A班 救助用機体5021 カイル隊員2-1
気が付くと俺は、医務室の前で名簿を抱えながら立っていた。
さっきまで感じていたはずの、息苦しさや体を強打した痛みは嘘の様に消えていた。
あの…械的な女性の声でContinueをするかと聞かれ、
「YES」
と答えたのは覚えている。
そして何より、彼の…滝中君の重みが腕に残っていた。
医務室の…前に居るという事は、今は午前だろう。
滝中君の兄の情報が、名簿にある事に気付いた時だ。
先の戦闘で重症を負った隊員の1人、滝中尚仁。
顔を負傷している為、本人と確認をドッグタグとDNAで照合し、第三部隊の所属が判明した事でやっと昨日ファイリングされた。
名簿を捲りながら立っていると、アンドレアが歩いてくるのが見えた。
…どうやら本当に「Continue」されたらしい。
そして、DVDが再生される様に、午前にしたはずのやり取りが交わされる。
滝中君の兄が見つかった事を伝え、俺は名簿を掲げて、自嘲気味に笑う。
藤田の横にいた事も、アンドレアの答えも見たモノばかりだ。
が、少し違和感を感じた。
一度目のアンドレアは大げさに笑顔を作り笑っていたはずだ。
しかし、二度目の…目の前のアンドレアは少し困惑している様に感じる。
「滝中君の兄は…まだ意識不明でね。これからどうするか上に報告がてら相談だ。橘君の叔父さんには連絡が取れないし、友人の家族にも連絡が取りたいし…やる事が山積みだ」
そう俺が話し、自動的にため息をついた。
アンドレアも同じ言葉を返してくる。
「そういや友人って、前言ってた奴か?」
「あぁ。犬にお前の名前つけた奴だよ」
俺はさっきは軽く笑ったが…笑わない様にした。
笑わないという事がこれ程大変な事だとは、思っても見なかった。
結果、口が上がる事は止められなかった。
しかし、さっきとは微量に違った角度にはできたはずだ。
ノイズ程度だろうが…。
「そいつの弟とか家族はどうなんだ。無事なのか?」
「一度目の襲撃の時、弟は無事だったらしい。犬が…弟を流れ弾から守る様に死んでいたと聞いた」
それでも、会話が続いて行く。
藤田の情報が載った場所を捲り、純の欄を見せ…。
身体と言葉は勝手に動きながら、俺の頭は純と滝中君を思い起こし、顔がというより雰囲気が似ていたなと考え始める。
頭と体がちぐはぐで気持ち悪い。
「藤田には…?」
「まだ。被害に遭ったのが一昨日で…その時すでに藤田はベッドの上だったからな」
会話が終盤に入ってしまった。
アンドレアの違和感はあの一回きりで、二度目のアンドレアも「アンドレア」だった。
「でも、いつかは言わなきゃな」
「あぁ、そうだな」
少しの間を2人で共有した後、アンドレが見舞いを止めにして、少し早いが食堂へ行くと踵を返した。
それに対して俺はマックレーンの話をする。
そうだ、この時あいつは生きていた。
まだ第二の柳隊長に射殺されていない。
そしてあいつが撃った女の子も…。
その事に気付いた瞬間、Restrictionに行けば2人とも助かるかも知れないと、思い至った。
しかし、俺の身体は、言う事を聞かない。
「そうだな、訓練には来るだろうから見とくよ」
そんな悠長な事は言ってられないんだ、アンドレア…。
ふざけた事を言い合って、今度こそ去ろうとする。
「はぁ…あいつに純の事どう話そう…」
「しゅん?」
「あぁ、純粋の純で『しゅん』藤田純」
あぁ、そうだ。
純の名前を最後に出した…あの時、アンドレアの顔色が変わったんだ…。
しかし、こんな顔をしていたか?




