本庄 凛(ほんじょう りん)6-8
私は…どこに居るんだろう。
私は…。
目の前は真っ暗。
でも、歩いている気がする。
誠也が死んだと聞かされて、ショックで歩けなかった。
だから、車椅子に乗っていたはずだ。
なのに、歩いている。
あまりにも真っ暗すぎて、見下ろしている足元も服さえも見えない。
目をつぶっているのかと思うくらいに、真っ暗。
ううん、部屋で目を閉じている時の方が光を感じる。
今は、本当に一筋の光さえも感じない。
どこを向いて、どこに向かっているのかも分からないまま、歩いている事だけは確か。
足が勝手に動いている様な、誰かに操作すらされず…。
そうだ…あの、ゲームの操作スティックが倒れたまま電源を付けた時みたいな感じ。
あの時…キャラが勝手に動いてたっけ。
あの感じが…今の私。
感情とかもない。ただ動いている感覚。
でも、ゲームみたいに周りが街だったり、森だったりはしない。
ただ、真っ暗。
誠也の事がショックで、私は狂ってしまったのだろうか。
でも、まだ現実世界に心残りはあるのに。
まだ、私には怜が…お父さんも居るのに。
ぽうっと、遠くの…斜め前方に灯りが差した。
赤い灯り。
よく見ると文章の様だ。
「…no… over」
?…no?over?
「it‘s not over」
まだ終わらない?何が?
「it‘s not over」と言うテキストが暗い中、点滅している。
「but …」
「don‘t need…you」
文字が変わった。
…でも、お前は必要ない?
私は…必要ないの?
その光る文章の方へ足の向きを変えようとする。
が、向かない。
それ所か、字の大きさから距離も…近付いても居ないみたい。
「There is no future」
また、文章が変わる。
不意に赤い光に薄く照らされた人影が、文字の前に現れた。
こちらからは逆光になっていて、顔も服装も見えない黒い人影。
その人は暗闇から文字へと足を進ませて、両腕をその文字へと伸ばしている。
赤く光る文字が、あの人にも見えている様だった。
「no future…no future…」
硬く透明な壁にでも表示されているかの様な…その文章を、あの人が必死になって触っているのが伝わってきた。
叩いて、触って…人影はズルズルと態勢を崩し、膝を付いた。
私はその人に話をしたいと…近付きたいと思った。
声を掛けようと叫んだ。
でも、それは無駄だった。
一向に距離は縮まらないし、声は出ない。
辺りは無音のままだった。
「no future…no future…」
人影が泣いている様に手を顔の前に持って行く。
鳴き声は聞こえないけれど、あの人は泣いている。
微かに揺れている体が…そう私に教える。
でも、どうにかしてあげる事が出来ない。
その人の悲しみが伝わって来る様な気がして、私もすごく悲しかった。
駆け寄って、大丈夫だよと言ってあげたい。
未来はあるって、先はあるはずだから、一緒にここから出ようって。
向きを変え、足を動かし、あの人の方へ。
少し近付いた気がした。
あの人の悲しみに含まれた罪悪感も感じる。
何があったか分からないけど、ここから…出よう?
私はとにかく近付く事に必死だった。
それでも少しだけしか進まない。
足に重い鉛が付いているかの様に、ずりずりとしか。
そこに行くから…待ってて。
人影がうずくまっていく。
酷く泣いている様で…辛い。
行くから。
私も、あなたの所へ…。
「no range」
私の目の前に…いきなり赤く灯る文字。
「unknown」
範囲がない?
未知?不明?何?
…ここ自体が不明だけど?
「unknown」
「unknown」
「unknown」
同じ文字が繰り返される。
あの人の所に行かなきゃいけない。
行かなきゃ。
『駄目だよ』
知らない声がした。
この、無音と暗闇の世界で…ハッキリと。
『君はまだだ』




