アンドレア・エルフローレン(通称ポチ)2
わての名前は坊の兄ちゃんが本当は付けてんけど、坊には長過ぎてなかなか覚えられんかったから
「もう、ポチでいいんじゃないか?」
と、じいちゃんが言うてから、じいちゃんとオカンと坊はポチ、兄ちゃんと向かいの子はアンドレアって呼ぶ。
オトンは…どうやったかな。
わての記憶…前回の事は覚えてんねんけど…さっき自分が犬になったって気付く前までの…犬の記憶…薄いわ。
犬やからかな?
そうこうしてる内に、わての首輪に着いたハーネスはオカンが握りしめていた。
「お母さん!離して!僕が!僕が連れて行くの!」
坊が半泣きの声で喚いた。もしかしたら泣いてるかも知れん。わての位置からは顔は見えんかった。
「外は危ないから、お母さんと一緒になら行っても良いけど…。でも、純…今は警報が出されてたからもう少し後でね。」
頭を撫でられながらも不貞腐れる坊の空気が、わてには伝わって来た。
オカンが言うなら聞いた方がええで。
でも、警報って。なんや?雨か?こんなに晴れてんのに?
確かに遠くから犬の遠吠えと似た音が聞こえてくる。
「こちらは…〇〇が…〇〇…危険…外に…」
とぎれとぎれの放送が、警報の嫌な音と共に流れてくる。
何かが来るらしい。風か?雨か?何やろ。
わては嫌な予感がした。
外に出たら…あかん。
何か近付いて来てる気がする。
喉が自然に唸り出す。
歯が収まっていられないくらいの呻き。
「ポチ?お母さん、ポチの様子が変…」
「警報の音が聞こえるから…多分それで…、大丈夫。外に出なかったら大丈夫。分かったわね?純」
坊はわての唸りとオカンの言葉を聞いて頷いた。
そして、わてにはオカンが「大丈夫」と自分に言い聞かせてる様にも聞こえた。
「華奈ちゃんも家に…」
向かいの女の子…華奈にオカンが帰る様促そうとした時、わての身体が一気に熱くなった。
叫びたい!
凄く叫びたい。怖い。何が怖いかは分からん。
けど、何かが近付いて来てる。遠くからどんどん、近付いてくる音がする。
わては気が付いたらはち切れんばかりの大声で、吠えていた。
あかん!皆危ない気がする!!
ここにいたらあかん気がする!
坊逃げよ!オカン気付いてくれ!
嬢ちゃんははよ家に帰れ!
じゃないと皆死ぬ!!!ここから離れなっ!!!