本庄 凛(ほんじょう りん)6-2
柳隊長は検査室まで案内する。と言った。
「祥子さんは…?」
「あぁ。本当でしたら女性が付きそう方が良いでしょうが、我慢してください」
隊長クラスの人が、隊員を伴ってたった一人の中学生を…検査室まで?
そう…少し躊躇したけれど、ここはこの人達の場所で、知らない人達であっても隊の人なんだから大丈夫…。
大丈夫?…本当に?
不安だからと言って拒否する訳にはいかないと、案内されるまま後ろを付いて行った。
途中、雑談の様なものをされたけど、どう答えていいか分からない事ばかりで、曖昧に返事と相槌を繰り返していた。
「ここはタイプーAの対策室で…」
どの扉が何でどの扉がどうとか聞いていたけれど、さっぱり何が何だか、見わけもつかないなと思っていたところに、一つの扉の前で指を差す。
「タイプーA…ご存じですか?」
立ち止まり、後ろで手を組みながら…柳隊長が振り返った。
張り付いた様な笑顔で、背中がゾクッとする。
「いいえ…」
「そうですか。…お父様からは何も聞かされてないのですか?」
「…はい」
私の返事に一瞬、馬鹿にした様に笑った。
「あぁ。失礼。お父様は何もお教えしていないとは…それなら納得がいきましたよ」
笑顔を崩さないまま、柳隊長は…話始める。
「知っていたら今の好待遇を、厚顔無恥にも当たり前の様に受け入れられたりできませんよね」
顔が赤くなるのがわかる。
…腹が立つとかではなく、恥ずかしさや…悔しさがこみ上げてきた。
「どうお考えです?隊員達よりも好待遇の上、助けてと父親に言えば助けられるそのお立場を」
柳隊長がこちらの目の前に近づいて来た。
目線をまっすぐ私に向けて。
「娘だから…ですかね?…ふっ…いやいやいや…特別待遇ですよ。あなたは。本来なら隊員の身内ですら救助要請できませんから」
彼の言葉に私の周りにいる隊員の人達を見る。
皆…険しい目で私を見て居た。
思わず目を背け、下を向く。
「要請されたとしても、助けに行きません。一隊の…1人、一機の戦闘機すら。…見殺しです」
「見殺し?」
「えぇ…ま、人数にもよりますがね。我々は人を助ける為の組織ですから。しかし、動員できる人間も限られていますから、助ける対象の人数が大事です」
「助けに行かなかった事があるんですか?」
「えぇ、この前どこかで要請があったみたいですが、そこは負傷者が多く意味がなかったので」
「そんな…酷くないです…か…?」
「酷い…か…。無意味なモノに隊の命を賭けろとでも?…どちらが酷いと言うのかね?」
彼は段々馬鹿にした態度を隠さなくなり、私を責める口調になり始めた。
「それに君の父上も我々と同じだが…まさか自分の父親は違うとでも思っているのかね?」
「それは…」
「いやいや、君の父上は少人数の学生を助ける為にではない。君を助ける為だけに『未来ある学生』を言い訳に要請を受け入れた。近隣の住民への配慮と言い訳もしてね」
何も言い返せなかった。
私はあの時、深く考えもせずに父に助けを求めた。
父なら助けてくれると思ってた。
「救助しなかった我々を非難するのも勝手だが、君の父上も同じく救助しなかった」
「え…」
「当り前じゃないか、意味がない」
「じゃ、そこの人達は…」
「全員死亡だろう。確認しては居ないが…」
「確認していないんですか?生きてる人がいるかも知れないのに」
「生きていたら…どこぞで生きているだろう。生きていれば…の話だが」
ふっと笑みを浮かべる彼に、不穏さを感じた。
「何をしたんですか」
「出撃はしましたよ」
「…助けず…?」
「ええ、上から爆破で終わりです」
戦慄が走った。
この人は人の命を何だと思っているのか…と。
そして、岡君が言っていた…。
『崩れた建物以外、建物も草や木も、何もかもがない状態だった』
そうか…それで…。
「それも、組織の決定ですよ。あなたの父上を含めた…ね」




