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この話のタイトルは君がつけろ  作者: 樋口 涼


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62/200

江島 祥子(えじま しょうこ)

コツコツコツッ…


ビニールに覆われた、生徒達の服が入った籠を乗せたカートを押しながら、ヒールの音が響く白い廊下を歩く。

並んだ部屋の一つ「E-01」と書かれたドアの前に着くと、軽くノックをした。


コンコンコン


中からは返事はないが、それはいつもの事なので気にせず入室する。

独特な薬品の匂いが立ち込めるそこは、研究員が忙しなく動き回る…研究所。


研究員として第二基地へ派遣されて来た、私の本来いるべき場所。

それなのに、任せられたのは本庄親子の監視と検体回収という名の洗濯物回収。

「手に薬品や機械を持たずに、カートを押す事になるとは思っても見なかった」というのが、私の本音だった。


「こちら、回収してまいりました」


声に一人が反応し、籠を乗せたカートを受け取り、足早に奥の部屋に持っていく。

奥に居る研究員達は皆、宇宙服かと言いたくなる様な、頭から体まですっぽりと白い防護服を着ていて、表情はおろか顔すらまともに見えない。


「ご苦労。彼女やその他の生徒に変わりはないかね」


手ぶらになった私に書類を手渡しながら、初老の研究員が声を掛けてきた。

私の「元」上司、ここの所長だ。


「他の生徒は管轄外なので分かりませんが、彼女は変わりありません」


渡された書類に目を通しながら答えた。


「そうか、ならいいのだが」

「所長、まだ検査は終わりませんか?毎日毎日、洗濯物を回収するこっちの気持ちも考えてください」

「嫌かね?」

「ええ、嫌ですね」

「検体回収も立派な仕事だと思うけどね」

「他へ振ってください」


私は不服を隠す事無く言うが、即座に首を横に振られた。


「男連中に任せたら、検体に()()()()()かもしれないだろう」


所長の下卑た意味を含む言葉に、嫌悪の表情が出そうになるのをぐっと堪えた。

もしかしたら滲み出てるかもは知れない。


「では、私以外の女性研究員でもよろしいのでは?」

「まあ、それはそうだが。仕方ないだろう、上の指示だ。我慢してくれ」


少しニヤけ、軽い拍子の所長に嫌悪感が募る。

ふと、書類の中の岡友樹の欄に大きくバツがついている事に気付いた。


「あぁ…その子のは今回から、回収無しだ」


そう言えば、いつもより一籠少なかった気がする。と奥の部屋に視線をやる。

ガラス張りになった奥の部屋では、防護服を着た研究員が籠から服を一枚一枚裏返して並べ、麺棒で表面を擦って何かを採取していた。


「本庄君にも連絡は昨日したが…『反応有り』だった」


眉を顰めながら所長を見た。

情報共有を後回しにされた事に屈辱的に感じ、手をきつく握る。


「その他の検体回収も反応なければ、明日で終わりだ」

「その後、私はどうなりますか。戻れますか?」

「まぁ…そうだね、君にはその後も引き続きと本庄親子の監視をよろしく頼むよ」


そう言って背中を軽く2度叩いた後、所長は奥へと去って行った。

研究所の建物から退出し本館へ行く道中、視界の端に隊員用のハーフ型のヘルメットが転がっていた。

それを拾い上げ…壁に思いきり投げつけた。

コンっと軽く壁から跳ね返り、カラカラと鳴りながら転がる。

自分の力の弱さが目に見えて、尚更自分を惨めに感じた。

それでも、不満を爆発させずに退出した事は、自分を褒めても良いと思えた。

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