アンドレア・エルフローレン(通称ポチ)3
動物の死の描写と残酷な描写があります。
苦手な方はご注意ください。
首輪に着いているハーネスで、オカンを引っ張った。
…が遅かった。
耳を劈く轟音と共に家が揺れた。
音の正体は空から降る金属と、それがぶつかり崩れる屋根…そして空から降る金属の向こうにいる何か。
飛行船…いや…戦闘機や…。
ここは…『モブ』の時とも『エキストラ』の時とも違う…違うはずやと思てた。
いつかは長い生を続けられるって…思って…やっと…。
犬やけど…犬なんやけど、心の中に「あったかい何か」が有って、たった一人の家族じゃなくて…家族が数人おって…楽しい暮らしが…有るって…。
思てた。
なんでや、なんでこんな事になるんや…。
わては一匹で立ち上がり坊を探す。耳は聞こえん。なんも聞こえん。
首が異様に重い。
ハーネスに赤く重い何かの塊がからんでいたし、それを外す事はわてには無理そうや。
嗅ぐと周りの焦げ臭さの奥に、慣れた匂いが微かに感じ取れた。
霞む目でよく見たらそれは人間の手やった。
オカンは手を置いてどこかへ行った。
坊や…探さな。遠くには居てへんはずや。
玄関はどこが玄関やったか、ドアノブさえどこにあるか分からん様になってる。
声が聞こえん。まだ耳がおかしい。
外かも知れん。向かいの子…「かな」はどこ行った?側におるんか?
分からんままに…わては叫んだ。
「ワンッ!!ウワンッ!!(坊!!かな!!」
声の限りに。
自分の耳には届かんくても、相手には届くはずやと…。
誰かが「うるさいよ」と頭を撫でて言ってくれるはずやって…。
声がかすれてきたのは、わてにも分かった。
喉がヒリヒリして痛い。
それに…気付いてなかった…わての腹から何かが出てた事に。
坊…かな…。どこや…。
瓦礫を飛び越え道路に出た。いつもオカンかオトンに連れられて歩いた道。
何がどうしてこうなった?
ずっと探してる坊も見つからん。何が起きたかも分からんまま、わては匂いを嗅ぐ。
それしか探す手立てがない。
焦げ臭さと何かが焼ける匂いが充満するその中で、わては必死に嗅いだ。
有った!…坊の匂い…近い。
坊の匂いのする方へ、全速力で走った。
持てる力全部使い果たすくらいに。それでええと思った。
死ぬ時は坊…お前のそばが良いんや…。