A班 救助用機体5024 マックレーン隊員
暗く狭い自室で、俺は考え事をしていた。
タバコの灰が吸われないまま、じりじりと長くなっている。
今日の「殲滅と救助」に何か…納得出来ないのだ。
自分の成果や結果が思わしくなかった訳じゃない。
ただ、上官の話では…「体育館に生徒が避難している可能性が有る」との事だったが、救助対象者が言うには「体育館に避難しろ」という放送があったと。
しかも、我々が来る前に。
ならば、救助前に「体育館」を救助場所に決めた奴がいる。
即ち、こちら側の人間と学校側がやり取りをしたという事だ。
本来、民間人と出撃や救助の指示等のやり取りは禁じられている。
この世界でそれをすると切りがないからだ。
だから、状況を上官達が衛星画像の確認や、政府と話し合いで決めている。政府関係者…そう政府の身内ですら考慮するに含めないのに。
何の内情で?
もしかして誰かの身内か?
規則違反では?
俺の家族は…見殺しにされたのに。
「あぁ…イライラする」
しかも、教師が生徒を撃ったって?
俺達とは違って、あの悍ましさを経験した事もない様な美術教師が?
今、銃の出どころが調べられているらしいが…。
コンコン
ドアがノックされた。
「どうぞ」
入ってきたのは同期のニックだった。
「こんな時間に珍しいな」
「あぁ…」
ニックの顔が暗いのは、照明の所為だけではない様だ。
「どうした、ニック。コーヒーでも飲むか?」
俯いたままのニックに椅子を勧めると共に、コーヒーでも淹れようとする。が、ニックは首を力なく振った。
「何か…あったのか?」
俺は椅子の近くのベッドに座る。スプリングがギシッと鳴った。古くてかび臭い支給品のベッド。
下っ端の隊員は全員こんなものだ。
「…マック」
長い沈黙の中、やっと聞こえてきたニックの声は、掠れていた。
よく見ると…泣いている様だ。
「どうした、ニック。何があった?」
「今日の…教師に生徒が殺された話を聞いただろう?」
「あぁ…拾った銃でってやつだな…どっちかがお前の身内か?」
軽くニックは首を振った。
「じゃあ、どうした…まさか」
「俺の銃だった」
重い沈黙が流れた。
以前、戦闘用機体で出撃した際に、銃を外に落としたと言う。
補助銃器を撃った反動で、いつの間にかホルダーが外れていたらしい。
報告を上げ厳重注意と処罰を食らったアレが、民間人に発見され、人を殺してしまった。
更にその銃で生徒が、隊員に向かって発砲している。
厳罰が科せられるのは目に見えている。
静まり返った部屋で、言葉が詰まる。
「何もしてやれない…」
俺は声を振り絞った。ニックは頷き返しただけだった。
ドンドンドン!
激しくドアが叩かれ、乱暴に開いた。
上官と他何人かの隊員が入ってくる。
「ニコライ・フォード、貴様を連行する」
抵抗する間もなく、ニックは拘束され連れ出された。
立ち尽くす俺に上官が言った。
「マックレーン隊員、口は閉ざした方が賢明だ」
抗議の声すら上げる事が許されない空気だ。
おそらく、声を出した瞬間俺も連行されるだろう。
「よろしい。最期の挨拶は済んだ様だな」
ドアが静かに閉められた。