橘 誠也(たちばな せいや)3-3
酸っぱいモノが、込み上げてくる。
冷蔵庫を開け、出来るだけ甘い飲み物を探し、一気に流し込んだ。
落ち着いてくると、あの職員室はやはり自分にとって「トラウマ」になっている事を痛感した。
もう出来れば二度と見たくない。
そう願う。
コンコンコン
軽くノックの音がした。
カイルさんだった。
まだ、俺達は帰る事が出来ないからと、朝食を持って来てくれた。
そこで、時計を渡された。
朝昼晩のご飯の時間を教えられ、その時には部屋にいる様に指示された。
「後は建物内なら部屋から出ても構わない」と。
しかし、エントランスの椅子くらいしか無いと申し訳無さそうに笑った。
お互いの部屋の行き来も許されているらしいが、凛の所在は聞いても教えてくれなかった。
ここに来て1週間くらいが経った。
怜とはシャワー室の前で何度か会ったし、たまに部屋を行き来したが、篠本がついて来そうな時は遠慮させていただいた。
先輩達の部屋も分かり、何事も無く時間は過ぎて行ったが…。
不安や不満も溜まり始める。
いつまでここにいるのか。と。
娯楽も元々そんなに無かったけど、ここに来てゲームも無いし、スポーツも出来ない。
出来る事と言えばお互いの部屋の行き来と、要望を出せば持って来て貰える本くらい。
たまに廊下で篠本が怜を呼ぶ声が聞こえてくるのも、イライラした。
陽気な隊員の人が常駐している人だとも知ったが、その人からも1日1回来るカイルさんからも、何も情報が貰えない。
「なぁ…長くね?…このままいつ帰れんのかな」
怜とエントランスの椅子にダレた姿勢で座り、雨の降る外を眺めながらぼやいた。
エントランスには先輩達も来ていた。
先輩達が近くに居ると何故か篠本が来ないから、俺はゆったりとしていた。
「あ、私達明日帰れるって聞いたよ」
先輩の1人が言う。
「てか、岡君帰ったんじゃ無かったっけ?」
もう1人の先輩の言葉に、怜と顔を見合わせた。
「昨日の朝かな、岡君が…誰だっけ、何か上の人に連れられて出たったの見たよ?」
「で、カイルさんが明日迎えに来ますからって私達に言いに来たから、岡君そこから見てないし、私達より早く帰れたんだって話してたの」
「めっちゃびっくりしたよね、だって岡君隊員さん撃ったじゃん、なのに…ってねぇ」
口々に話す先輩達を置いて、怜をちらっと横目で見た。同じ事を考えたのかも知れない。
が、それを彼女達の前では言えない気がした。
彼女達の声を聞きながら、黙って居ると銃声の様な乾いた破裂音が聞こえた。
俺達の部屋の方からだった。
「何!?何!!」
先輩達は抱き合って固まった。
「今の…銃声…?」
「またぁ!?」
「えーもうやだぁ…」
口々に嘆くが、銃声らしい音が2度続けて鳴った。
「どうしよう…様子見に行く?」
青ざめながら1人が言う。
「俺が行くから…怜と先輩達はここに…」
立ち上がり、部屋が並ぶ廊下へ向かうと…1人の隊員が部屋の前に立っていた。
俺の隣の部屋…篠本の部屋の前だ。
足元に…誰か倒れていた。
白い手がドアから出ている。
俺が立ち尽くしていると、ゆっくりとその隊員はこっちを向いた。
知らない奴だった。
「エリア24で救助要請した奴を…放送した奴を知らないか…?」
手には銃を持ち、返り血を浴びたそいつは…。
凛と俺を探していた。




