橘 誠也(たちばな せいや)4
職員室から出るとそこは思ってた以上に破壊されていた。
すぐ側の階段は、一階と二階の間の踊り場から上がなく、踊り場付近まで瓦礫が積み重なっている。
落ちた後の壁から鉄の芯が所々出て、長いものは重みからゆらゆら揺れている。少しでも触れるとコンクリートの破片が落ちて来そうな程、不安定な様子だった。
1番奥の階段から行くしか無い。そう思った。
出来るだけ短距離で行って、体育館へ行って怜や凛と合流したかったが…無理そうだ。
廊下を走り、時々有る瓦礫を飛び越え、階段下へ辿り着いた。
階段の横の理科室から、何か音が聞こえた。
放送室へ早く行かないとと思う反面、誰かもしも居るなら、早めに体育館への避難を呼びかけた方が良いかも知れないと、理科室の引き戸に手をかけ開けた。
軽くカラカラと音がした。
「誰かいるのか?居るなら体育館に避難…を…」
モゾモゾと動く影が目に映った。
「た…たす…け…」
黒い影の端から2本長いモノが飛び出ている。
俺は動けなかった。
「た…す…」
黒いモノはモゾモゾ動いている。
そいつの下ら辺から飛び出ていたのは…腕と足だった。黒い影から…人間の片腕と片足が出ている。
そして、揺れている。
その揺れている影と微かな声と…ぐちゃ…ぐちゃと言う、何かを…。
頭にある考えが思い浮かび、俺は後退した。
こちらに気付かれては駄目だ。
そう直感する。
声を出してしまった…。
いや、まだ気付かれてはいない。
ゆっくりと理科室から出て、ゆっくりドアを閉めた。音を立てずに…ゆっくりと…。
最後、残り5センチくらいになった時、ドアが閉まらなくなった。
引く力が弱過ぎて止まったみたいだ。
戸を閉め切りたい。でも強い力で引いて勢いよく閉まれば…音が出てしまう。
手が震えた。
黒い影の向こうから聞こえていた微かな人の声は…もうしない。あいつが俺に気付いたら…。
俺も声の主の様に…?
ぐちゃぐちゃと言う音はまだしている。
バレる前に行かなくては…。
心臓の鼓動が頭の中に響く様な、身体全体が脈打ち黒い影にも聞こえてしまう気がした。
そっと戸を離し、俺は階段をそっと登った。
二階まで来た時、やっと一気に駆け上がっていく。足音が聞こえたら追いかけられるかも知れない。
その不安と早く離れたいのとで考えがせめぎ合い、離れたい思いが勝った。
三階に辿り着き、やっとの思いで放送室に入る。
しかし、ここでまた疑念が浮かぶ。
「放送したら…あいつ…来ないか?」
マイクのスイッチの硬い感触が指にするが、押せずにいた。
この放送は、生き残っている皆の命がかかっている。それは分かっている。
でも、俺の命もかかって無いか?
スイッチに触れている手がますます震える。
下の黒い影、怜の顔…凛の顔が浮かぶ…。
躊躇っている時間は無い。
マイクのスイッチをオンにした。




