本庄 凛(ほんじょう りん)6-4
保護者に引き渡したと父は言っていた。
でも、父の様子からして嘘だと分かっていた。
どこに連れていかれたのか…と思ってはいたけど、こんな検査室…いいえ、検査室に見えない。
ここは研究室にしか見えない…そんな所に彼は繋がれていた。
「ここに連れてくる予定はなかった筈ですが?」
祥子さんが柳隊長に苦言を呈しているのを聞きながら、目は岡君から離せない。
彼は眠っているのか目は閉じている。
色々な機械に繋がって、心電計のモニターの動きで生きているのは分かるが…ガラスで覆われている腹部が、手術中の様に開かれていた。
私の血の気が引く。
手術中に…消毒もしていない私達がこの部屋に入ったら…。
「…っ…しゅ…手術中…なの?」
私の問いに隊長と話していた祥子さんがこちらを向く。
「あぁ…心配しなくて大丈夫。それはずっとその状態」
にこやかに笑う彼女に、ゾワッとする。
本当にいつも見ている彼女と同一人物なの?と…。
そして「それ」と言われたのは人間。
人間を「それ」呼ばわりするなんて…。
周りを見ても、それが普通の会話であるかの様に皆気にも留めず、諫めもせず、淡々とデータをメモしたり岡君から流れる液体を取ってはどこかへ持って行ったりしていた。
「おいおい、彼女が怯えているではないか…」
隊長がこちらへ歩いてくる。
「貴方が連れてきたのですよ」
呆れた様な顔で祥子さんが答える。
2人並んで立つ姿は、父と祥子さんが並んでいる時より…ピッタリだ。
2人の体の距離が近い訳じゃなく、慣れている…よく一緒に居る人たちが同じ空気を持つ様な、そんな感じ。
「この子は検査だったはずですが?」
「その前に見せたかったのだよ、同級生の今の状態を…」
ふと、柳隊長の腕章が目に入り…思い出した。
岡君を連れて出てきた…隊長用のスーツよりも、もっと「格上」という感じのする仕立ての制服を着た上の人と一緒に居た、父と同じ階級の…あの人…。
あれは柳隊長だった。
なら…私も…岡君と同じ様に?
体が恐怖で震えるのが分かる。
検査と言ってここに連れて来て…私もこうなる?
これをお父さんは…知っているの?
祥子さんは…?
第二基地に居た時とも、今朝会った祥子さんとも違う…目の前の祥子さんは知らない人の様だ。
「じゃあ、もういいでしょう」
そう言って白衣のポケットから電話を出し、誰かにかけた。
「あなたの担当の子が、私の所へ来てるの。…そう…。えぇ…。柳さんが連れて来させちゃったのよ。だから引き取りに来て」
電話を切りこちらへ向く。
「もうすぐお迎えが来るから、それまで大人しくしていてちょうだい。あなたもよ。柳さん」
冷たい視線が横に居る柳隊長にも注がれる。
「そうだね、…いや、私は席を外そう。やる事はまだまだあるんだ。すまないがそこに居るお嬢さんはよろしく頼んだよ」
来た時同様、後ろに待機している隊員4人を引き連れて、去って行った。
「本当に…こんな子供に意地悪して…、置いていくなんて。迷惑ね」
ため息を付いて、彼女は業務に戻る。
迎えが誰なのか…分からないけれど、父であったなら…どんな顔をして会えば良いのか。
…分からなくなった。




