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「長髪のニール、すげぇ見てみたいな………そいつが使うっていう武器も。手持ちのバリスタみたいなもんか?」

「投擲はそれなりですが、弓は扱った経験がありませんね。………今度やってみるか。」


 似合うと思う。義親さん、普通の弓も上手かったし。


「トキ様ご自身も優秀な剣士なのですよね。ハロルド様がとても興奮した様子で話してきましたよ。機会があれば手合わせ願いたいものです。」


 ハロルドさん、何喋ったんだろう………。

 秘密はちゃんと守ってくれるけど、そうじゃないことはわりと話をすぐ広めるんだよな。カズ兄と一緒で。


「俺もニールさんと手合わせしてみたいです………あ、すみません、貴族の方は家名で呼ばないといけないんですよね。」

「プロキオン子爵家に籍はありますが、ニールで構いません。元平民で、あまり家名に馴染みもありませんから。」


 あぁ、そういうこともあるのか。


「孤児院にいたはずが、気がつけば双子の王子殿下の手回しで貴族家の養子にされていました。私が堂々と殿下の側にいるためには、貴族籍が必要だったもので。」


 こっちの身分に関するルールはまだよくわかってないんだよな。王族の従者は貴族しかなれないらしい。

 世界史習ってる時もラノベ読んでる時も、身分制度なんて何となくしか理解していなかった。最近ようやく爵位の順番を覚えた所だ。


「私としてはまず兵士になって実力をつけ、功を上げていずれ殿下の側でお役に立てたら、と考えていたのですが。修行以外の途中経過は全てすっ飛ばされた上に、従者として護衛や戦闘以外の業務までやらされる羽目になりました。

 あんなに急いで貴族社会に引きずりこむことはなかったと思うのですが?殿下。」


 じろりとニールさんから視線を向けられた王子はわかりやすく目を逸らして口笛を吹いている。


「ま、そんだけ手元に置きたい人材ってことだよ。待ってる間に他のやつにかっさらわれたら困るだろ。

 ………な、ユウト。そろそろ戻れそうか?」

「あからさまに話逸らさないでください。

 ですが、そうですね。目の赤みは引いたようですが、どうでしょうかトキ様。」

「はい、大丈夫です。………もう四年は経つのに、あそこまで取り乱すとは思いませんでした。ローレンさん一人なら平気になってたんですけど。」


 ファウストに「お姉さんとのことを時々思い出して、楽しかったなと思えたらそれでいい」的な、偉そうなこと言った自分を殴りに行きたい。自分も出来てないじゃないか。


「詳しい事情は知らないが、無理なものは無理で良いだろ。ユウトのその涙は、両親を大切に思っている証だ。エドガーだって怒ったりはしてないさ。」


 そうは言っても、毎回これじゃ迷惑だし。


「早く慣れないと………」

「ゆっくりで良いんだっての。

 ………あのなユウト、ニールは色々あって鞭を使えないんだ。だから御者は出来ない。でもしっかり俺の従者を務めてくれてるだろ。」


 ? 何の話?

 鞭ってあの、馬とか叩くやつだよな。


「突然私を引き合いに出さないでいただけませんか。

 ………まぁ、幼少の頃、よくあれで叩かれていたのです。」

「え」

「馬車の操縦は従者の基本技能ですので練習はしたのですが、情けないことに、鞭は振りかぶる所を見ただけでまだ身がすくみます。どうも自分で持つのも駄目でして。

 よく訓練された馬でしたら、手綱のみで何とかいたしますよ。」


 さらっとヘビーな過去が明かされた。一体どんな環境に身を置いていたんだろう。さっきも「孤児院にいた」とか言ってたし、波乱万丈な人生を送っていそうだ。


「あ、叩いてたやつは法に基づいて社会的に抹殺したから。ガキの頃の俺達双子と、ニールともう一人でな。」

「完膚無きまでに叩きのめしました。再起不能ですよ。

 すみません、話だけでそこまで暗い顔をなさるとは思いませんでした。」


 むしろ今の話を明るい顔で聞ける人いる?

 ………当のニールさんは軽い調子で話してるな。


「要は、お前は過去の克服を焦り過ぎじゃないかって言いたかったんだよ。ゆっくり自然に乗り越えてくもんだろ、そういうのは。逃げるのも、泣くのも、向かい合えるようになるための立派な対処法。

 ニールだって過去は乗り越えても、未だに鞭見たら滝みたいな汗かくんだ。それでもやっていけてる。」

「僭越ながら、私からも一つお伝えさせてください。

 涙は心の淀みを流す禊の雨、という有名な一文もございます。自然に溢れ出るならそれは必要な涙、無理に止めるものではありません。ご自身が落ち着けるまで、存分に心を濯げばいいのです。」

「そうそう、そんな恥じることないんだよ。

 ま、男として泣き顔見られたくないのはわかるけどな。」


 出会って数日の相手にここまで心を砕いてくれて、優しい人達だよなぁ。


 両親が死んだ後、ニールさんが言った格言的なもの以外は似たようなことを何度も言われたし、文字通り涙が枯れるまで泣いた。それこそ、脱水症状で運ばれたことがあるくらいには。

 もうとっくに、流し切ったつもりだったのに。


「ニールが優しいとか、明日は大雪か?」

「降らせて差し上げましょうか。氷魔法は苦手なので、私がやると拳大の氷塊が降る可能性がありますが。」

「それもはや攻撃魔法だろ、怪我人出るわ。」


 ………二人がおどけた会話で、空気を軽くしようとしてくれている。俺がいつまでも暗いから。


 笑顔で、応えないとな。


「ありがとうございます、王子殿下、ニールさん。」

「フレッドでいい、ってかそう呼んでくれ。公の場でもないのに堅苦しいのは嫌なんだ。他にも名前あるからまた教えるな。」

「教える偽名は絞ってくださいね、無駄に多いんですから。

 ………トキ様、あなたはもう少しその優しさをご自身にも向けるべきだ。私に今言えるのはその程度です。

 陛下のお時間がそろそろ限界ですので、一旦戻りましょう。本当に大丈夫なら、トキ様は騎士団長とも少し話した方がいい。父君と別人だと思える点も見つかるでしょう。」


 そう、だよな。ローレンさんにもすぐ慣れたし。


 ちょうど良いタイミングで、後ろから控えめなノックが聞こえた。


「………フレッド、ユウト君の様子はどうだい?」

「ハロルドさん!お騒がせしました、もう大丈夫です!」

「本当に?カズマに聞いてるよ、口で大丈夫と言いながらどこまでも無理をする子だと。」


 マジでハロルドさんとヒューに何を吹き込んでるんだ、カズ兄。無理なんかしたことないっての。


「本当に大丈夫です。騎士団長さんとローレンさんと、陛下にも謝らないと。」

「私ならここにいるよ。話は一通りできたから、後は君達で進めてくれ。すまないが、もう時間がなくてね。私はこれで失礼する。」


 扉の隙間からひょこっと国王陛下が出てきた。威厳ある見た目と登場のしかたが何だかミスマッチだ。


「国王陛下、貴重なお時間なのにお話を止めてしまってすみませんでした。えーと、お仕事頑張ってください。」

「ありがとう。あれは謝らなくていい、トキ君は何も悪くないよ。

 フレッド、後は頼む。」

「お任せを、陛下。」


 国王陛下は速歩きで去って行った。ギリギリのスケジュールに、無理矢理この昼食会入れてくれたんだもんな。タイムロスさせて本当にごめんなさい。


 ………小走りに近い速さなのに、決して慌てたり走ったりしているようには見えない。さすが国王様。





「おかえりなさい、ユウト君。落ち着いたかしら。」

「お騒がせしました。団長さんも、取り乱してすみません。もう大丈夫で、す………?」

「これならいけるだろ、な!」


 広間に戻ると、団長さんがギルドの試験官をしていた時の兜を被っていた。それ、持ち歩いてるんですか?


「………お気遣いはありがたいですけど、外してください。ローレンさんにもすぐ慣れたので大丈夫です。

 その、俺の父は髪が黒でしたし、話し方とか筋肉の付き方も違うし、落ち着いて見れば別人です。団長さんにも早めに慣れたいので。」

「そうか?なら外すぞ。ふぃー、暑。」


 真夏だしな。俺のせいですみません、ほんと。


 ………うん、もう大丈夫だ。きっと俺は不意打ちに弱いんだな。もう他に死んだ大切な人はいないし、今後は大丈夫だろう。


「陛下にはこれからの大体の予定を伝えたわ。具体的な予定はまだほとんど決まってないけれど。

 私が個人的にスカウトしようとしてるのとは別に、危険地帯の調査になった時は騎士団から応援を出してくださるそうよ。今比較的予定が空いているのは女性騎士達らしいわ。」

「女性王族の護衛が主な仕事で数は少ないんだが、お二人は最近あまり外出しないから出番も少ないんだよ。

 男の騎士は男性王族の護衛と、空いてるやつは軍の応援やら調査やらに出してるからひよっこしか残ってねぇ。」


 今の話し方だと、やっぱり軍と騎士団って別?


「昔は別だったのだけれど、今は軍の中に騎士団という部隊がある感じよ。一応、軍は国と民を守るもの、騎士団は王の一族に仕えるものとされているわ。」

「ま、今の騎士団は王家の直属部隊くらいに思っとけ。俺も細かいことはよくわからん。」

「あなたはわかってないと駄目でしょ、騎士団長。

 でも、とりあえずはその理解でいいと思うわ。」


 へー、そういう違いがあるんだ。俺の世界も同じなのかな。


「俺も一応、騎士の称号は持ってるぞ。」

「王子でん………フレッドさんもですか?」

「私も殿下と同時期に拝命いたしました。王太子殿下に剣を捧げております。」


 何で王族を守る騎士に王族がなってるんだよ。

 ニールさんはフレデリック王子のブレーキ役に添えられたんだと思われる。


「というわけで、父上と室長殿に頼んで俺達も対策本部のメンバーにしてもらったから。よろしくな!」

「というわけって何ですか。しかも、俺達ということは私もですよね。そんな話は伺っておりませんが。」

「当然。俺と二人が嫌ならライリーも連れてくか?」

「そういう問題ではありません。」

「んじゃ、ロッドを」

「王太子の方が駄目でしょうが。」


 なんかまた主従漫才が始まった。すごくテンポの良い掛け合いだけど、いつからネタ仕込んでたの?普段からやってる鉄板ネタなの?


「………ユウト、殿下の直接参加はないと思うぞ。メンバーとして名を連ねることで後ろ楯になっていただく形だろう。」

「あぁそっか、そうだよね。危ない調査に王子様連れて行っちゃまずいよね。名前だけの参加でも影響力があるってすごいなぁ。」

「副室長殿、トキ様、殿下のことですから絶対に直接参加なさいますよ、絶対。」


 ニールさん今絶対って二回言ったよ、しかも力強く。

 ………しかめっ面だけど嫌とは言わない、「仕方ねぇな」って感じのあの表情。やっぱこの人、義親さんだ。


「なぁ、皆はこの後何か予定あるのか?ないならもう少し話したいんだが。特に異世界の二人と。」


 従者からの冷たい視線を意にも介さず、フレデリック王子はこちらに話を振ってきた。強い。


「折角のお誘いですけれど、私は明日以降の準備がありますわ。ヒューバート、あなたにも手伝ってほしいのだけれど。」

「わかりました。では兄上、ユウトとファウストのことをお願いしてもよろしいでしょうか………兄上?」

「ヒューが自分から私にお願いしてくれた………任せておいて、今日は午後も空いているから。」


 泣きそうだな、ハロルドさん。弟が頼ってくれないとか言ってたもんね。

 ………ヒュー、気持ちはわかるけどそんなあからさまにげんなりしないであげて。


「私も午後は空いてますよ、殿下。暇なら久々に稽古でもしましょうか?」

「やだよ、エドガーは強過ぎる。」


 騎士団長さんは一応敬語だけど、王子殿下とも甥っ子と話すような雰囲気で話している。

 ほんとにここの王族って普段は緩いんだな。


「トキ様とファウスト様はよろしいのですか?ご予定などは。」

「何もないですよ、ヨシチカさん………じゃなくて、えと。」

「私はニールと申しまして、フレデリック殿下の従者を務めております。どうぞよろしくお願いいたします、ファウスト様。」

「は、はい、よろしくお願いします。………あの、間違えてすみません。」

「いえ、お気になさらず。異世界の私をご存知だというのは伺っております。そちらの私はヨシチカというのですね。」

「………ヨシチカさんなのに、普通に優しいです………」


 それは義親さんに失礼では。俺も思ったけど。


「じゃあ、ニールは二人を門までお送りしてくれ。あとの皆で離れに移動しようぜ。」

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