橘 誠也(たちばな せいや)4-1
カイルさん達に促され、俺達も部屋に戻ろうと重たい足を引きずる様に歩いた。
床に打ち付けた体も痛いし、何だかずっと水の中に居るような感覚で、片方の耳もさっきの銃声の所為か、よく聞こえない。
それに、誰かが持って来た布で巻かれた…マックレーン隊員が、目の端にずっと見えている様で、胸が苦しかった。
どうしようもないけれど…。
廊下の先で先輩の声が聞こえた。
押し殺した様な悲鳴…。
先輩達は篠本の部屋の前を通りかかったんだろう…部屋の中を見ない様に、顔を背けていた。
カイルさんが見ない様にと、先へ進むように促しているのが分かる。
「篠本…死んだのか?」
口をついて出た言葉が、怜の顔を曇らせているだろう。
雰囲気が伝わっては来るが俺はずっと俯き、廊下の床と壁の角を眺めながら歩いた。
「銃声…鳴ってたもんな…」
他人事の様に呟きながら、俺は横にいる怜を見れない。
肩に何かが当たった。
汚れの付いたコンバットブーツが、見えた。
誰かの暗いカーキー色の袖と大きな手が視界いっぱいになり、何かが肩を掴んでいる感触があるが…それを確かめる為に顔を上げようにも、力が入らず上げられなかった。
俺の意識は遠い雨の音と、マックレーン隊員の遺体に持っていかれたまま、ふわふわと漂って居るかの様に、ハッキリしなかった。
「しっかりしろ!」
カイルさんの声が聞こえたけど、俺の足はもう力を無くしていて、彼の身体伝いにズルズルと滑り、ゆっくりと床へ落ちていった。
頭を支えてくれている手の温かさを感じながら、朦朧とした意識の中で開いているドアを見た。
俺の部屋の隣の…開いているドア。
そのドアから出ていた白い手の…先。
篠本の頭…つむじが…一つ。
凛とは違う…茶色の髪…でも艶があって手入れされてた…。
怜を好きな女の子。
苦しんだのだろうか。そりゃ、苦しいよな。死ぬんだから。
痛かっただろうか。そりゃ…痛いよな。撃たれてんだから。
怖かっただろうか。そりゃ…怖いよな。
銃を突き付けられただけの俺でさえ、怖かったんだから…。
篠本が最期に思い浮かべたのは…誰だったんだろう。
怜かなやっぱ。それとも、両親だろうか。一人っ子で愛されてそうな奴だったもんな。
入学当初は黒髪で、大人しそうな奴だって思ってたのに…のに何だろう…。
頭に支離滅裂な考えが浮かんでは消えていく。
篠本は死んで…消えていく。さぞかし親は泣くんだろう。
それでも、皆…すべては死んでいく。
何度も…何度でも。
力が入らない俺の身体を運ぼうと、両脇をカイルさんが抱え、あの陽気な隊員が足を持ち上げた。
彼はまだ生きている。腹の傷は大丈夫なんだろうか。
カイルさんの体温を頭と脇に感じながら、俺は静かに目を閉じた。
彼らはまだ、生きている。




