アンドレア・エルフローレン(通称ポチ)
「ポチ!ほら行くよ!」
可愛らしい子供の声が聞こえた。
「ほら起きて!」
薄目を開けてみると、目の前には小さな男の子が居た。
なんかよう分からんけど、首がやけに引っ張られた。ん?何かおかしいで。立ち上がったはずやのに、この子供より目線下やないか。
何でや、喋り方も前回までの自分ぽないやないか。
なんや、おかしいで…わしの手…これ…犬やん。
気付いたら尻の方もソワソワと何かが動いてる。
尻尾。わしの尻尾…完璧にわし、犬やわ…。
今回人間ちゃうんか、キャスト言うてたやん、あの声かなんか音かなんか分からんやつ。
でも、いつもみたいにすぐ死なんな。一言喋ったらいつも死ぬけど、犬やし喋れへんからか?
よっしゃ、今回は長く生きるで。
「ワンっ!(坊!)」
わては坊の方へ顔を寄せた。
くすぐる気は無かったんやが、坊は声を上げて笑った。
…ええやん、ええやん。幸せそうやん!ビバ「キャスト」やで。人生…犬生楽しませて貰えそうや!
わてのケツの尻尾もめちゃくちゃ振られるで!
何や、坊。散歩か?
よっしゃ行くで!はよハーネス付けてんか。
わて子供とかよぉわからんし、何なら今まで一瞬の人生やったから関わらんかったけど、こう見てると可愛いなぁ。
ん?ちょい待って。坊いくつや。オカンと一緒でなくてええんか?ちょいちょいちょい待ってぇや。
わては玄関先で踏ん張り、ハーネスを持つ子供を必死に止めた。
「ポチ?」
止まってくれたものの、不思議そうな、不満そうな顔をして立ち尽くしていた。
「あー!!しゅん君、アンドレアの事いじめてるー!」
何やら感高く大きい声がした。
ツインテールの坊より少し背が高い女の子。
この子見た事あるわ、向かいの子や。
わてこの子苦手な気する…。
やのに体は勝手に女の子の方へ走ろうとし、首が締まった。苦しい。
「ポチ!ポチ!おすわり!!」
坊がハーネスを引っ張るから余計に締まる…。
わて、今回これで死ぬんか?
「アンドレア!しゅん君!アンドレアが苦しそう!ハーネス離して!!」
「ダメ!ポチは僕が連れて行くから!!」
子供はわての苦しさなんかに見向きもせんと、ハーネスを引っ張り合いながら言い合っていた。
「二人ともやめなさい!ポチが可哀想でしょ!!」
オカンが騒ぎを聞きつけ、わしはやっとの事で解放された。
「おばさんまでアンドレアをポチって呼んでるの?この子はアンドレア・エルフローレンよ!」
女の子が顔を赤くしたまま叫んだ。
てか、そやねん…わて、ポチじゃなくて「アンドレア・エルフローレン」って立派な名前やねん。
カッコエエやろ?