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 王城正面にやってきました。前に来た時は裏口のような所から入ったけど、やっぱり正面は放つオーラが違う。

 先が尖った塔がいくつかあり、横にも広いが縦の長さが強調されている感じの建物だ。ステンドグラスの大きな窓がたくさんあって、教会のような荘厳さを感じる。


 今はまだ門の前にいるのだが、門から城までも馬車移動するくらいには遠く、その道は白い石畳と色とりどりの草花で美しく整備されている。何て言うんだっけ、木を動物の形とかにしてあるやつ。

 本当に庭なのか、この規模で。何かのテーマパークと言われた方が納得できそうだ。


 ちらりと隣を見るとヒューはまた顔が真っ青。対するファウストは窓に張り付いて目をきらきらと輝かせている。


「すごく綺麗で強そうで大きい建物ですね!カゲが三十体くらい来ても壊せなさそうです!」


 感心するの、そこ?


「ファウスト君、そろそろ席に戻って。さっき教えたように姿勢を正していてね。」

「はい!」

「私達も一緒だから、緊張はしなくて大丈………そこは心配いらないか。」


 初めて遊園地に来た子どもみたいになってるな。

 とはいえファウストはそこまで子どもじゃないし、常識の違いは仕方ないとしてもカズ兄の教えで礼儀には一応気を使うから大丈夫だと思う。国王夫妻は本当に、かなり寛容みたいだしね。


 このテルミニシアという国は、周辺の国から追いやられた人達や行き場のない異世界人を初代国王が全て受け入れ、まとめ上げたのが始まりと言われている。

 初代国王の考え方が根付いているため、文化の違いや知識がないことが原因で悪気なく無礼を働いてしまうことには全体的に寛容なお国柄なのだそうだ。リリーさんとダンさんからそう教えてもらった。


「ようこそお越しくださいました、皆様。こちらで簡単な検査を受けていただき、その後でご案内いたします。」

「………ヨシチカさん?ヨシチカさんですよ、ユウト。」


 あ、義親さんじゃなくて、えーっと、名前が出てこない。


「ニールが出迎えということは、フレデリック殿下もいらっしゃるのかい?」

「はい、現在一番身軽に動ける王族でいらっしゃいますので、この件にも多く関わられることになるかと。よろしくお願いいたします、ハロルド様。」


 そう、ニールさんだ。ちょっとしか会ってないからさすがに記憶が薄かった。

 よろしくお願いします。





 検査と言われても、手荷物がほとんどないので一瞬だった。ローレンさんとヒューはローブのポケットに色々入れてあるので少し時間がかかっていたようだが。


 内密な話もあるので、昼食は小広間でとると言われた。小さい広間って矛盾してない?

 ………緊張してる時に限って、普段ならどうでもいいような所が妙に気になるのって俺だけじゃないと思うんだよね。現実逃避なのかな。


 上品な装飾がついた両開きの扉の前でニールさんが立ち止まる。


「国王陛下とフレデリック殿下、騎士団長が中でお待ちです。では」


 バンッ


 突然扉が勢いよく開き、ちょうどそれを開けようと手を伸ばしていたニールさんが顔面を強打した。すごい音したな………


「………………っ!!」

「うわ、すまんニール!遅いから迎えに行こうと思ったんだが………大丈夫、か?」


 犯人はフレデリック王子だった。

 ニールさんは顔面を押さえたまま動かない。ちょ、まじで大丈夫ですか?


「………みな、さま、どうぞ中へお進みください。」


 王子は無視?っていうかこの状況で中へどうぞって言われても。指の隙間から何か赤いの垂れてますけど?


 ぽんっ


「はい、治癒魔法。血はこれで拭きなさい。」

「ん………あぁ、これ鼻血か………。

 ありがとうございます、研究室長。ハンカチは遠慮します、自分のものを使いますので。

 ………殿下、扉はゆっくりと、ここのように内外両方に開く扉なら内側に開けるようにと常々申し上げているはずですが。説教は後程、改めてさせていただきます。」

「今のは、本当に、すまんかった。」


 ………緊張感が全部ふっ飛んじゃったな。


 どうしたらいいんですかこの状況、という念を込めた俺の視線に気づいたハロルドさんも、苦笑しながら肩をすくめる。万能貴公子でもどうにもならないらしい。


 皆と視線でどうするべきか相談していると、先に国王様の方から声がかかった。


「いらっしゃい、突然の呼び出しだったのによく来てくれた。さぁ、入って入って。」


 聡馬おじさんのようなゆるっとした話し方に少し安心感を覚えてしまったが、この国で一番偉いんだよなぁこの人………


 国王の他にもう一人、男性が座っている。こちらに背を向けていて顔はまだ見えないが、見える部分だけでも筋肉がすごい。肩とか特にやばい。金剛力士像。


「陛下、お待たせしてしまいました?あら、フローラ様はいらっしゃらないの?」

「夫人同士での昼食会、という名の仕事があるそうだ。あなたに会えなくて残念がっていたよ。ローレン嬢。」

「未婚だからって嬢はやめてくださいよ、もう四十過ぎてるんですよ?私が生涯独身だったらどうするんです。」

「ずっと嬢と呼ぶだろうね。君ならきっと齢八十を越えても美しいよ。」

「やだもー、すぐそういうこと言うんですからー。」


 なんかすごく親しげだな。

 俺としては、聡馬おじさんが母さんにキザな台詞を言っているようでちょっと面白い。


「よう、お互い素顔で会うのは初めてだな、孤高の黒と白銀の剣舞士。」


 こちらに背を向けていたもう一人の男性(金剛力士像)が、ヒューとハロルドさんに声をかけながらこちらを向いた。


「………っ!」


 父さんだ!?いや、父さんの同一人物だ、大丈夫、わかってる。

 俺の覚えてる父さんよりはちょっと老けてるし、何となく髪も赤茶っぽいけど………ヤバい、ちょっと涙出そう。気づかれないようにしばらく気配消しとこ。


「おお、本当にヒューゴは三人いるのか。ユルギスじゃない方はちょっとちっこいのな。」

「その声………エド、か?」


 え、冒険者ギルドの試験官さん?


「あなたが協力者なのですね、アレス騎士団長。」

「うへぇ、違和感がすげぇな。ハワードの時はもっとチャラいだろうが。」

「そちらこそ違和感の塊ですよ。あのエドが寡黙で凛々しい騎士団長と同一人物とは思えません。

 ハロルド・ウィリアムズとしては初めまして、ですね。」


 きし、だんちょう?あれ、そういえば軍と騎士団って別物なのか?ギルドでは軍人って言ってたから同じかな。


「話は聞いてるぜ、ユルギスは前にギルドで会ったしな。改めて、俺はエドガー・アレス。テルミニシア王国騎士団長だ。」

「ユウト君が冒険者登録した直後、すごく困惑した声で連絡してきたのよ。ユルギスって名前の、凄まじい運動神経のヒューゴをヒューゴが連れて来てるんだが何か知ってるか?って。」

「あん時はまだこいつらの事情聞かされてなかったんだぞ、困惑も混乱もするだろ。」

「それはそうでしょうね。ふふ、面白かったわ。

 こんな感じで、彼と私は個人的に友人よ。仕事で絡むことも多いわ。」

「友人っつか、腐れ縁だよこいつとは。

 俺は普段騎士団長をして、こないだは無理やり休み取らされたから暇持て余してギルドに………おいユルギス、どうした?」

「ユウト?大丈夫ですか?」


 ………別のことに意識向けようとしてみたけど、大丈夫じゃないかも。やっぱ無理。父さんと母さんが目の前で、揃って話しているなんて。


 二人が並んでいる所を見ると、どうしても両親の最期の姿が脳裏にちらつく。濁った血溜まりの中、俺だけでも助けようとこちらに手を伸ばしていた父さんと、明らかにもう動きようがない母さん。


 今思い出してどうするんだ。

 考えるな、振り払え。

 目の前にいるのは俺の両親じゃない。


 そう自分に言い聞かせるも、視界は歪み、頬に涙が伝うのを感じる。慌てて目元を手で覆ってはみたものの、さすがに手遅れだよなこれ。早く、早く大丈夫だって言わないと。


「………っ。すみません、大丈夫、です。」

「ユウト君、もしかして私?またお母様のこと思い出させちゃったのかしら。ごめんなさい、大丈夫?」


 思い出しちゃったのはそうですけど、ローレンさんは何も悪くないんで謝るのやめてください、なんか余計泣きそうです。


「あ………この人、ユウトのお父さんじゃないですか?写真見せてもらいました。」

「はぁ?俺ぁまだ独身だっつの。」

「嘘っ、私の夫こいつなの!?」

「………まさか、異世界では結婚してんのか?俺ら。」

「そうみたい。向こうの私とその夫は、息子のユウト君を事故から庇って亡くなったと聞いたわ。」

「そいつぁまた………微妙な気分になる話だな。反応に困る。」


 父さんと母さんもラブラブというより親友とか、頼れる相棒って感じだったな。

 ………俺がいなければ、今もきっと。


「………ニール、隣の部屋空いてるよな。」

「はい。陛下、トキ様は少し休んでいただいた方がよろしいかと思います。彼には私がつきますので、先にお食事を始められてはいかがでしょうか。」

「この後も予定があるしね………。うん、頼むよ。」

「いえ、だいじょ、ぶです、から、っう………」


 落ち着け落ち着け。何のためにこの世界に来たんだよ、こういう時に説明手伝うためだろ!


「ぐずぐずじゃないか、無理するな。俺も行きます、父上。」

「私が行くよ、こちらにはヒューとファウスト君がいれば」

「お前は構い過ぎるから駄目だ、ハロルド。

 昼食もあっちに運ばせよう。腹減ってるだろ、ユウト。」

「あの………だ……あ………」


 大事な話だからちゃんと参加しますって言いたいけど、もう口を開いても呻き声のようなものしか出ない。涙は止まらないし、こんな情けない顔を人に晒し続けるのもちょっと。


 ………残ってても気を使わせるだけか。ここはお言葉に甘えて退出させてもらおう。





「お騒がせしてすみませんでした………」

「気にすんなって。俺達は隣で飯食ってただけだし。」


 それがありがたかった。話しかけてきたりしないで、ただそこにいてくれるっていうのが。


 今、この部屋にはフレデリック王子とニールさんと俺だけ。俺が落ち着くまでそっとしておいてくれた。


「この鉄面皮ニールでも、死んだ家族がまた目の前で元気に話してたりしたらそうなるわ。」

「ええ、そうですね。もし殿下が亡くなってから私の前に現れてもそうはならないかもしれませんが。」

「ひどいな。ってか、俺は意地でもお前より長生きするからそんなことにはならない。だろ?」

「勿論です。先に死なれては私の仕事がなくなります。」


 軽口みたいに言ってるけどこれ、王子殿下に何か起こる前にニールさんが守るから先に死ぬ可能性が高いって話じゃないのか?

 ………それがわかる程度には、俺の頭も回るようになってきたみたいだな。うん、もうだいぶ落ち着けたっぽい。


 頭から血が引いて思考が止まるような、鼓動が速くなるのを自分で感じるような、強い悲しみと不安感。両親の死後しばらくの間はよく発作的に襲われていた感覚。あれほどキツいのは久々だった。

 人前であんなに取り乱すとか、やっちゃったな………あー、どんな顔してあっちの部屋に戻ればいいんだ、これ。


「俺は泣いてやるから心配すんなよ、ニール。」

「そんな心配はしていません。

 トキ様、落ち着かれたようでしたらどうぞ。軽食ですが、今はこちらの方が喉を通るかと思いまして。足りなければしっかりとしたものをお出ししますが、いかがなさいますか?」


 ありがとうございます、今はこっちの方がいいです。


「しっかり食べとけよ。腹減ってたら気分も暗くなるもんだからな。

 小難しい話はあっちに任せておこうぜ、俺もお前の話聞きたいし。異世界のニールのこととか。」

「私は異世界の社会制度や文化に興味があります。お話を聞かせていただけませんか?今日の殿下は何の予定もない暇人ですので、付き合って差し上げてください。」

「暇人なんじゃなくて、今日は休みにしてあんだよ。お前も休み取りゃ良かったのに。」


 ………この世界の従者とか専属メイドさんって、主人に対して慇懃無礼がデフォルトなのかな。ニールさんとかダンさんとかステラとか。


「お、少し表情が緩んだか?」

「そうですね。しばらくこの調子で話し続けましょう。」


 ?


「すみません、聞き取れなかったんですけど。」

「いえいえ、今のはこちらの話です。冷やしたタオルもありますので、目の赤みが消えるまでもう少し、私達とのお喋りに付き合ってください。」

「………ありがとうございます。」


 ほんと、周りの人に助けられてばっかりだな、俺。

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