アンドレア・エルフローレン(通称ポチ)4
動物の死の描写と残酷な描写があります。
苦手な方はご注意ください。
坊の側に辿り着いた時、坊の側に何があるのか知った。
「かな」が倒れていた。
かなの頭は瓦礫に埋まり、下半身だけがこっちから見えてる。
…坊はかなの側で蹲り泣いていた。
坊の声はわてにはまだ聞こえん…が、叫んでいるだろう事は分かった。
「くぅぅん…(坊…)」
坊にすり寄り、頭を坊の肩へと当てる。
坊は見た所酷い怪我はしていないようやった。
「…ポチ…」
泣き顔は酷かった。
黒い汚れと赤い血が服や顔に付き、服は所々破れている様で、汚れた皮膚が見えてる。
顔を舐めるわてを坊は優しく抱きしめてくれた。
暖かい。その温かさで、わての腹の痛みは消えるかの様な気がしてくる。
めっちゃ痛いけど。
わてはその小さい腕に身を任せた。
思ったより弱ってるようやわ。立ってられへん。
坊が泣いてる顔が目の前にあった。
ええわ、痛いししんどいけど…坊…坊の側にいれたら…。
わての目がさらに黒い靄に覆われ始めて来た頃、またあの嫌な気配がした。
重厚な空気。風と共に…。今度は近い…。
「う”う”う”ぅ…(坊逃げぇ…)」
最期の声を振り絞ったが、唸り声しか出ん。
風はきつくなる一方で、アレが近付く事だけが分かる。
ゆっくりと降りてくる様な、そんな気配。
何や、何する気や。
辺りには坊しか居いひん感じがしてるのに、戦闘機は去らない。
それどころかゆっくりと、機体を下げてる…風が強い…。
着陸でもすんのか?
わては頭を動かせるだけ動かし、上を向いた。
戦闘機から細い筒の様な物が出ているのが見えた…。
機関銃が坊を狙ってる!
カチリと何かが鳴った気がして、わては坊の体を思いきり体全体で蹴り上げた。
トタタタタタタッン!!!
「キャウッウン!!!」
坊を狙った銃弾はわてと道路に穴を空けた。
もうあかん、わては死ぬ。坊はわてを抱えた。
「キュウゥン…(逃げ…)」
ちゃんとした声すら出せん中、必死に訴えた。
逃げてくれ、頼む。お前の側で死にたいけど、お前が死ぬのは見たくないんや、坊。
お願いや…痛い…あかん…坊…わてを置いて逃げるんや…坊…。
昔の…この犬の生の昔を少し思い出した。
拾われた子犬の時代。
全てが怖かった。
親は気付いたらおらんかった。
臭いぐちゃぐちゃの中、気付いたらみーみー鳴いてた。
わての他に何匹かいた。鳴いてるもの、動かんくなったもの、小刻みに震えているもの…。
兄弟のしっこと肉片の中。わてらは鳴いてた。
生きたいって。