本庄 凛(ほんじょう りん)6-5
淡々と作業をする彼らがいる部屋の片隅で、差し出された椅子に座る。
心電計の音と呼吸器の音、そして祥子さんのハイヒールの音しかしない。
時折、祥子さんと研究員が何か話しているが、小さく聞き取れなかった。
彼女が私の味方なのか、私に敵意を持つ柳隊長の味方なのか分からない。
部屋を行ったり来たりしている彼女を観察する。
外見は第二基地で一緒に過ごした彼女と一緒にしか見えなかった。
それでも何か違う。
たった一週間程しか一緒には居なかったけれど、何かが。
岡君を見た時の動揺が治まり、冷静さを取り戻し始めた頃、このガラスの部屋で迎えが来るまで、祥子さんの青いハイヒールばかり見ている訳にもいかないと、思い始めた。
何か知らなきゃいけないと思う。
「岡君はこのままなの?」
祥子さんが近くを通りかかった時に声をかける。
「いいえ、後程一度閉じるわ」
「これは何をしているの?」
「タイプーAの実験よ」
「柳隊長も言っていたけど、タイプーAって何?」
祥子さんが言っていいのかと思案している様に見えた。
「お父さんも知ってるって。…何も聞いてないのかって言われたわ」
コツコツコツ
…祥子さんが靴を鳴らしながら、目の前に立った。
見下ろされた目は、やはり冷たい気がする。
「貴女が知った所で意味がないと思うけど…タイプーAは、黒いあの化け物の…蜘蛛に類似した化け物の呼称よ」
彼女は持っていた紙の中から一枚を出し、私に見せる。
そこには黒い…蜘蛛の形に似たモノの写真が載っていた。
脚が普通の蜘蛛より多く生えている気がする。
「タイプーA以外にも種類があるけど、今のところ一番発生率が高く、生体の解析が進んでいるタイプ」
「それの実験に人を…学生を使うの?」
「えぇ、適性があったもの」
「親や兄弟には…?」
「…そこは…上部が連絡しているでしょう」
自分には関係ないという感じを、隠そうともせず「私はやる事をやっているだけ」と言う。
「適正って?」
「細かい事を言ってもわからないでしょうから、簡単に」
彼女はため息を付く。
「体液や血液内の…ある成分の数値よ。これから貴女も検査を受けるでしょう?その時採血して測るわ」
「それがあったら…私も実験体にされるの?」
「あなたは…どうでしょうね。数値が高いと適性があると判断されるけど…本庄隊長がお止めになるか…あの隣に並ぶ事になるでしょうね」
隣に…と言う彼女の口角が俄かに上がっている。
この実験が楽しいモノだと言わんばかりに。
「お父さんが…父が止めたらされないの?」
「その場合、上とのやり取りで判断されるわ」
「上って…?」
「この研究の場合、副司令官」
その副司令官が…許可しなかったら、私も岡君と共に…ここに…。
「検査を嫌がっても無駄よ。抵抗した所で、ここ出られないから」
予め警告をされた。
でも私だって、ここから逃げる事が無理だと分かっている。
目の先にいる岡君が、未来の私かも知れない。
怜と誠也に無性に会いたくなる。




