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 ヒューとローレンさんは研究室に戻り、残りのメンバーで離れの部屋に移動した。前回、陛下とそのご家族に会った部屋だ。

 あの日は王家勢揃いしてたけど、国王陛下も王妃様も忙しいみたいだし、勢揃いってめちゃめちゃレアだったんじゃないかな。


 まだ少し心配そうな色が抜けないハロルドさんが先ほどから俺の頭を度々撫でてくるが、心配させるようなことをしてしまった自覚はあるのでされるがままにしている。

 ………カズ兄はもっとガシガシ撫でてくることが多いから、ふわっと柔らかく撫でられると何だかくすぐったいな。触覚的にも心理的にも。


「ユウト君、疲れてないかい?大丈夫?」

「体力的には問題ありませんけど………ちょっと今日色々詰め込み過ぎな気はしますね。」


 朝からテンションの高いリリーさんに見送られ、侯爵とジュリアさんと國本さんの三人と少し話し、侯爵とヒューが廊下で和解して、魔力異常対策本部の面々と顔合わせ。そこから王城で昼食をとると言われて来てみたら、異世界の父さんがいた。


 ………これだけ色々あったのにまだ昼過ぎなんだよ?濃すぎるだろ、イベント盛りだくさんにも程があるわ。


「元々私的な昼食会だったけど、こっからは本当に楽にしていいからな。適当な椅子にかけてくれ。俺もリックになろーっと。」


 そう言ったフレデリック王子がぱちっと指を鳴らすと、輝く金髪がさあっと焦茶色に変わった。どこからともなく眼鏡を取り出して装着、髪をくしゃっとさせるとあっという間にウィリアムズ家で会ったリックに変身してしまった。………服装は王子のままだけど。


「わぁっ、何ですか今の。」

「ふふん、すごいだろ。色変え魔法だ。こう見えて結構難しいんだぞ?」


 変装した上でのどや顔もキラキラしいな。

 ハロルドさんを爽やか系のキラキラとするなら、王子はゴージャス系って感じだ。茶髪になってだいぶましだが、それでも何だか雰囲気が眩しい。


「そういえば、前にヒューも銀髪に変えてました。あれと同じですかね、ユウト。」


 あぁ、日本でファウストと合流した時は変装してたっけ。ほとんど解けかけてたけど。


「ちぇ、見たことあったのか。驚かせようと思ったのに。普通に膝かっくんとかの方がよかったか? 」

「仮にも王子が膝かっくんって。そんな庶民的ないたずら、誰が君に教えたんだい?」

「パン屋の兄ちゃん。今でも顔出したら余った食パンの耳くれるんだ。なんかあれ妙に美味くて癖になるんだよなー。」

「君のことだからどうせ正体明かしてないんだろうけど………パンの耳で喜ぶ王子って………」


 この世界にも膝かっくんあるんだ。危ないから、良い子も悪い子もやっちゃ駄目だよ?


 っていうか、王子殿下がそんなにほいほい街中に出てていいのかな。俺が最初にこの世界に来た時もすぐ会いに来たし。

 ………ニールさん、苦労してそうだ。


「俺はこの国の情報庫。国と民の様子を直に見て情報集めて、陛下と王太子に伝える役だから庶民派でいいんだよ。

 そういう役で話好きだからユウトやファウストの、異世界の話ももっと聞きたいと思ってな。」


 あぁ成程、そういう役目だからあんなにフットワーク軽いのか。城を抜け出してばっかりの、ちょっとした不良王子ってイメージが定着する所だった。


「だがユウトとはさっき色々話したからな………そうだエドガー、ユウトと手合わせでもどうだ?裏手の空き地で。それ見ながら俺はファウストと喋るわ。」


 え


「良いねぇ。今度は本気見せてくれるよな、ユルギス?」


 うわ、その獰猛な笑顔やめてもらえません?試験の時も本気ではあったんですよ?


 ガチャッ


「皆様お待たせ致しました、今お飲み物をご用意いたしますので………何故移動の準備を?殿下、もう解散なさるのですか?」


 ニールさん、ちょうど良い所に!ここで上手く話がずれれば、手合わせのことは皆忘れてくれるかもしれない。


「ニール、今はリックだぞ。敬語。」

「………じゃあ、さっきの扉のお返しをさせてもらってもいいんだな?鼻血くらいは出してもらおうか。」


 おお、素だとそんな感じなのか。口角を片方だけ上げ、指をポキポキと鳴らし始める。これは、かなり義親さん感が増したな。


「………それやったのはリックじゃないから後でな。

 そうだ、ユウトとエドガーが手合わせするから混ぜてもらえよ。ユウトとやりたかったんだろ?」


 げ、話の矛先をこちらに戻された。しかも相手が増えてる。


「そうなのですか?トキ様がよろしいのでしたら、是非お相手願いたいですね。」


 義親さんの顔で穏やかな笑み。怖い。


 手合わせ自体は俺もやってみたいんだけど、エドさんもニールさんも本気(マジ)の目をしてるのがちょっと。もう少し気楽にやりたいです。

 でも、騎士団長や王族の従者とかいうすごい立場の人達と手合わせできる機会なんて、そうあるものじゃないだろうし………


「えーっと、じゃあ、お手柔らかにお願いします。」

「飲み物の用意は頼んでいいか、ニール。あとは菓子とか適当に籠に詰めて持って行けばいいだろ。

 よーし行くぞー、おー!………誰か一人くらいノってきてくれよ、寂しいだろ。」


 ………王子の台詞じゃないんだよなぁ………





「で、こっちに軽く捻ってここを押さえます。俺を振りほどいてみてください。」

「っく………何だ、これ。力が入らねぇ。」

「こう掴んでもっと力入れると、ここの関節壊れるって父に習いました。」

「人畜無害そうな顔してさらっとおっかねぇこと言うなぁお前さん………それを教えたのが異世界の俺ってのがまた………」

「いやいや、誤って関節を壊さないために教わったんですからね?」

「あぁ成程、それなら納得だ。

 俺が知ってる関節技とも少し違って面白い。魔力がないやつとか、非力な人間の自衛にも使えそうだ。いいな、これ。」


 本気の手合わせから徐々に流れを誘導し、最終的には異世界武術講習にすることに成功した。

 俺と団長さんを見ながら、残りの四人も和気藹々と会話に花を咲かせているようだ。そろそろ俺もそっちに混ざりたいんですが。


「本当に力はいらないんだな。僕もあっさり倒されたし、使えると何かと便利そうだ。」

「ニールも習うか?」

「そうだな、身一つで相手を無力化できるというのはかなり有用だと思う。襲撃された時に武器があるとは限らないし、お前を守る手段は多いに越したことはないだろう。」


 ニールさんはフレデリック殿下の補佐と護衛を兼任してるからね。相手に大きな怪我をさせずに拘束したいって時とかにもお薦めですよ。


「そういえば、ファウスト様も武器はお持ちでなかったと入場検査の者が話しておりましたが。お話にあったカゲ、というものとは素手で戦われるのですか?」

「え?武器はこの腕のやつですよ。ここにこう、鉤爪が入ってて、打ち出せるんです。今のこれをもらったのは最近ですけど。」


 ニールさんの眉が片方だけぴくりと動いた。


「………それは、防具ではなかったのですか。

 城内は基本的に武器の持ち込みが禁止ですので、こちらでお預かりしてもよろしいですか?帰りにお返しいたします。」


 手甲か何かだと思われていたようだ。確かに、これを一目見ただけで武器と思う人は少ないかもしれない。


 ソテルさんに貰ったという新しいワイヤー装置は、打ち出すまでは鉤爪が折り畳まれた状態で内部に収納されていて、射出すると爪が開くシステムなのである。以前のものはセットした鉤爪が外から見えている状態だった。


「はい、どうぞ。靴とベルトのナイフも取らないといけませんかね、ハロルドさん。」

「そんな所にも武器仕込んでたのかい、ファウスト君………。ニール、そんな目で見ないでくれ。私も知らなかったんだ。」


 ファウストの装備、完全に暗殺者だもんな………あれ?ワイヤー装置はともかく、何でナイフまで手荷物検査通っちゃってんの?


「あ、そこ触らないでください、指切れるかもしれません。」

「ん?………成程、石を磨いてナイフにしてあるのか。

 検査に使う魔法は毒物と魔術媒体、金属に強く反応するものだし、目視では刃に見えづらい。入城時検査、見直した方がいいかもな。」


 ………王城セキュリティ、緩くない?大丈夫?


「それで生き物殺すのは難しいですけどね。蔓草切り開く時とか、壁登る時の爪として使うんです。

 首の血管切ったり、目から頭を貫けば殺せるでしょうけど、それなら普通に金属のナイフ使う方が早くて確実ですよ?」


 あーあー、またファウストが世間話みたいなトーンで怖いこと言ってる。初めて見た人にはかなりの恐怖を与えるんだぞ、それ。


 案の定、俺以外の全員が微妙な表情になった。


「仮にも王城敷地内だから、あんまり物騒なこと言わないでくれるかなファウスト君………」

「あ、ここでは駄目なんですね。わかりました。」

「いや、ここ以外でもやめとけ………その発言だけでも通報されるには十分だからな………」


 ですよね。


 ファウストは一応日本でカズ兄達から、日常生活に支障が出ない程度には一般常識の教育を受けたみたいなんだけど、根本的な考え方が違う所あるからなぁ。そこをこちらに合わせられるようになるのには時間かかると思うんだよね。俺もこっちの常識よくわかんないし。


「ニール、彼の武器は主にワイヤーと糸、あとは体術だ。並の兵士二~三人なら瞬殺できる強さだよ。」

「ワイヤーと、糸?絞めるのでしょうか?」

「それだけじゃないですけど、ここでやると建物傷つけそうなので機会があったら見せますね。」


 確かに、周りの被害はあまり考えない戦い方だよな。

 ファウストの世界では荒野だから気にならなかっただけで、鉤爪が当たると壁には傷がつくし、地面抉ることもあるし、木の枝とか平気で折るし。


「おうユウト。後ろからこんなに近づいても警戒しないとは、俺にはもうすっかり慣れてくれたみたいだな。」


 団長さんが俺の肩に腕を回してきた。

 ファウストの過激発言に気を取られてて気づかなかったよ。


「団長さんが父に似てて動揺しちゃっただけで、元々警戒はそんなにしてませんよ?」

「エドガーでいい。冒険者ギルドではエド、な。

 俺は親父さんの代わりにはなれねぇが、この世界では遠慮なく頼れ。異世界の息子だなんて言われたら放っとけねぇよ。手始めにハグでもしとくか?ほれ。」


 へ?………家族の愛情表現はまずハグなのかな、この国。ハロルドさんもヒューによくやってるし。


「前にローレンさんにも同じようなこと言われました。いつでもハグしてあげる、とかって。」

「そうか………気は合うんだよな。異世界で結婚したって聞いても、どこか納得している自分がいた。」

「さっさと結婚すればいいじゃないか。母上とフェリシアもお前達が「結婚するかどうか」ではなく「結婚はいつになるか」と話してるんだぞ。」


 フレデリック王子がこちらの話に入ってきた。何でそんなにニヤニヤしながら来るんですか、恋バナしたいお年頃なんですか。


「結婚するのは決定かよ。

 あいつとは、お互い白髪になっても独身だったら一緒になるのも悪くないか、と酒呑みながら話しただけだぞ。まだ白髪ではねぇが………もういい年だよなぁ。」


 この世界でも二人の仲が良いのはやっぱり嬉しいな。

 友達として仲良しで今が幸せなら別に結婚はしなくてもいいんじゃないかとも思うけど、エドガーさんはちょっと照れてるから満更でもないのかもしれない。


「父上が室長殿を「ローレン嬢」と呼び続けるのも後押しのつもりだと聞いたけど。あ、これ話したの父上には内緒な。」

「陛下まで………ってかそれはわからんわ。俺元平民だぞ。」

「室長殿への後押しだから貴族式にしたんだろ、多分。

 ん、どうしたファウスト。何かわからないことがあったか?別に貴族ルールなんか覚えなくても」

「あの、結婚って何なんですか?言葉は知ってるんですけど、実際に何をするのかよくわからなくて。」


 ………………。


「ハロルド、お前帰ってからゆっくり説明してやれ。」

「自信ないな………ファウスト君が育った所は、本当に何もなかったんだ。社会も身分も法律もね。ファウスト君には両親もいないし、どう説明すれば上手く伝わるだろう。」

「白髪になっても出来るなら、子どもつくることではないんですよね?」

「ぶふっ………おま、なにを………」

「………大丈夫かエドガー。」


 話の方向性がおかしくなってきた。

 ニールさんはエドガーさんがこぼした紅茶を拭きつつ、完全に気配を消している。俺にもその技教えてください。


「げほ………なぁ、この話はやめにしようぜ。自分の子でもおかしくない年齢のやつらに結婚の心配なんざされたくねぇよ。」

「仕方ないな、今日の所は許してやるか。

 ユウトもエドガーと馴染んだし、俺もファウストの話聞けて満足した。あとはあれだな。」


 リックさんはそう言うと、すっと真面目な表情に変わった。

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