かい所にいた。
隣にさっき一緒にいたちびっちゃいのが寝てる。
一緒に鳴いてた奴や。
ふわっとしたものに包まれて、わては口に何かを押し当てられた。
仄かに温かくて甘い匂いがするそれは、今思えば哺乳瓶だったのだろうか。
はたまたただの布に乳を含ませ、わてらに吸わせていたんだろう。
腹が空いていたわては一心不乱に吸い付いた。上手く吸えず、探し探し口にした。
どうも上手く吸えないわてに、誰かがぐっとそれを押し当てた。
柔らかな優しい声が聞こえた。
白い靄の中で…暖かく、幸せな気持ちとはああいう事言うんやろと思う。
それから一緒にいた奴はどこかへいき、わてだけがこの家に居た。
よろよろと立ち上がれるようになった頃、坊と初めて会った。
坊もわて同様のかっこうで動いてたもんやから、なんやおっきい同族がいるわって…恐怖を感じた。
わてはその時坊の手を噛んだ。
坊は泣き叫び、わてから離れた。
オカンが坊を抱き、オトンがわてを抱いた。
その事は大騒ぎになった。誰かが「殺せ」って言うてた。
「今回はお前の所の息子が噛まれたけど、俺の所のが噛まれたらどうする!」と…。
わては殺されてくなかった。生きたかった。もう二度と噛まんから生かせてくれって…。
それから坊とは離されてたけど、わては殺されんかった。
坊と次会ったのは結構経ってからやと思う。坊とは柵を挟んで再会した。
坊は四つん這いで来ず、立っていたが柵の前でしゃがみ…手を握りしめ下から差し出して、わてが嗅ぐのを待った。そして手を開きそっと柵の間から胸を、鼻先を、そして頭を撫でた。
わては伏せて撫でられるままに身を任せた。
あの時から今まで、わては一度たりとも人間を噛んでいない。
銃弾で体中が血まみれになったわてを、抱えたまま動かない坊を離れさせるにはこれしかないと思った…。
痛がることはしたくなかった。けども、背に腹は代えられん…。
坊の手を噛んだ。坊の体がビクッとした感覚はあった。
なのに、離しはしてくれんかった…。
「ポチ…ポチ…」
坊の涙がわての目に入る。が…わての目には何も映らなくなっていた。
振動で坊の声が分かる。ああ、なんて可愛い声なんや。
でも、またいつ撃ってくるかくるか分からん状態で…坊…逃げてくれ…。
ドクドクと自分の体が脈打ち、それに合わせて血が流れていくのが感じられる。
寒い。
小刻みに震えが来た。自分ではどうにもできない震え。止めることは出来ない震え。
寒い。
坊の温かささえも感じれないようになった時。
「アンドレア・エルフローレン。弟を守ってくれてありがとうな。」
ええんやで、ええんや。兄ちゃん。
わて、幸せやってん。
坊と出会えて、オカンやオトン、じいちゃんと過ごせて嬉しかった。
兄ちゃん、兄ちゃんはどこ行くん?わてと一緒に逝くんか?
あかんで。
坊一人になってまう。戻ってくれ。兄ちゃん。
またな。兄ちゃん…。
雄 約9か月(14歳相当) 戦闘機からの銃撃による出血 死亡