本庄 凛(ほんじょう りん)
「next stage…mission-sideAorB…」
械的な女性の声が聞こえた…。
頭の中に「ファンファーレ」が同時に鳴る…。
「…select...A...start」
ファンファーレの余韻がしつこく頭の中に響いていた…。
「うるさい…」
口から呟きが出る…。
夢なのか現実なのか、分からない映像が私の中に流れている。
「あぁ…もう…嫌…」
うんざりしながら、目を開けた。
白いカーテンがひらひらと風に揺れている。
窓からは朝日が入り、凄くいい天気の様だ。
でも、私は布団から出たくなかった。
ふかふかの白い枕を抱え込み、このままもう一度寝ようかと瞼を閉じた。
「凛、もうそろそろ起きなさい」
父の声がした。
布団の上にゆっくりと座る振動を感じながら、返事はしなかった。
「ほら、朝だよ。ベッドから出て、朝食を一緒に食べよう。お前の好きな林檎もデザートについてるよ」
…お父さん、私が林檎を好きだったのは、貴方を「パパ」と呼んでいた頃よ。
「はぁ…、先に食べているから、起きれたら来なさい…」
ため息をついた父はベッドから立ち上がり、隣の部屋へ行ったようだ。
ドアが開閉された音を確かめてから、ゆっくりと布団から顔を出した。
救助要請に答えてくれた事は感謝している。けど、それでも長年会っていない間に開いた溝は、それでは埋まらない。
どんな会話をすればいいか分からないのよ…。
会わなくても愛してくれているのは、知っている。
メールも毎日の様に来てたし、誕生日には必ず私の欲しい物がプレゼントされていた。
小学校の入学式にも忙しい中来てくれたけど、卒業式と中学の入学式には来てもらえなかった。
世界がこんな風になってしまったから余計に。
日本の…いいえ、世界の為だって事も理解している。でも、やっぱり7年は長い。
「どうして、お父さんはこの組織に入ったんだろう」
疑問は持っていた。小さい頃は父は自衛隊にいて、日本を守っていると母に聞いていたのに。
アレが出現し始めた頃に、自衛隊から移動したみたいだった。
この組織の上はやはり国なんだろうか。
ベッドから降りて、窓の外を見に行く。下に訓練場が見えた。
一昨日、学校から助けられた後、私はこの第二基地の本館にある一室をあてがわれた。
多分、他の皆よりいい待遇を受けているんだとも思う。
「お父さんがいるから…ね」
あの日、私をこの部屋に送った後、仕事に戻ると告げ去った。そして今、戻ってきたらしい。
昨日は部下と名乗る女性が、身の回りの物を揃えて持って来てくれた。
暇にならない様に、パズルや本も。
その時に、施設の説明もしてくれた。
外からは訓練している隊員達の声が聞こえる。
あの中にも救助に来てくれた隊員もいるんだろうなと、眺めていた。
「凛…、起きたならこちらへおいで…朝食を取りながら…話をしよう」
父が隣の部屋のドアを開けて、声を掛けてきた。
「その前に顔を洗うわ。お父さん…」
ぎこちなく微笑んでドアを閉め、戻る背中を見送る。
父もどう接すればいいのか、少し戸惑っている様だ。
洗面台に行く足が、きちんと自分の意志で動いているのが分かる。
冷たい水の心地よさも、柔らかいタオルの感触も。
「私…生きてるのね」




