本庄 凛(ほんじょう りん)7-9
「どうして…ここに?」
机で打った腰が痛いのを我慢して、立ち上がる。
「ちょっと用事があったの」
彼女の観察するような視線が、体に這う。
「あなたは…起きてきたの?」
「喉が渇いて…、でもさっき何か音がしたような気がしたから…お父さんが起きてるのかと」
「そう」
何か追及されないか冷や冷やする。
「玄関で声を掛けようと思ったのだけど、ノックの音がしたから…驚かせてしまったようね」
軽くごめんなさいと言う彼女に、悪びれている様子はない。
それに、先に父の部屋で何をしていたのか、知られたくない様だった。
知らないフリを続ける。
「用事って?何ですか」
「…いいのよ、本庄隊長はいらっしゃらないようだし」
何かを探るように、じっと私の目を見てくる。
私も目を反らさずにじっと見返す。
…本当に父にも用事があったのだろうか。
「これで失礼するわ」
そう言って目を反らし、踵を返して去っていく。
「あ。はい」
一応、見送る為に玄関まで付いていく、が…今度こそ本当に部屋から出てくれるのかと確認も踏まえての見送りだった。
「邪魔したわね」
冷たい目のまま彼女が部屋から出て行く。
「では…おやすみなさい」
彼女が出た後、鍵を閉めた。
…さっき…玄関の鍵は…?
書類を持ち去った時、鍵の音がしなかった。
父はどれだけ慌てて出て行ったのか…。
鍵も閉めずに…?
どこへ…?
それに、書類が消えている今、父が帰ってきた時どこへやったのか聞かれたら…どうしよう。
正直に彼女が持って行った事を言う方が良いのだろうか。
それとも…。
彼女の事を言う・言わない。
…正直に…言うべきか。と思う。
書類を見た事も…言わないと。
そして、ちゃんと聞かなきゃ…。
しかし、父はその夜も次の日も帰って来なかった。
祥子さん…オレンジのイヤリングをした祥子さんが朝も昼も…夜も来た。
なのに父は帰って来ない。
二日目の夕方、暗い顔をしたカイルさんと怜が部屋に尋ねて来た。
「どうかしたの?」
恐る恐る聞いてみる。
「江島さんは席を外して貰っても?」
祥子さんはカイルさんの言葉に躊躇したけど、言うとおりに部屋を出て行った。
「…どうしたの2人して」
言いにくそうな顔をしているカイルさんの代わりに、怜が驚かないでと前置きをする。
両手を握られ…息を…飲む。
怜も私も。
…。
……。
「やはり自分が…」
怜の肩を持ち、カイルさんが言う。
「…本庄上官が…何者かに…撃たれました」
…。
……。
え…?
「今、救急治療室で処置中です」
足の力が抜ける。
「今朝、執務室で発見された時には…意識が無く…」
カイルさんの声が遠ざかる。
「凛。凛!」
「…」
椅子に座るように促される。
「お父さんの…具合は…?」
「今のところ何とも…ただ…この状況が非常に良くない事です」
「お父さんの状況が…?」
「いいえ、あなた方の状況です」
「どういう事?」
怜は私の横に座り、カイルさんが向かいに座る。
「本庄上官が撃たれたと知らされる前に、あなた方の検査結果が出ました。上官も懸念された通り…例の適応検査もされており…あなた方は適性有と診断されました」
「しかも、その結果が…特殊らしくて…」
「…特殊?」
「はい。二種類の反応があって…」
「二種類?」
「タイプーAと…何故かタイプーCの反応が…出ました」
「タイプーCって?」
「…蟻タイプの化け物です」
…蟻…?




