山田 優一(やまだ ゆういち)7
凛ちゃんの拳がぎゅっと硬く握り締められた様な気がした。
「今度は女同士の喧嘩かよ」
その声でざわついていた体育館が静まった。
大人の声だった。
ここに大人は1人…気弱な渡部だけだ。
「いい加減にしろよ…ピーチクパーチクとうるせぇ…何だよ…ったく。こんな事になってんのによぉ…お前らは盛る事しか頭にねぇのか…」
いつもの渡部の声ではあるのに、おどおどした感じが微塵も感じられなかった。
…唯一の大人としての存在感が、ドスの効いた声として体育館内に響いた。
「どうせ俺の事もアレだろ、舐めてんだろ。今ここにいる大人は俺1人で、頼れるのも俺1人だってのによ…」
体育座りの体勢で「頼れる大人は俺1人」を主張している。いつもなら「そんな格好で言われても…」と誰かが悪態をついたり、馬鹿にしたりする所なんだが、何とも言えない不気味な空気を孕んでいた。
「あぁ…もう終わり。終わりなんだよ…。」
ゆっくりと立ち上がる渡部を遠巻きに、生徒達が見ていた。
「はーい、今から皆さんにはゲームをしてもらいまーす。」
どこかで聞いたセリフ。
一昔前に流行った映画の教師が、生き残りゲームを開始する時のセリフだった。
それを聞いた生徒達に戦慄が走った。
そんな馬鹿な。あれは映画の話で政府が関係してて成り立つ物語だ。
この現実にはありえない。
でも…。
ちらっと凛ちゃんを見た。
確信的に「この体育館は大丈夫」と言っていた…。
そんなまさか…と思いたくて…見たら顔を青ざめさせていた。周りの生徒達同様に。
「先生…何か冗談言ってる場合ですか…?」
岡が口を開いた。
渡部と向き合う…1番近い岡。
「何かやばく無いか?」と皆の空気が一層冷たくなった時…。
「お前うるさい。てか、お前らが悪い」
パンッ!!
銃声が鳴った。
普通の人が、一般の訓練も受けてない人間が撃った弾は、岡に当たらず隣の上野の肩に当たった。
少しの間の後、あの映画さながらに一斉に悲鳴が上がった。
へたり込んだ生徒もいた。
渡部はすぐ近くにあるマイクを持ち、オンにして言う。
「外に出ても良いけど、知らないよー?」
ドアを開けようとしていた生徒が止まった。
が、次にドアに近かった奴がそいつを押し退けて出た。
その瞬間…ドア付近からも悲鳴が上がる。
「何か」があるんだ。




