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この話のタイトルは君がつけろ  作者: 樋口 涼


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山田 優一(やまだ ゆういち)6

凛ちゃんの叫び声で、間一髪その黒い影から逃げた僕は、開けていてくれたドアに滑り込んだ。


「危なかったね、山田君…」

「ありがとう、本庄さん…」


息絶え絶えに答えた。

久々に全力で走った。

喉が切れそうに感じる程息が荒い。

上を見る余裕など無く、影の正体を確かめる事は出来なかった。あの影は何だったのか…。


体育館の中には結構な人数がいた。

気弱な教師、渡部。

いつの間に僕らより早く来たのか、教室で喧嘩していた2人、A組の岡とC組の上野。

野次馬に来ていた生徒達もチラホラいる。

そして滝中と篠本さんの2人も。


滝中は僕と本庄さんを見ると立ち上がってこっちに来ようとした。が、篠本さんに腕に抱き付かれていて身動きが出来ない感じだった。

本庄さんが2人に近付こうとしていたが、一歩手前で止まる。僕はその場に便乗して本庄さんの近くに居ようとし、すぐ横まで歩いて来たけど…僕もその場で立ち尽くした。

怯えている為、滝中にしがみついていると思っていた篠本さんの目が鋭く本庄さんを睨み付けていたからだ。


そう、この3人は三角関係で有名だ。

滝中を女2人が取り合っているらしいと、以前噂で聞いていた。それが噂ではなく、真実だと確信出来る程の目の前の3人。

何か大変な事が起きたらしいのに、恋愛云々なんて…。僕にもまぁ言えない事だけど…。


「無事だったんだね。怜…」

「あ、あぁ…凛も無事で良かった」


腕を篠本に持たれながら、中腰のまま話しかけられた滝中は少し決まりの悪い顔をしていた。


「篠本さん…もうそろそろ腕を…」


篠本さんの肩を空いている手でそっと離そうとするが、彼女は首を振って抵抗していた。

あの睨んだ顔は滝中から見えていなかった様だった。僕なら小さい悲鳴をあげて乱暴に離れていただろう。


「動けないから…さ、ほら、お願いだから…」


滝中は芯の細い感じではあるが、渡部みたいに「イケテナイ」訳ではなく困った顔も整っている…イケメンだ。

モテるのも訳ないなと心底思う。

何かが起きているこんな時でさえも、髪は綺麗だし、仕草も何というか…紳士的で、乱れていない。

手を離させ様とする動きすら…優しい。


「じゃあ、手を繋いでて…さっき繋いでくれてたでしょ。それなら離す」


篠本さんが上目使いで言う…若干の潤みがある様だけども…さっきまでの睨みはカケラも残していない。凄い女子だ。

が、それを聞いた凛ちゃんは僕の方を勢いよく向いた。

多分、さっき2人を見たと言ったからだろう。

目が「本当!?」と言っている気がする。

殺気を伴いながら…。

僕は…静かに頷いた。

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